21

「それにしてはなかなかいい拳だった。よく鍛えているね」


「それはどうも」


 レイトはいって駆け出す。かなり体勢が低い。その速度は一気に最高速度になり、相手の懐に潜り込む。レイトはそのまま拳をつきだす。それは防御されたが無理やり振りぬく。隊長はふっとび体勢を崩した。そこにレイトは追撃する。今度は蹴りだ。蹴りは顔面にクリーンヒットし、意識を奪ったかに見えた。しかし、隊長は立ち上がった。


「いやあとんでもないね。まるでバケモノだ。カタハネがなければ意識を持っていかれてたところだよ」


 蹴りの瞬間、隊長は横に飛行した。


「久々に血がたぎるよ」


 隊長の目つきが変わった。


 今度は隊長から踏み込んだ。一歩がかなり長い。カタハネを使って重力をうまく操作しているのだろう。あっと言う間にレイトの懐に潜り込み隊長は攻撃を繰り出す。その一撃は軽い。しかし畳み掛けてくる。レイトは防御に回るしかなかった。膝が防御の外からまともに入る。その隙を見逃さなかった隊長が何故か手刀を振った。レイトの背筋がぞわりとする。これはやばいと本能が感じ取った。レイトは無理やり上体を逸らす。直後その上を何かが通り過ぎる。レイトの髪の先が切断される。レイトはその体勢からバク転して距離をおいた。


「ほおよく避けたね」


 それは肉を引き裂く空気の刃、かまいたちだった。


 レイトは考える。あんなのにどう対応すればいい。反則的だ。


 レイトにかまいたちを受け止めるすべはない。なら避け続けるしかない。


「安心したまえ。加減はしている。もっとも人体に向けたことはないから加減の具合はよくわからないがね」


 隊長は手刀を縦にふる。レイトは横に飛びそれをさける。するとそこに二刀目が迫ってくる。今度は横だ。レイトはそれをかがんでさける。そこを狙われた。隊長はかまいたちと共に距離をつめ、顔面へ蹴りを繰り出していた。それはクリーンヒットする。レイトの奥歯が数本飛んだ。しかしレイトは倒れずに持ちこたえた。


 レイトは口に流れだした血液を吐き捨てる。


「がんばるね。なにがそこまで君を駆り立てるんだい」


「ネイナを守る……そう約束したんだ」


 ――だから負けられない。


 レイトは踏み出す。かまいたちが迫り来る。それをレイトは前に出ながらかわした。速度を殺さず。そのまま突き進む。


 今度は二刀同時だった。空中に回転しながら飛んでそれもさける。


「甘いね」


 懐には入ろうとした瞬間その目の前で手刀が振られようとしていた。


 ――それをレイトは左手で受け止めた。左手の肉が引き裂かれる。レイトの左手に焼けるような激痛が走る。しかしレイトは止まらなかった。レイトは渾身の一撃を顎めがけて放った。


 それは見事に決まった。


 今度こそ隊長の意識を奪った。レイトの勝利だった。


 レイトはようやく息をつくことができた。


「よおレイト。勝ったか」


 ラゴリが意識を取り戻したようだった。


「いってえ。あのおっさん思い切りなげやがって」


 ラゴリは頭を押さえて言う。


「おまけに人を切り裂こうとまでしてきたよ」


 レイトは膝に手をついて息を整えながら何とかそう返した。


「レイト!」


 急にラゴリが叫んだ。レイトはラゴリが見ている先を振り返って気づく。隊長がまた立ち上がっていた。しかしその目には光が宿っていなかった。それはほとんど無意識に近い状態だった。


 レイトめがけて加減の一切ないとても大きなかまいたちが放たれた。レイトはそれをなんとか避けた。それから気づいた。かまいたちのその先にはネイナがいることに。


「ネイナ!」


 大きな音を上げて粉塵が舞う。レイトは呆然としていた。そして粉塵が徐々に晴れていく。


 ネイナは――無事だった。その手前の地面にかまいたちはあたったようだった。


 レイトは胸を撫で下ろした。しかし、すぐにそれは起こった。


 かまいたちのあたった地面が崩壊しだしたのだ。その崩壊はネイナの側まで広がっていく。


 ――まずい。


 レイトは走った。しかし、ネイナはその崩壊した地面にのまれた。


 レイトは飛んだ。そして空中のネイナを抱きしめて、そのまま落下していった。


 最後、ラゴリが二人の名前を叫ぶ声が響いた。

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