16

「レイト! ほらおきて! 教会いくよ!」


 レイトは夢から目覚めた。その夢はやけに鮮明として残っていた。


 黒い影と対話する夢。レイトはたびたびその夢を見るようになった。それは危険種と暴走事件の後からだった。


「どうしたのレイト? ぼーとして」


「いや、なんでもないよ」


 レイトはその夢のことを深くは考えないようにした。夢は所詮夢、考えたところで意味などないだろうと。


 レイトたちはいつものように身支度を済ませ、教会へお祈りをしに向かった。それが終わったあと朝食を取り、いつもの三人で集まった。


 レイトたちが道をゆきながら談話していた時だった。


「最近なんかおかしいんだよな。カタハネが安定しないというかなんというか」


 ラゴリが唐突にそんなことを言い始めた。


「そうなの? 私はとくにかわらないけど」


 ネイナの意見は参考にならない。


「いや、ほんとだって。他の人達もいってたし」


「俺も最近、変な夢見るんだけど関係あるかな?」


「へー。どんな夢なの?」


 ネイナが問う。


「なんか黒い影が話しかけてくる夢」

「なにそれ? それだけじゃよくわかんないよ」


 レイトが夢のことを詳細に話そうとした時だった。前方に人垣ができているのがみえた。


「どうしたんだろ? なにかあったのかな」


 レイトたちはその人垣の方へと歩を進めた。


 一番背の高いラゴリが背伸びをして人垣の上からその中心を覗く。


「なんか知らせの紙が貼りだされてるみたいだ」


 ラゴリにその内容までは見えなかった。


 しかし、そこに集まっている人々の会話からその内容を知ることができた。どうやらお祭りが執り行われるという知らせのようだった。お祭りは大樹の塔で定期的に行われている。それなら別に何も珍しくはないはずだった。


「すみません。お祭りってなんのお祭りですか?」


 レイトは事情を知っていそうな人に質問した。


「ああ、大樹の巫女のお祭りだよ。しかも五日後らしい」


 レイトはそれを聞いて凍りついた。大樹の巫女の祭りが執り行われるということは新しい巫女が決まったということだ。巫女が選出されるのは長い期間に一度。それはずっと先、何十年とあとのはずだった。


 レイトはルシカのことを考えていた。ならルシカはどうしたのだ。もしかしてルシカの身に何かが起きたのではないか。


「……レイト大丈夫?」


 ネイナがレイトの様子に気づいて心配そうにいった。


「ネイナ」


 突然レイトたちの後方からネイナの名前が呼ばれた。レイトたちが振り向くとそこには中年ぐらいの男性が立っていた。レイトはその顔に見覚えがあった。


「ネイナ、今すぐ来なさい。長老会から召集がかかった」


 彼はそう言って歩き出した。


「わ、わかりました隊長! ごめん、私いくね」


 ネイナはそういって慌てて彼の背中を追った。


 ネイナは長老会が直々に指揮する『アポストロス』という組織に所属している。アポストロスは特に優秀な人材とミギで構成されている。ミギはこの組織に所属する義務があった。


 先ほどの男性はそのアポストロスの隊長だったようだ。


 アポストロスの主な仕事は不測の事態に対処し、その圧倒的力で事態を収拾することだ。たとえば先の事件の浄化や聖獣の殲滅などがそれに当たる。なので有事の際以外は基本的に召集はないはずだった。


「なんだろうな召集だなんて。まるで何かが起きたみてえじゃねえか」


 レイトは本当になにかが起こったのではないかと考えた。奇妙な夢、カタハネの不調、新しい巫女、急な召集。レイトはそれらが何かの予兆だと思えてならなかった。


 ネイナはその日、再びレイトたちの前に姿を表すことはなかった。

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