第13話 あたしの麺棒!
うーん、フワフワ、フカフカ、気持ちいいー。ここはどこだろう?
ん? 誰かの話し声が聞こえるよ?
「起きないね」
「起きねーな」
「殺したら起きるかな」
「いや、殺したら死ぬだろ」
「復元されたら起きるでしょ」
「多分、寝たまま復元されるから意味ないぞ」
んー、よく分かんないけど、なんか物騒な話をしてるね。
「尻の穴に歯ブラシでも突っ込んでみるか」
「やめてよ。それ共用のやつでしょ。ボクも使うんだからさ。いくら元素レベルで汚れが分解されるからって、そんなもん口に入れたくないよ。気分的に」
「さすがにブラシの方は入れねーよ。柄の方をちょっと入れるだけだ」
「ならいいけど」
んー、よく分かんないけど、なんかもっと物騒な話をしてるね。
「よし、これで起きなきゃ、サクの分も二人で食っちまおうか」
「賛成ー」
え!? あたしのご飯!?
「ダメー!!」
「「うわ、起きた」」
ん? ここは……あ、そっか、月か。
あれ? ミラとクレアちゃんが二人揃ってこっちを見てる。
「えっと、どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ。いくら起こしても全然起きねーから困ってたんだ。今日はこれからジムだぞ」
「え、あ、ごめん!」
昨夜全然寝付けなかったせいで、いつにも増して寝起きが悪かったらしい。
「それにしても、お婆ちゃんの分も食べちゃおうかって言った瞬間に目を覚ますなんて、随分食い意地が張ってるんだね、お婆ちゃん」
「え、マジで」
なにそれ、恥ずかしい! でもさ、ご飯は大事じゃん! ご飯、ご飯! この時代の食事って、どんな感じなんだろ? ん? なにこれ?
ミラが渡してきたのは、麺棒みたいな黒い金属の棒だった。
「それが今日の分だ。一日分の栄養が摂れる」
「あ、中に何か入ってるってこと?」
「いや、そのまま食える」
「え、これ食べられるの?」
「ああ。見た目はアレだが、大丈夫だ」
「えー、歯折れないよね……」
恐る恐るかじってみると、意外と簡単にザクッと噛み切れた。なんか、ガリガリ君みたいな食感だ。そして、小籠包みたいな味がする。うん、意外と悪くないね。確かに、見た目はアレだけど。
「ガリガリ……ゴクン……あれ? ってことは、食事って一日一回?」
「ああ」
マジかよ! 危うく丸一日ご飯抜きになるところだったじゃん! どうやら、この二人は食べ物の恨みの恐ろしさを知らないらしい。ま、知らない方が幸せだけどね。
——よし、ごちそうさま!
あたしは麺棒を食べ終えると、さっきから気になってたことを聞いてみることにした。
「あのさ、ミラ」
「ん?」
「なんであたし、全裸になってるの?」
なんか、この時代に来てから、目を覚ますたびに全裸になってるんだけど……。
「なんでクレアじゃなくてオレに聞くんだ?」
「確率的にミラかなって」
「正解だよ、お婆ちゃん」
「まあな。サクが全然起きないから、ちょっとな」
「ちょっとって?」
「気にすんな。次回のお楽しみだ」
「あんまり楽しみにしない方がいいと思うよー」
「えー、なにそれ」
うーん、何をしようとしてたのか気になるけど、どうせ脇をくすぐるとか、そんなもんだよね。丸一日ご飯抜きに勝る仕打ちなんてあるわけがない。まあ何にせよ、これからは寝坊しないように気をつけよっと。
——数十分後、あたしたちは同じフロアにあるジムに向かって出発した。先導してるのは例の看守だ。あ、もちろん服は着たよ!
「そういえばあたし、ジムなんて行ったことないんだけど大丈夫かな? 運動苦手なんだけど……」
「大丈夫だぞ。まあ、着いたら分かる」
「お婆ちゃんの時代にもジムってあったの? 稽古場とか道場しかなかったんじゃ?」
「そこまで昔じゃないよー」
「そっか」
「でも、運動なんかして筋肉ムキムキになっちゃったらやだなー」
「なりたくてもそんな簡単になれるもんじゃないから大丈夫だよ、お婆ちゃん」
「だといいけど……」
クレアちゃんがそう言うのなら、そうなのかな。そういや、運動部の友達も別にムキムキじゃなかったっけ。
「お、着いたぞ」
……あれ? 着いたけど分かんないよ? これがジム?
大きな卵型のカプセルが四個あるだけで、運動に使えそうな器具は一切見当たらない。しかも、部屋自体が結構狭い。んん? ここでどうやって運動するんだろ?
「ああ、丸峰さんはバーチャルジムは初めてかもしれませんね。ここでは、脳をコンピューターに接続して、仮想空間内でバーチャルの身体でトレーニングを行うのです」
「え、それって運動になるの?」
「はい、なりますよ。脳や筋肉が刺激されて、実際に運動したときと同じ状態になりますので。心肺機能もちゃんと鍛えられます」
「へぇー……」
どんな原理でそうなるのかまったく想像がつかないし、多分考えても無駄だろうな……。もはや漫画の世界だ。そうこうしている内に、ミラとクレアちゃんがカプセルの中に入っていった。
「つまり、あたしもそこのカプセルに入ればいいわけ?」
「はい、入ったらあとは全部自動です」
「分かった」
あたしは、マツコ・デラックスでも余裕で入れそうなカプセルの中に恐る恐る足を踏み入れた。なんか、ゴジラの卵みたい。白い内壁は本物の卵の殻みたいにのっぺりとしていて、ボタンもケーブルも何にもない。
言われなきゃ、ただのオブジェにしか見えないな。少なくとも、ハイテクマシンには全然見えない。千年前の公園にあっても、何の違和感もなさそうだ。
そんなことを考えながら振り返ると、ドアが音もなく閉まっていくところだった。……え、ちょ、もしかして真っ暗——
「ふおぉ!」
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