第16話 全自動シャワーブース
シャワーブースに入ってまず分かったのは、「シャワーでも浴びてくる」っていうミラの発言が嘘だったってことだ。
いや、嘘って言うと語弊があるけどさ、これを”シャワーを浴びる”って表現するのはいくらなんでも無理があるでしょ……。新しい言葉作ろうよ……。どう見てもシャワーじゃないじゃん! そもそも、浴びてもいないし!
でもまあ、”
形を自在に変えながら勝手に動くブラシとどこからともなくピンポイントで狙撃してくるお湯に全身隅々まで洗われながら、あたしはそんなことを考える。なんか、人間用の全自動洗濯機って感じだね。んー、どっちかといえば食洗機の方が近いのかな? まあ何にせよ、ブースの中で突っ立ってるだけでいいから楽ちんだ。
「髪を乾かします」
しばらくすると、そんな自動音声メッセージがブース内に流れた。マジで!? 髪乾かしてくれるってすごくない!? 自分で乾かさなくていいって、めっちゃ楽じゃん! あれって何気に重労働なんだよねぇ。
「無駄毛を処理します」
「ぶっ」
そんな機能まであるのか。もう、至れり尽くせりじゃん! って、待って待って! そんな場所まで処理すんの!? ひいぃー!!
とまあ、そんな感じで数日ぶりだか千年ぶりだかのシャワーもどきを済ませてブースを出ると、スモモちゃんがベッドであたしの服を持って待ち構えていた。
「いや、あの……着方は知ってるよ?」
「介護なのです!」
「介護言うなー!」
と言いつつも、スモモちゃんのキラキラした目に負けて結局着せてもらうことにした。なんだろ、これ? なんか懐かれちゃったっぽい? 妹が欲しかったあたしとしては、ちょっと嬉しいかも!
「ところで、サクさんはどうして千年前から来たのですか?」
「あ、えっとね——」
そうだよね、やっぱり気になるよね……。あたしはところどころミラに補足してもらいながらこれまでに分かってることを話して、ついでに首の治療中に見た夢の内容も説明した。
「——ふえぇ、そんな馬鹿不思議なことがあるのですね!」
文字通り目を丸くして驚くスモモちゃん。うん、”摩訶不思議”だよね? でもなんか、間違ってない気もするよ……日本語って不思議!
「日本語といえばさ、この時代の人ってみんな日本語を話せるの?」
今さらだけど、よく考えたら明らかに外国人のミラやクレアちゃんも流暢な日本語を話してるよね。むしろ、スモモちゃんよりも流暢だよ。もっと早く気づけよって話だけどさ。
「はい、世界連邦の公用語は日本語なのです! というより、日本語以外の言語はもはや存在しないのです!」
「えー、マジで!?」
「だって、バラバラだと不便だろ?」
さも当たり前のようにミラが言う。
「いや、そりゃそうだけどさ、最初どうやって習得したの?」
「今の時代は、仮想空間を利用して短時間で効率的な学習ができるんだ。むしろ、それができたから言語の統一が実現したようなもんだな。だから、今でも昔の言語を学習しようと思えば簡単にできるぞ」
えー、なにそれ? すごすぎじゃない? 英語の勉強に苦労したあの時間を返してほしいんだけど……。この際、出所したら英語マスターしちゃおっかな。
でもさ、なんで英語じゃなくて日本語なんだろ? 二十一世紀の感じだと、世界共通語って英語になりそうなもんじゃない? その辺をミラに聞いてみると、またもや斜め上な答えが返ってきた。
「日本のアニメをオリジナルのまま理解したいって人が多かったかららしいぞ」
またアニメかよ……すげーな、アニメ。ハリウッド映画どこ行ったんだ……。
その後、特に話すこともなくなったあたしたちは各自自分のベッドに寝転がってPDをいじりはじめた。改めて触ってみると、見た目通りタブレット端末の進化版って感じだ。
とはいっても、囚人用のPDは機能が制限されているらしく、動画も観れないし音楽も聞けない。使える娯楽機能といえばニュースぐらいなもんだけど、全く知らない固有名詞ばっかりであっという間に見飽きてしまった。
要するに、暇! 暇すぎるー! やることがないって、思った以上に楽じゃないんだね……。まあ、刑罰だからしょうがないんだけどね……。
あ、そうだ。今のうちに、服を脱ぐ機能を探しとこっと。本人は本気っぽいけど、さすがに毎回スモモちゃんに脱がせてもらうわけにもいかないしね。懐かれたのは嬉しいけど、服の脱ぎ着ぐらいは自分でしたいし。
——その後、泥のようにゆっくり流れる超絶退屈な数時間が経過して、ようやく消灯時間になった。
うん、これきついわ。労働はないし、いじめやカーストもないけど(一回殺されかけたけど)、精神的にきつい。正直、刑務所にしちゃ緩いなって思ってたけど、全然そんなことなかったよ。でもまあ、今日はもう寝るだけだね!
と思ったら、スモモちゃんがいきなりベッドの上に立ち上がってなにやら宣言を始めた。
「では皆さん、不肖、最年少の
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