04

「おーい! レイト-!」


「お。噂をすればなんとやら。そのいじめっ子さんが来たみたいだよ」


 声のした方向を見れば一人の男が遠くに見えた。


「狩りいこうぜ-!」


「うわー! ラゴリだ-! にげろー!」


 子どもたちはその男が誰かわかって一目散に逃げ出した。


 その男は元いじめっこ少年、ラゴリだった。


「……なんで俺がくると子供は逃げるんだろう?」


「……さあね」


 ラゴリは大柄で顔が怖い。おまけにガラの悪そうな格好を好む。なので危ない人に見える。子供が怖がるのも当然だった。しかし、内面は元いじめっ子ではあるが結構いいやつでもある。子供も好きなようだ。


 レイト、ネイナ、ラゴリ。大抵はこの三人で連れ立っていた。


 なぜレイトとラゴリが仲良くなったのかというと、正直理由はよくわかっていない。ただ昔二人はよく殴り合いの喧嘩をしていた。


 レイトの体がしっかりとした物に変わり始めていたころだ。始まりはラゴリがネイナのことも馬鹿にしたことだった。レイトはネイナまで馬鹿にされたことに怒ってラゴリに殴りかかった。もちろん体格の差もあってレイトは負けた。しかし、それからレイトは馬鹿にされるたびにラゴリと喧嘩をするようになった。


 二人は来る日も来る日も喧嘩に明け暮れた。負けっぱなしだったレイトも次第に強くなっていき、互角の戦いをするようになった。そしてついにレイトがラゴリに勝った時、二人はいつのまにか親友になっていた。友情とは不思議なものである。




 レイトとネイナはいったん家に帰って朝食をとってから再度集まった。そしてレイトたちは狩りをするために森階層に向かった。


 森階層は6~10階にあたる階層だ。居住階層も結構な広さだが森階層はさらに広大になっている。森階層には人の何倍もの多種多様な動植物が生息している。


「つかれた。階段だるいわ。何か一気に登る方法はないものかね」


 レイトとラゴリは階をつなぐ螺旋階段を登っていた。階同士はいくつかの螺旋階段でつながっている。


「だらしないなあ。体なまっているんじゃないかラゴリ」


 レイトはつかれた様子もなく坦々と階段を登っている。


「あーあ。力の強いやつは楽できていいよな」


 ネイナはというとカタハネを使って先に行ってしまった。


「俺が飛行なんてしたら、普通に上る何倍も疲れちまうよ。そもそも出来無いけど」


 飛行は難しい技術だ。誰にでもできるようなものじゃない。


 カタハネは万能じゃない。ネイナくらいになれば万能と言ってもいいかもしれないが、普通はちょっとした補助程度の使いみちしかない。物を動かしたり、身体能力を底上げするといったかんじだ。発火を使えれば上々。


 カタハネは訓練をすれば強化できる。しかし、軽い発火を覚えれば大抵は訓練をやめる。それ以上の成長はほとんど見込めないからである。カタハネはもとの力の強さに依る部分が大きい。ミギでもない限り訓練を続けるメリットはない。


 カタハネは制限もある。まず体力を結構消費する。そして、使い続けると翼が濁る。濁りを消すには羽を休めなければいけない。濁りが濃くなり翼が黒く染まっていくと暴走を引き起こす可能性がある。


 カタハネが暴走するとそれは恐ろしいことになる。カタハネは使い手を混乱に陥れて暴れまわり、周囲の被害だけでなく使い手自身を傷つけることもある。だからカタハネの乱用はご法度だ。ネイナくらいになればその制限も緩いが。


 ラゴリはだらしないことを言っているが、こう見えてなかなかの使い手である。それで昔、幅を利かせていたのだ。


「遅い!」


 レイトたちが森階層にたどり着くと、ネイナがそう出迎えた。


「ラゴリがわるい」


「ネイナがはやすぎんだよ」


 ラゴリはそう言い訳する。


「レイトが本気出したら私の飛行スピードに追いつくよ?」


「いやそれは流石に嘘だろ」


 ラゴリはそう言って笑う。


 実は本当のことなのだが、レイトは別にどうでもいいので何も言わなかった。


「にしても森階層は気持ちいいなー」


 ラゴリは大きく伸びをして、新鮮な空気を肺いっぱいまで吸い込む。


 森階層は空気が澄んでいる。ちょうど太陽もレイトたちの方に射していてぽかぽかと心地良さそうだ。


 大樹の塔に側壁はない。側壁にあたる場所には柱が等間隔で並んでいる。天井は高く太陽の光は十分すぎるくらい射し込んでくる。


「さて、始めますか!」


 それを合図にレイトたちは狩りを始めた。

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