第18話 対等な関係
ん……? あれ? もう朝か。
気がつくと、いつの間にか部屋が明るくなっていた。途中から全然覚えてないけど、どうやら二人とも疲れて全裸で絡み合ったまま寝落ちしてしまったらしい。
すぐそばで寝息を立てているスモモちゃんを起こさないようにそっと起き上がると、既に起きていたらしいクレアちゃんが声をかけてきた。
「おはよう、お婆ちゃん。今日はちゃんと起きたんだね」
「あ、おはよう、クレアちゃん!」
「寝坊しなくてなによりだよ。それより、昨夜はお盛んだったね。うるさくて寝られなかったよ。昔の人もやることは一緒なんだね」
「え、えぇーーー! ごめん!」
今さらながら、昨夜の自分の乱れっぷりを思い出して顔が熱くなる。よく考えたらあたし、すごい声出してたよね……。きゃー、恥ずかしい!
「で、でも、クレアちゃん寝てたんじゃ? いびき聞こえたよ?」
「途中から起きてた。あんだけうるさかったら、そりゃ目も覚めるよ」
「あ、だよね……。ごめん……」
「別に大丈夫だよ。ここではよくあることだし」
「よくあるんだ……」
なら別に、恥ずかしがる必要もないかな……。いやいや、無理無理! 百戦錬磨のお姉様方ならともかく、あたしはあんな姿を人に見せるの初めてだし……。うぅ……。
そして、一通り恥ずかしさに悶えた後は、猛烈な罪悪感が襲ってきた。惹かれ合った相手ならともかく、出会ったばかりの相手に欲情した挙句に服を脱がせて襲っちゃうなんて、やばすぎるでしょ! ミラ以上に変態じゃん! もはや動物じゃん!
しかも、異性相手ならまだしも同性相手に……。テンションがおかしくなっていたとはいえ、ノリノリであんなことができちゃったなんて今考えると信じられない。うん、とりあえずスモモちゃんに謝ろう……。
「ねえ、スモモちゃん、起きて」
「私はまだ寝ているのです」
恐る恐るスモモちゃんに声をかけると、やたらはっきりとした口調で返事が返ってきた。
「……絶対、起きてたよね?」
「気まずいから寝ているのです」
「えっと……とりあえず、謝りたいんだけど」
「うにゅ? どうしてサクさんが謝るのですか?」
スモモちゃんが不思議そうな顔をして起き上がった。そしてそのまま、ベッドの上であたしと向かい合う。わぁー、明るい所で見るスモモちゃんの全裸もかわいい! このままハグしたい! って、やばいやばい、また思考が不純な方向に向かってる! これじゃほんと、ミラのこと言えないよ……。
「えっと、その、一方的に服を脱がせてあんなことしちゃってごめん。それも、何度も……」
「えぇー! そんな理由で謝る必要はないのです! ものすごく気持ちよかったのです! サクさんは私をイかせた初めての人なのです!」
「あれ? でもスモモちゃんって、その……男性経験あるんじゃないの?」
「ありますけど、相手しかイったことがないのです! 男はみんな、バンバン動かせば二人とも気持ちいいと勘違いしているのです!」
「うわ、サイテー」
でもなんか想像できるかも。うーん、ますます男の人と付き合いたいと思えなくなっちゃったなぁ……。別に女の子が好きってわけでもないんだけどね……。そもそも恋愛自体、あんまり興味ないし……。
「そんなことより、私の方こそ謝りたいのです!」
「え? 何で?」
「年上のサクさんにあんなことをさせてしまって、申し訳ないのです! 私は本来、あんなことをしてもらってはいけないのです!」
「えー、やっぱりあたしが悪いってことじゃん! あたしが勝手にあんなことしたから……」
「そんなことはないのです! 私が無理にでも断るべきだったのです!」
「いや、あたしがノリと勢いでやったことだから、スモモちゃんが気に病まなくていいんだけど……。大体あたし、スモモちゃんのこと年下だと思ってないし」
「ふえぇ!? 私、そこまでお婆さんじゃないのです!」
「そういう意味じゃなーい!」
もー! 記録上の年齢が千歳になるのはしょうがないとして、年寄り扱いするのはやめてほしいんだけど! 身体はまだ十八歳なんだから! 見よ、このハリのある胸を!
と、そこに、もはやすっかり耳馴染みになったハスキーボイスが割り込んできた。
「あー、もう! じれったいな!」
「え? ミラ、起きてたの?」
「さっきから起きてたぞ。それより、お前ら二人はつまるところ欲情してヤり合って、どっちも気持ちよくなって満足したんだろ? どっちも傷ついてないんだからいいじゃねぇか。もう少し素直に受け入れろよ」
うわわ、ミラ、朝からいきなりストレートすぎるって!
「まず、サクは別にスモモが嫌がることをしたわけじゃないんだから、気にする必要はないだろ。本人も喜んでたんだし。ってか、悦んでたんだし」
「うん……」
同じ読みなのに、わざわざ言い直さなくても……。でもまあ、確かにそうかもね。考えてみれば、同性相手にああいう行為をしちゃった自分に対する自己嫌悪をスモモちゃんに対する罪悪感にすり替えてただけだったかも。
「それから、スモモはサクの気持ちを分かってやれよ。サクは、歳は遥かに上だが、年齢に関係なくお前と対等な関係でいたいと思ってるんだ」
「はい……」
うん、そうそう! ”歳は遥かに上だが”のところは赤ペンでゴリゴリ訂正したいけど、それ以外はその通り!
「ほら、いつまでも意地張り合ってないで朝飯食うぞー。その前に服着ろー」
「はい……えっと、変なことで謝ってごめんなさいなのです」
「こっちこそごめんね! これからもよろしく!」
「はうぅ、次回はお手柔らかにお願いしたいのです……」
「いや、よろしくってそっちの意味じゃないから!」
とまあこんな感じで、ミラの唐突かつ的確な仲裁によってあたしたちは無事に和解したのだった。なんとなく、ミラは朝ご飯を早く食べたかっただけな気がするけど、そこは気にしないことにしよう!
「お、今日の麺棒はカレー味だ!」
これって、いろんな味があったんだね! よかった! これから三十年間、毎日同じ味だったらどうしようかと思ってたけど、少しは食事の時間が楽しみになりそうだ。見た目は相変わらず酷いけどね。
「うにゅ? それは麺棒じゃないのです! 『なんとかスティック』っていう正式名称がちゃんとあるのです!」
「『なんとかスティック』はどう考えても正式名称じゃないでしょー」
「はうぅ。えっと、なんて名前でしたっけ?」
「フードバー」
慌てて助けを求めたスモモちゃんにミラが即答する。フードバーって、そのまんまじゃん……。そして、『なんとかスティック』じゃないじゃん……。まあ、スモモちゃんらしいけどさ。
「ところでさ、聞くのが怖いんだけど、この時代の食事ってもしかして全部フードバーだったりする?」
「いや。面倒くさがってそうしてる奴もいるが、基本的には昔と同じ料理を食ってるぞ。ここは宇宙で、しかも刑務所だからフードバーばっかりなだけだ」
「そうなんだ!」
よかった! この時代にもちゃんと、普通の料理もあるんだね! なんか安心した。
でも逆に言うと、これから三十年間、普通の料理はお預けなんだね……。こんなことなら、パフェとかハンバーグとか、体重なんか気にせずにもっと味わっとけばよかったなぁ……。
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