第31話 既触感

「おう、おかえり」

「ただいまー!」

「ただいまなのです!」


 看守に先導されて部屋に戻ると、例のごとくミラがベッドに寝転がってPDをいじっていた。クレアちゃんは大いびきをかいてお休み中。時差の関係で、こっちはもう深夜だもんね。照明も既に落とされている。


「どうだった? 千年前とは全然違っただろ?」

「うん! でも楽しかった!」

「そっか、そりゃよかった」


 ミラはそう言うとPDに視線を戻した。そうだ、ミラ……あなたは今、その画面で何を見てるのかな? あたしの情報? ……って、ダメダメ! 今までと同じように接しないと! でも、どうしても意識しちゃうよね……。


 と、自分のベッドに腰を下ろしたスモモちゃんが声をかけてきた。


「サクさん、どうしますか? 先ほどの続きをしますか?」

「あ、そうだね! しよっか!」


 あたしはそう答えてスモモちゃんの隣に腰を下ろす。こっちのベッドに座るのは久々だ。続きというのはもちろん、キスのこと。さっきの感触を忘れないうちに比較しないと——といっても、あんなの忘れられそうにないけどね。


 最初、あたしから唇を合わせようとしたら、鼻と鼻がコツンとぶつかってしまった。しかし、気まずさを感じる間もなくスモモちゃんの方から唇を合わせてきて、そのままたっぷりと時間をかけてお互いの唇を啄ばみ合ったのだ。


 その後、半開きになったあたしの口をスモモちゃんの舌が優しくこじ開けてきて、もう真っ直ぐ立っていられなくなって伊達政宗像の台座にもたれかかったところで、ちょうどバーチャル仮釈放が時間切れとなったのだった。


 水を差されたような感じになったけど、あのまま続けてたら倒れてたかもしれないから正直助かった。現実世界に戻ってからもしばらくカプセルの中にしゃがみ込んで動けなかったぐらいだし。


 性感の完璧な再現はできないって話だったけど、十分できてるじゃん! そう思ったのだけど——


 ベッドに並んで腰掛けたまま横向きになって、お互いを優しく抱き寄せる。そして、今度はちゃんと顔を傾けながら、スモモちゃんの柔らかい唇にそっとタッチした。


 リベンジ成功! ——と思った瞬間、猛烈な快感が全身を駆け巡った。もう、この段階で全然違う。身体の力が一気に抜けてとろけそうになり、スモモちゃんと一体化したままベッドに倒れこんだ。そのまま、お互いの唇を啄ばみ合う。


 そして数分後——数秒後だったのかもしれないし、数十分後だったのかもしれないけど——さっきと同じように、スモモちゃんの舌があたしの口を優しくこじ開けてきた。ここから先は未知の領域だ。


 スモモちゃんの舌があたしの唇の裏をゆっくりと舐めていく。なにこれ! やばいやばい! 理性飛んじゃいそう! スモモちゃんがあたしの歯列をこじ開けて舌を絡ませてきたときにはもう、すっかり夢見心地になっていた。


 うん、納得した。ここは間違いなく現実世界だ。こんな幸福感でいっぱいの快感、人工的に再現できるわけがない。っていうか、再現されてたまるかって感じ?


「はぁ……スモモちゃん……もう我慢できなくなっちゃった……!」

「お、ということはそっちも解禁なのですね?」

「うん、ついでにあたしの処女もあげちゃう!」

 まさか女の子にあげるとは思ってなかったけど、スモモちゃんならいいよね! ちょっと怖いけど、あげられるものは全部あげるって決めたんだし! 多分、手持ちのアイテムはこれで全部かな?


「はうぅ! それはつまり、私のことが好きということでよろしいのですか?」

「んー、それはまだ保留!」

「うにゅー。なんかもう、色々順番がおかしいのです!」

「気にしない、気にしない!」

 元々、身体からの関係みたいなもんだしね。最初からおかしかったのに、今さら順番を気にするのもおかしな話だ。


 っていうかさ、あたしはヘロヘロなのに、スモモちゃんは随分と余裕そうじゃない!? よく考えたら、キスも結局ずっとリードされっぱなしだったし……なにこれ? 経験値の差ってやつ? うぅ……なんか悔しいなぁ……。


 そんなことを考えている間に、スモモちゃんは手際よくあたしの服を脱がせてくる。あたしも何かしようとしたら、「今夜はおとなしく私に任せるのです!」と言われてしまった。


 程なくして、スモモちゃんの指がゆっくりとあたしの中に入ってくる。注射を打たれる瞬間みたいにちょっと身構えちゃったけど……あれ? 思ったほど痛くないかも? 個人差あるって言うもんね。でも……


「うーん、なんか変かも……」

「痛いのですか?」

「痛いわけじゃないけど……」


 なんだろう、この既視感……じゃなくて既触感? 自分で指を入れたりした覚えはないんだけど……。


「スモモちゃん、一旦止めてくれる? なんかまずい気がする」

「怖がる必要はないのです!」

「いや、そういう意味で怖いわけじゃなくて……」


 間違いない、あたしはこの感触を知っている。これは……


「……! ごめん、スモモちゃん! 止めて! 止めてー!」

「どうしたのですか? 大丈夫ですか?」

 さすがに異変を察知したらしいスモモちゃんが手を止めてくれたけど、もう手遅れだった。


「大丈夫じゃない……」


 あたしは全てを思い出してしまった。

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