06

 レイトたちは居住階層に帰ってきた。ラゴリとは途中で別れ、二人と一頭はレイトの家に向かった。


 今日はネイナがレイトにご飯を作ってくれるようだ。


「ねえ。せっかくだから馬に名前つけない?」


「いいね。どんな名前がいいかなあ」


 そう言ってレイトは馬を撫でる。


「わたしはかわいい名前がいいな」


「こいつにかわいい名前かあ」


 でかい図体。洗練された筋肉。凶暴な顔つき。可愛さはどこにもない。


「やっぱかっこいい名前じゃない?」


「えー。まあレイトの好きにしたらいいけどさ」


 ネイナはちょっとむくれて言う。


「かっこいい名前か。そうだ韋駄天ランナー2号なんてどう?」


 そのネーミングセンスはどうなのだろうか。2号ということは1号があったのだろうか。


「うーんどうだろ。どうだいお前?」


 とレイトは馬に聞いてみる。馬は精一杯渋い顔をつくった。


「すっごい嫌そう」


「わがままだなあ。レイトはなんかないの?」


「うーんそうだな」


 レイトは唸りながら考える。


「……イブニルなんてどうかな?」


「おー。なんかそれっぽい名前」


「どう?」


 レイトは馬に再び尋ねる。馬は嬉しそうに嘶く。どうやら気に入ってくれたようだ。


「よし。じゃあお前はイブニルだ! これからよろしくね」


「よろしくねブニちゃん!」


 ネイナは早速よくわからないアダ名をつけた。




 二人はレイトの家に到着した。


「夕飯作るね」


 まだ夕食には早い時間だったがレイトは昼食を抜いていたのでお腹はぺこぺこだった。


 ネイナはなれた様子でエプロンを付け料理道具を取り出す。ネイナはよくこうしてレイトの家に料理を作りに来る。ネイナいわくレイト一人だと何を食べているのか心配になるからだそうだ。


「そうだブニちゃんにもご飯あげなきゃね」


「馬って何食べるの?」


「牧草、かな? たしか人参が好物じゃなかったっけ」


 たしかこのへんにとつぶやきながらネイナは食品棚を漁る。


「ほら隣の農家さんから頂いた人参。あんまり量はないけどこれ食べさせてあげて」


 はいよーと答えてレイトは人参を受け取る。


 レイトは庭に繋いでおいたイブニルのもとに向かう。


「ほらご飯だよー」


 イブニルは待ってましたとばかりに嘶く。


「よしよし。今日は少ないけどこれだけで我慢してな。明日にでも牧草もらってくるから」


 レイトは人参を持ってイブニルの口元に近づける。イブニルはもそもそと口を動かして、人参を頬張る。ボリボリと美味しそうに咀嚼していた。


「おお。なんか楽しいな」


 嚥下し終わったところでまた人参を差し出す。レイトは人参を食べるイブニルをにこにこと眺めながら、人参がなくなるまでそれを繰り返した。


 レイトが家の中に戻るといい匂いがしてきた。それに釣られるようにレイトのお腹が盛大に鳴った。ネイナはくすりと笑う。


「もうちょっとまってね」


 しばらく待つとネイナがお待たせと言って料理を運んでくる。レイトも手伝う。


「さあどうぞ!」


 二人は席についていただきますと手を合わせた。


 早速レイトは一口食べる。しっかりと噛んで嚥下し、そして「おいしー!」と満面の笑みでいった。


「レイトくんの最高の笑顔、今日も頂きました!」


 やったねとネイナは親指を突き出す。


 ネイナはかなりの料理上手だ。レイトが同じレシピで作ってもこうはならないだろう。


 レイトは夢中で食べ進めていく。もりもりと料理は減っていき、あっという間になくなってしまった。


「ごちそうさまー。あー今日も幸せでした」


 レイトはお腹をぽっこりと膨らませて満足したように言う。


「はーいおそまつさまでした」とネイナは笑顔で応える。


 ネイナは自分の分によそっておいた料理を少しずつ食べている。その量は少ない。


「全部食べちゃった後に言うのも何だけど、ネイナもっとたべたほうがいいんじゃない?」


 レイトは昼のネイナを受け止めた時のことを思い出す。


「これでも女の子だから気にしてるんです-」


「でも、ちょっと心配だよ」


「心配してくれるのは嬉しいけど、女の子はそういうものなの」


 レイトはネイナがそう言うならそういうものなのだろうと理解し、それ以上は何も言わなかった。女の子とは不思議なものである。

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