12

 『ケモノ』は突如としてリーダー達の目の前に現れた。


 なんだこれはとリーダーは思った。それが最初生物には見えなかった。明らかに異質だった。吐き気を催すようなその異形は人の理解の範疇を超えていた。


 それからしばらく、リーダーは何が起こっていたのかわからなかった。心が恐怖の色に染まって、何も認識できなかった。


 ただ気づけば体中がひどく痛んだ。このまま意識を失ってしまえればどんなに楽だろうかと思った。しかしそれをケモノは許さなかった。


 ケモノは子供らをなぶって楽しんでいた。命を奪わないように、意識を奪わないように慎重に。でも確実に傷めつけて。


 悲鳴が上がる。子供が一人、転がった。子供は泣き叫ぶ。いたいいたい。


 子供がケモノに捕まった。たすけてたすけて。


 だれかだれか。リーダーは救いを求める。だけれど、だれも救いには来ない。


 リーダーは思う。なら自分がたすけなきゃいけない。


 リーダーはケモノに向かってめちゃくちゃにカタハネを放つ。まるで効いている様子はない。それでもカタハネを使い続ける。途端、体から力が抜けてリーダーは倒れた。あっという間に限界はきた。


 それでも助けなければいけない。リーダーは腕を必死に伸ばしてカタハネを使い続けた。


 ケモノの大きな口が開く。糸を引いてゆっくりと。


 やめろ。


 鋭くおぞましい牙がむき出しになる。


 やめろ。


 子供が食われようとしていた。たすけてたすけてたすけて。


 やめろ。


 やめろ。


 やめろやめろやめろ!


 ――絶叫。


 リーダーの頭に大量の赤黒い液体が降りかかった。それは血だった。


 静かだった。泣きわめく声も、助けを呼ぶ声も聞こえない。まるで時間が止まったようだった。リーダーはその中で一人、ゆっくりと立ち上がった。


 リーダーはケモノを見上げる。そこにあるはずの大きな頭はなくなっていた。


 そしてリーダーの背中には黒い片翼が生えていた。

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