第37話 もう誰も助けない

「ミラ、話があるんだけど」

「ああ、そろそろ来るかと思ってた」

 あたしがバーチャル面談室から戻るなり単刀直入に切り出すと、ミラは大して驚いた様子もなくそう答えた。


「あたしの解凍を依頼したのって、ミラ?」

「いや、違うぞ。サクのことは、ここで会うまで知らなかった」

「だよね。じゃあ、鴨葱?」

「かもな」

「鴨葱って、あいつ何者なの? あたしを襲った奴と同じ目をしてたんだけど。さすがに本人じゃないよね?」

「ああ、目が同じだったのか。そりゃあいつも迂闊だったな」


「答えになってないよ……。っていうかさ、あたしの過去、あたしが思い出す前から知ってたでしょ?」

「まあな」

「やっぱり! なんで教えてくれなかったの?」

「別に、教える義務はねぇだろ。そもそもが違法に入手した情報だしな」


「えー、教えてよー! なにか役に立ったかもしれないじゃん!」

「オレはもう、誰かを助ける気はねぇんだ。第一、教えたら本当にサクにとってプラスになったのか? 知って嬉しい過去でもなかったと思うがな」

「それはそうかもしれないけど……でも、あたしは知りたかったよ。そもそもミラは味方なの? それとも敵?」


「敵かと疑われるのは心外だな。サクとは、それなりに仲良くやってきたつもりだが」

「うん、あたしもそう思うよ。初日とか、色々教えてくれたしね。でもさ、味方ならもう少し助けてくれてもいいんじゃない?」

「言っただろ。オレはもう誰も助けねぇ。何十年も前にそう決めたんだ」

「そう……。でもミラって、あたしがまだ知らないことも知ってるよね?」

「ああ、多分な」


「どこまで知ってるの?」

「オレが知りたいと思ったとこまでだな」

「自分の情報を勝手に知られてるのって、あんまり気分のいいもんじゃないよ」

「オレは傍観者だからな。自分が知りたいことを勝手に知るだけだ。別に、知ったからといってどうこうするわけじゃねぇ。ただの興味本位、暇つぶしだ」

「趣味悪いね」

「知ってる」


「もう一度聞くけど、あたしを助けてくれる気はないの?」

「ああ。人を助けても、結局最後は傷つくだけだからな」

「そう……何があったのか知らないけど……そこまで意思が固いのなら、分かった。助けてくれなくていい」

「ふーん?」

「でも、あたしはここから出たい。ここを出てスモモちゃんと暮らすっていう目標ができたから。でも、それを実現するには、ミラが持ってる情報が必要なの」

「ふーん?」

「ミラが入手した情報をあたしが勝手に利用して、あたしが勝手になんとかする。それならミラが助けたことにはならないから、いいんじゃない?」




 ——数分間の沈黙の後、ミラが口を開いた。


「まあ、そうかもな」




《第3章 了》

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