05

 森階層には川がいくつも流れている。その水は階層を下って居住階層まで流れ込んでいる。


 一匹の鹿が川の水を飲みに来ていた。瞬間、そのすぐ近くに矢が突き刺さった。鹿は驚いて逃げ去る。


「また外した……」


「レイトはホント弓下手くそだな」


 ラゴリが腹を抱えて笑っていた。レイトはぶすっとしてご機嫌斜めだ。


 ラゴリが着々と獲物を狩っているなか、レイトの収穫はいまだ0だった。レイトに弓の腕前はないらしい。


 ネイナはというと狩りには興味が無いらしく、果実を集めていた。それをつまみ食いして、腹が膨れてねむくなったのか今はお昼寝している。


「お、あそこに狙いやすそうな獲物が」


 そこには立ち止まってキョロキョロとしている狐が一匹いた。


 ラゴリは弓を引いて狙いを定めた。そして矢を放つ。


「まった!」


 弓から離れた瞬間にレイトはその矢を掴んだ。


「え! ちょっお前どうやったそれ?!」


「みてみろよ」


 ラゴリのいうことを無視してレイトは促す。


「ああ何だ。母ちゃんだったか」


 よたよたと数匹の狐の赤ちゃんが母狐のもとに歩いてきた。母狐は寝転がってお乳をやり始める。


 二人はその様子を笑顔で見守っていた。


「お母さん……もうのめないよお」


 ネイナが寝言でそんなことを言うものだから二人は思わず吹き出した。こちらにも随分と大きな赤ちゃんがいたようだ。




「そろそろ帰るか」


 その後も狩りを続けていた二人。ラゴリは一人じゃ持ちきれないぐらいの獲物を狩っていた。対してレイトの収穫は0のままだった。レイトは膝から崩れ落ちて落ち込んでいる。


「まあ俺の分けてやるから」


「……ありがとう、ラゴリ」


 ラゴリとレイトは獲物を山分けして、帰る準備をした。


「おーい、ネイナー! 帰るよー!」


 レイトが大声で叫ぶ。ネイナは途中で昼寝から目覚めてどこかに行ってしまった。しばらく待ったが返事はない。


「どこまでいったんだネイナのやつ?」


 ネイナに危険が及ぶようなことはおそらくないだろうが、レイトは少し心配になった。


 すると、何かが地面をかける音が聞こえ出した。それは段々と大きくなる。二人の元へと何かが走ってくる。


 瞬間それは森の影から、姿を表した。それは嘶き前足を振り上げる。馬だ。それも普通のサイズじゃない。


 ついでに悲鳴を上げながら何かが降ってきた。レイトはそれを受け止める。ネイナだった。


 レイトの腕の中で「こわあ!」と喚くネイナは興奮状態だった。


「なにやってるのネイナ」


「馬! 馬鹿でかい馬!」とネイナは先ほど現れた馬を指差す。見ればわかる。


「のった! そしたら落ちた!」


 どうやらネイナはこの馬に乗っていて先ほどの嘶きとともに投げ出されたようだ。


「というかよく受け止めたな」とラゴリは感嘆する。


「私軽いからね」とようやく落ち着きを取り戻したネイナが言う。


「確かに軽いなあ。もっと食べたほうがいんじゃない?」


 レイトはそう言いながら、ネイナを宙に投げてはキャッチするのを繰り返した。


「私で遊ぶな!」


 そういうネイナはちょっと楽しそうだった。


「ところでこの馬どうすんだよ。なんか相当怒ってるぞ」


 確かにかなり興奮しているようだった。鼻息は荒く、レイト達を威嚇している。逃げないところを見ると相当プライドが高い馬らしい。ネイナに背中を取られたことが癪に障ったのか。


「捕まえようよ! こんな馬めったに見られないよ」


 ネイナは目を輝かせて言う。


「捕まえてどうするの?」


「うーん。そうだ! レイトの馬にすれば?」


 馬をもっている人は結構いる。広大な階層内の移動に重宝されるからだ。


「こんなでかいのいらないよ。普通でいいし、気性が荒いのはちょっと」


「なら俺がもらってもいいか?」


 とラゴリが言う。


「馬を持つのには憧れていてねえ。この馬なら俺様にふさわしい」


 ラゴリはどこから取り出したのか投げ縄を手に持っていた。


「行くぜ暴れ馬さんよお!」


 ラゴリがなげ縄を振り回して投げる。見事それは馬の首にかかった。


 しかし、馬もおとなしくはない。馬は暴れて投げ縄を外しにかかる。ラゴリは対抗するようにカタハネを使う。腕力を底上げしたのだろう。しかし、それでもラゴリの体は引きずられる。


「うおお! 流石に一人じゃ無理だレイト手伝って!」


 しょうがないなあとぼやきながらレイトが縄を手に取る。すると、馬の動きがピタリと止まった。


「なんだ大したことないじゃん。ラゴリ大げさ」


 レイトがくいと縄を引っ張ると馬の首もそれに追従する。


「ん? あれ?」


 ラゴリは当惑している。


 馬は何かを察した。そして、急におとなしくなった。それどころかレイトのそばに寄って、頭を下げ積極的に撫でられにいった。


「おおよしよし。なんだおとなしいやつじゃんか。これなら俺の馬にしても良かったかもなあ」


「おかしいな……まあいいか。これからよろしく頼むぜ相棒!」


 そういってラゴリが馬の頭を撫でようとした時、馬は一気に敵意をむき出しにした。


「……レイト、やっぱその馬やるよ」


「いいの? ありがとうラゴリ!」


 レイトは嬉しそうに笑った。

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