第4章 現実

第38話 表の記録

「何これ!? 意味わかんないんだけど!」


 目の前に浮かんでいるのはミラのPD。そこに表示されているのは千年前の自分の裁判記録。


 鴨葱のやつ、公的記録はあれしか残ってなかったって言ってたけど、ちゃんとあるじゃん! っていうか、よく考えたら詳細な記録が無いわけがないんだよね。だってさ、あんなたった一行の情報だけで人を刑務所にぶち込むのはどう考えても無理なわけで。


 いや、それを言ったら、この裁判記録を基に人を刑務所にぶち込むのもかなり無理があるけどさ。


 内容を要約すると——


 少年A、B、Cを相手に売春行為を行っていた被告人は、支払い金額を巡る口論中に突然激昂して付近にあったコンクリートブロックを手に取って三人に襲いかかり、少年Aを殺害して少年Bに重傷を負わせた。


 ——みたいな感じだった。


 何それ、酷くない? あたし、援交なんてしてないし! しかも、こっちが一方的に殴りつけたとか、どんな言いがかりだよ! むしろ、あいつらに一方的にボコボコにされたんだけど!


 三人の外見的特徴は書かれてないけど、多分、少年Aがデブで少年Bが金髪ゴリラかな? あの状態のデブが一命をとりとめたとは思えないし。ってことは、金髪ゴリラは死ななかったんだね……。


 でも、あれ? 鴨葱が持ってきた情報だと、もう一人殺したことになってなかったっけ? と思ったら——


 被告人はまた、被告人からの逃走を図った少年Cがビルの外階段から出てくるところをタイミングを計ってビルの屋上から飛び降り、体当たりによってこれを殺害した。


 ——ということらしい。


 なるほど、あのときぶつかりそうになったのは、ちょうどビルから出てきたロン毛だったんだね。そっか、一瞬女性に見えたのは髪が長かったからか。


 確かに言われてみれば、狙いをつけて体当たりして殺そうとしたと思われてもしょうがないよね……って、できるか、そんなこと! 馬鹿じゃないの!? できるできない以前に、しないだろ! しかも、自分も思いっきり死にかけてるし!


 まあ何にせよ、通りすがりの無関係な人を巻き込んだわけじゃなかったことが千年越しに分かって一安心だ。しかも、あいつがクッションになってくれたお陰であたしは助かったらしいし、皮肉なもんだね。




 とにもかくにも、こうしてあたしの”有罪”の内容が明らかになったわけだけど……


「っていうかさ、裁判官も馬鹿じゃないの!? こんなどう考えても意味不明な判決出して、恥ずかしくなかったのかな?」

「ああ、その辺はなんか、三人の親が金と権力の力を使ったらしいぞ。どっちも今の時代には無いものだけどな」

「金と権力?」

「その辺は、こっちの情報を見れば分かる」

 ミラが再び自分のPDを見せてきた。

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