19
レイトはネイナと別れ、寄宿舎を後にした。レイトは本当は今すぐネイナを連れ去っていきたかった。しかし、まだその時じゃない。今動いたってすぐに捕まるだけだった。
仕掛けるのは明日。ネイナの護送の時だ。
「おうおう、怖い顔しやがって。今からそんなんだともたないぞ」
道端でラゴリが待っていた。
「俺にも手伝わせろよレイト」
ラゴリはそういってにやりと笑う。
「でも、危険かもしれないよ」
「レイトは水臭いよなあ。もっと頼ってくれていいんだぜ親友」
親友。その言葉にレイトは頼もしさを覚えた。
「それに相手は危険種とか暴走したカタハネじゃないだろ? 無理はしないはずさ」
確かに殺される危険性は少ないはずだ。ただ怪我を負う可能性は十分にある。
「子供ならなおさらね!」
声のした方を見ればそこには子供たちがいた。
「おい流石にガキは……」
「うるせーラゴリ! 俺達だってネイナお姉ちゃんを助けたいんだ!」
そうだそうだと子どもたちは騒ぎ出す。
「あーうるせーうるせー! 怪我しても知らないぞ」
「望むところだ!」
子供たちは何が何でもついていく覚悟をしていた。レイトはそれを感じ取って、そして決めた。
「わかったよ。みんなでネイナを助けよう」
みんなは声を合わせて気合を入れた。
レイトたちはすぐに神殿階層に向かった。明日とは聞いたがそれがいつごろかは不明なため先回りして待ち受けることにしたからだ。地形を把握しておく必要もある。
神殿階層は立ち入りを禁止されている。それは聖なる場所だとされている事と、聖獣がいた頃の名残からだろう。だからレイトは興味を神殿階層に向けたことはあまりない。
神殿階層に繋がる螺旋階段は少ないが複数ある。レイトたちは恐らく当日使われるであろう螺旋階段はさけて、隅のほうの螺旋階段に向かった。
螺旋階段の入口には当然鍵が掛かっていた。しかし鍵は随分と古い簡易なもので比較的簡単に壊すことができそうだった。ここが全く使われていない証拠だろう。
「よっしゃあ俺の出番だな!」
ラゴリがカタハネを使う。鍵はあっけなく壊れた。
レイトたちは螺旋階段を登り、神殿階層に足を踏み入れた。
神殿階層は他の階層に比べると随分と小規模な階層だった。レイト達は階層を歩いて回る。しかし、中心に神殿らしき古い建物があるだけで他は森が広がっているだけだった。
レイトたちはその神殿に向かう。ネイナの護送先はここだろう。的は一つに絞れた。
レイトたちは神殿のなかへ慎重に足を踏み入れる。神殿内に人の気配はなかった。
「だれもいないし、なにもねえな」
神殿は簡素な作りで、少し奥に進んだところに大きな扉があるだけだった。その扉は大樹の中に入っていく作りになっている。
「なんだろうなこの扉。大樹の中に入れるなんてしらなかったぜ」
扉はあかなかった。おそらく特別な仕掛けが施されているのだろう。
レイトはルシカのことを思っていた。もし本当にルシカがいるならこの奥だろう。こんなに何もないところでルシカは本当に生活しているのだろうか。レイトはすこし心配になった。
レイト達は神殿の入口の近くの森の影に潜んで、ネイナが護送されてくるのを待つことにした。
それからしばらく、夜が明けて日が昇ってきた頃、思ったよりも随分と早く奴らはやってきた。
奴らはたった四人だった。一人は長老会の長老と思われる。ほかはアポストロスの護衛だ。これは嬉しい誤算だった。アポストロス全員で護衛をするようなことはないと踏んでいたが、レイトはもう少し数は多いと思っていた。神聖な場所だからだろうか。それとも、大勢の人を連れてくるとまずいわけがあるのか。
しかし、その数少ないアポストロスの護衛が一番の問題でもあった。
「やっぱりミギがでてくるか」
その三人は顔をよく知られているミギだった。その一人は前に見たアポストロスの隊長だ。
レイトはふとネイナの姿が見えないことに気づく。レイトがよく目を凝らすと、ネイナは隊長に抱き上げられていた。ネイナは意識がないように見える。
「あいつら……! ネイナに何を!」
レイトは思わず飛び出しそうになる。それをラゴリが止めた。
「レイト! たぶんあれは眠らされてるだけだ。今は出るな。ミギ三人に真っ向勝負じゃ勝ち目はない」
レイトは何とか自分を静める。
「よしそれでいい」
「ごめんラゴリ」
「いいって。もう少し様子を見よう」
レイトはラゴリがついていてくれてよかったと思った。ラゴリは意外に冷静で状況をよく見ている。
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