03

「ネイナおねえちゃんおはよー!」


 教会から出ると、その元気な声と共に子どもたちが一斉にネイナに群がった。


 ネイナは声に答えて、挨拶を返す。レイトも挨拶を返した。


「うっせー『ハネナシ』! お前にはいってない!」


 子どもたちのなかでは体が大きいリーダーの子供がそうレイトに返す。他の子供達もウンウンと頷く。


「こら! そんなこといわないの!」


 ハネナシとはレイトのことだった。レイトは未だカタハネを使うことができない。だからハネナシ。


 カタハネが使えるようになるのは大体歳が6をむかえた頃だ。それより早く使える者もいるし、遅い場合もある。だからレイトはもしかしたら、これから使えるようになるのかもしれない。しかし、レイトは16歳。いくらなんでも遅すぎる。だからレイトはとっくに諦めていた。


 原因は不明。前例はなく、解決策は見つかっていない。


 レイトはハネナシと言われるのにはなれていた。レイトは子供の頃からそう揶揄されてきたからだ。


「そんなことより見てよお姉ちゃん! 俺ものを浮かせられるようになった!」


 ネイナの言葉は聞こえなかったように無視をして、子供がカタハネを使った。すると道端に転がっていた石が5cmぐらい浮いた。


「すごいすごい! 上達したね」


 ネイナはえらいえらいと子供の頭を撫でる。


 子どもたちはカタハネが使えるようになると、その訓練を受ける。


 ネイナはその先生をしている。なぜレイトと同じ16歳のネイナが先生をしているのかというと、簡単にいえば優秀であるからだ。そしてネイナは『ミギ』でもあった。


 『ミギ』とはカタハネを使った時に翼が現れる側のことを指している。翼は普通左側に現れる。しかしまれに、右側に翼が現れるものがいる。だからミギ。


 ミギはその外見的特徴と力その物の特性を持っている。まずミギは極端にカタハネの力が強い。そして、普通カタハネはカタハネに干渉することができないが、ミギにはカタハネ自体に干渉する事ができる特性がある。その特性は日常的に必要になることはない。しかしその特性でしかできないことがある。ネイナは先生以外にその特性を活かした仕事を持っている。


 ミギは手の指で数えられるほどの人数しかいない。若い世代のミギはネイナだけだった。しかもネイナはその数少ないミギの中でも特に優秀らしい。だからみんなネイナには一目置いていた。子供にもよく慕われている。


「すこしはおとなになったねえ」


 ネイナがレイトをみてニヤニヤとしながら言った。


「昔はいじめっこにハネナシっていわれるたびに泣きべそかいてたのに」


「昔の話だろ」


 ちょっと恥ずかしそうにレイトは応える。


「あの頃のレイト、可愛かったなあ」


 ネイナはしみじみとしていう。


 昔の話だ。レイトはいじめっ子の標的にされていた。そしてハネナシと馬鹿にされていた。いじめっこはガタイが良くて、レイトはとても華奢だった。だから普通の力でもかなわず、ただ泣いてばかりいた。


 そんなレイトをいつもかばってくれる子がいた。それはネイナだった。ネイナはその頃レイトよりも背丈がすこし高く、強かった。いじめっ子と張り合える女子はネイナくらいだった。


『わたしがレイトを守ってあげる。一人にしないようにそばにいてあげる。だから安心して! 約束!』


 そういうネイナはとてもかっこよくて、レイトにとってネイナはヒーローみたいなものだった。


 レイトはネイナについて回っていたが、成長するに連れ次第にレイトの思いは変わっていった。


「俺だって強くなったんだ」


 守られるだけじゃ嫌だ。守りたい。その思いはレイトを次第に強くしていった。


「いまならまけないよ」


 体だって頑丈になった。ネイナより大きくなった。


「カタハネを使われたってね」


 そう自信満々で言えるくらいには強くなった。


「へえほんとかな。私にも勝てる?」


 ニヤニヤと意地悪そうにネイナは言う。


「うっ」ともらすレイト。ネイナは規格外だった。


 レイトは肉体の鍛錬をかかさずやっているが、ミギに絶対勝てるという境地までは至っていない。


「……ネイナ以外になら勝てる」


 なんとも情けない感じになってしまった。


 レイトは思う。まだまだ、だと。守られるんじゃない。守れるようにならなきゃいけない。そのためにはネイナよりも強くならなきゃいけない。レイトはより一層鍛錬に励むことを密かに決意する。

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