14

 危険種と暴走事件から数ヶ月。その日は太陽の日差しが眩しく、なにもしないでも汗をかくほど暑い一日だった。


 レイトたちは大樹の塔一階――海階層に遊びに来ていた。


 海階層はその名の通り海に面している階層だ。主に漁師がこの階層を利用しているが、気温の高い時期になると遊び目的で訪れる人も増える。


 塔内部にも海水が流れ込んでいる場所があり、そこは海水浴場として使われている。浅瀬の海で子供でも安全に遊べる。


 海階層は厳密に言うと一階ではない。その下にも塔は続いているからだ。本当の一階は遥か海の底である。海に没している階層は海洋生物たちの住処となっているようだ。


「よかったね。あの子たち、怪我も治って元気になったみたい」


 今日は大勢の子供たちも一緒だった。もちろん件の子供たちも。今はラゴリの周りに群がって一緒に騒いでいる。あの一件以来、ラゴリの誤解は解けたようだ。


 子供達を一緒に海に連れてこようと言い出したのはレイトだった。理由は件の子供たちのことでだ。件の子供たちの体には痛々しい傷跡がまだ残っている。そして目に見えない傷も。


 レイトは頭のない状態ではあったが、ケモノの姿を目にしていた。それだけでもレイトはおぞましくてたまらない。聖獣と呼ばれた生物があんな姿をしていたとは想像だにしなかった。


 子供たちはそれの完全な姿をみたのだ。さらにそれに殺されそうになった。その恐怖は凄まじいものだったろう。今はああして子供たちは元気な姿を見せているが、夜まぶたを閉じるとその恐怖が蘇ってうまく寝れないそうだ。よく見れば件の子供たちは少しやつれているのがわかる。


 心の傷を癒やすのは難しい。だからレイトは少しでも楽しい思い出を子供たちに作ってあげたかった。恐怖の記憶がすこしでも薄れるように。


「ところでレイトはなんでずっとそっぽを向いているの?」


「い、いやそんなことないよ」


 レイトは明らかにネイナの方に顔を向けないようにしていた。


「ははーん。さては私の水着姿にどきどきしているな?」


 今日は海。当然みんな水着姿だ。


「ち、違うよ」


 図星だった。


「隠さなくてもいいんだよ?」


 そういってネイナはレイトの腕に抱きつく。


「ちょ、ちょっとネイナ! 離れて!」


 しかしネイナはレイトに頭をあずけて囁いた。


「レイト。あらためてありがとう。あの子達の命を救ってくれて」


「……うん」


 レイトはどうにも動けなくなった。


「あー! 何やってんだハネナシ! ネイナお姉ちゃんから離れろ!」


 その二人の様子を見た子供が言った。そして、子供たちは束になってレイトに突っ込んだ。子供たちのレイトへの態度は幾分軟化したようだが、ハネナシ呼ばわりは変わらない。


「よっしゃあ! 俺も混ぜろ!」


 何故かラゴリまでレイトに突っ込んだ。しかしレイトはそれをしっかりと腕で受け止め、そのまま放り投げた。ラゴリは水しぶきを上げて海に沈んだ。少ししてラゴリは起き上がって叫んだ。


「レイト! ここ浅瀬なんだからなげんじゃねえよ!」


 子供たちは爆笑だった。レイトもネイナもラゴリも笑っていた。みんな、笑顔だった。

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