第39話 裏の記録

「えぇー、こっちもこっちで意味わかんないんだけど!」


 ミラが見せてくれたのは、あたしの事件に関する週刊誌の記事やSNSの投稿だった。よくこんなの残ってたね……。っていうか、よくこんなの集めたね……。まあ、ここにいても暇なのは分かるけどさ……。


「さっきの裁判記録よりも、こっちの方が見つけるのは簡単だったぞ。昔のこういう情報は社会資料としてデータベース化されて一般公開されてるからな。囚人でもない限り、誰でもPDからアクセスできる」

「いやいや、あなた囚人でしょ……」


 そんな今さらながらの野暮なツッコミは置いといてミラが見せてくれた情報に話を戻すと——


 先日行われた少年殺傷事件の裁判では、少年らの親達が結託して裁判官や検察、弁護士、裁判員を買収し、警察の証拠すら捏造して被告人を一方的な加害者に仕立て上げた可能性がある。


 ——こんな感じの内容が大半を占めていた。


 なんか、自分のことが書かれてる記事を読むのって不思議な気分だね……。うーん……突拍子もない話だけど、なんとなく事実な気がするよ。あんな支離滅裂な判決が出る経緯なんて、これぐらいしか考えられないしね。


 でも、そもそもそんなことが可能なの? と思ったら、金髪ゴリラの父親の浪塚弘康があの地域の警察署長だったらしい。マジかよ、親が偉い人って言ってたの、嘘じゃなかったんだね……。にわかに信じがたいけど。っていうか、警察署長の息子があれかよ……。もはや存在自体が不祥事じゃん。


 まあ、それを言ったら、デブなんて祖父が国会議員の坂野原俊治だったっていうから尚更びっくりだよね。しかも、この祖父が裏で結構手を回して裁判官やらに圧力をかけたみたいだし。孫も孫なら、祖父も祖父だ。


 そして、一連の工作に必要な資金を提供したのが、ロン毛の母親の鴨葱京子。なんでも、東北地方のトイレットペーパーのシェアを独占していた大企業の社長だったらしい。もちろんあたしも、会社の名前はよく知ってる。テレビを見てたら必ず一回はCMが流れるぐらいの有名企業だったしね。さすがに社長の名前は知らなかったけど。


 それにしても、なんでそんな上級国民の息子やら孫やらが揃いも揃って不良になって、あんな田舎の地方都市でつるんでたんだよ……。


 ついでにもうひとつ分かったのは、あたしをコールドスリープに入れたのもこの三人だったってこと。あたしの治療が可能な時代になったらちゃんと刑罰を受けさせるために、いろいろ規則を捻じ曲げて強引に推し進めたらしい。


 なんていうか、もはや復讐の鬼じゃん……。むしろ、殺し屋とか雇われなくてよかったよ……。あえて生かして苦しめたかった感じなのかな? それはそれで嫌すぎるけど……。


 最初、あたしの両親はコールドスリープに反対したみたいだけど、それで結果として娘の命が助かるのなら、ってことで最終的に了承したらしい。どのみち、あの時代の医療だと回復は無理だったみたいだしね。


「っていうかさ、苗字が同じってことは、あの不良弁護士はロン毛の子孫ってこと? 目が同じな時点で薄々気づいてはいたけど……。でも、千年も後の子孫があたしに対してあんなに敵意を持つ?」

 親子代々、あたしに対する恨みが伝えられてきたってこと? あたしが目覚めたときのために? だとしたら怖すぎる。どんな執念だよ!


 しかし、予想に反してミラからは否定の言葉が返ってきた。


「いや、子孫じゃないぞ。あいつは——」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る