第10話 復元システム
「えぇ!? ビッチさん!?」
部屋であたしを迎えてくれたのは、さっき目の前で殺されたはずのビッチさんだった。なにこれ、どういうこと? もしかして、テクノロジーが進歩したら幽霊まで実現しちゃったとか?
「ビッチさん……? ふーん? お前、オレのことを心の中でそんなふざけた呼び方してたのか?」
げげ、しまった! ここは強気で押し切ろう!
「いやいや、そんなこと今はどうでもいいでしょ!」
「『そんなこと』じゃねぇ——」
「クレアちゃんに殺されたはずなのに、なんでここにいるわけ!? もしかして、幽霊?」
「幽霊じゃねぇよ。今の時代は、寿命以外なら死んでも復元されるんだ」
「復元?」
「ここは私が説明しましょうか。PDでは、一秒に一回、元素レベルで全身をスキャンしているのです。そして、所有者が外的要因によって死亡した場合は、直前のデータを基に最寄りのプリンターで全身が復元されるのです」
「えー、すごい! ん? でもそれって、同じ人間を何人も作れちゃうんじゃない?」
「技術的には可能ですが、絶対にできないように制限が何重にもかかっています。実行されたら、倫理的に大問題ですからね」
「なるほど……。それって、記憶も一緒にコピーされるの?」
「はい、全く同じ記憶がコピーされます。先ほど申しましたように、記憶の書き換えや他人への移植は技術的に不可能ですが、身体ごとコピーするのは可能なのです」
「ふみゅ……」
「ただし、毒死の場合は毒物が体内に入る直前まで遡って復元しますので、その間の記憶が消失することになります。そうしないと、体内の毒物まで復元されてしまいますからね。解毒が可能な場合は別ですが」
「ふーん。じゃあ、病死の場合も感染する直前まで遡るの?」
「理論上はそうなりますね。ただし、治療不可能な病気がなくなったので、今では病死自体が起こり得ません。突然死は今でもごく稀にありますが、これは病死ではなく寿命とみなされるので復元対象外です」
「マジか」
なにそれ、すごい! ちょうど高校受験の年に変なウイルスで苦労した身としては、夢みたいな話だ。
っていうか、人間を生きた状態のままプリンターで復元できる時点ですごすぎるんだけど! あれ? ってことは——
「ねえねえ、あたしはもしかして、千年前のデータから復元されたって可能性はないのかな?」
「残念ながら、その可能性はありませんね。千年前にはそのようなデータをとる技術がありませんから。それに、データをとられた覚えもないのでしょう?」
うん、だよね。よく考えたら、そりゃそうだ。
「じゃあ、サクはコールドスリープでこの時代に来たと考えて間違いないんだな? それ以外の可能性はないのか?」
「はい、それ以外の可能性はないと思われます」
やっぱそうなのかぁ……。ん? この時代に来る手段はコールドスリープだけって、ビッチさん自分で言ってたじゃん。変なの。ま、いっか。
でも、自分の身体がプリンターで復元されるってどんな感覚なんだろ? 作り物に置き換えられちゃう感じ? あ、でも、元素レベルで復元されるってことは、同じ身体って考えていいのかな? うーん、でも、同じじゃないよね……。
「でも」を繰り返しすぎたせいで、頭の中でデモが起きそうだ。まあ、何にせよ、できれば復元なんて経験したくないなぁ。正直、生きてる実感がわきそうにないし。このまま殺されずに済むことを激しく祈りたい。
正直、初日から襲われるような刑務所で三十年も無事に生き延びる自信はないけどね……。あ、そうだ、クレアちゃんがどうなったのか聞かないと——
って、えぇ!? ちょっ! 何!?
思わず飛び上がったら、頭が天井に激突してガンッと音を立てた。あうー、痛いよー。また首が折れるかと思ったよ。重力が弱いのも良し悪しだな……。
いやいや、そんなことより! なにこれ? 不意打ちすぎでしょ! なんでいきなり、目の前に全裸のクレアちゃんが現れるわけ?
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