フィッシュオン
「……“ふぃしゃんちっぷ”って、なんニャ?」
「ええと、魚に小麦粉を溶いたの付けた揚げ物と、揚げた芋……」
エルミには、首を傾げられた。食べたことないとかじゃなく、思った以上にピンときてない感。
「こっちに揚げ物って、ある? 熱くした油に入れて火を通す料理」
「知らないニャ」
「ヘイゼル、ゲミュートリッヒって、旧エーデルバーデンの住民が移住した町なんだろ? 少しくらい向こうの文化が伝わってたりしないのかな」
「どうでしょう。クマパンさんにはドイツ風な黒パンが置いてましたが、他には確認してないです」
なるほど。フィッシュ&チップスを作るかどうかはともかく、ついでだから他の店も訪ねてみよう。何らかの理由で元いた世界の文化が残ってないのか、受けなくて廃れたのかもわかるかもしれないし。
「ゲミュートリッヒに、魚屋さんってあったっけ?」
「お魚も、お肉屋さんが獲ってくるって聞いたニャ」
「では、まずはそこですね」
商店街通りの、真ん中あたり。肉と魚を扱うお店はネコ獣人の家族が経営していた。
「看板には“マッサエーナ肉店”と書いてますが……マッサエーナというのは、ご主人の名前でしょうか」
「たぶんマッサさんがご主人で、エーナさんが奥さんなのニャ」
エルミによれば、獣人の古いしきたりで、
さて、その肉店だ。働いているのは大人が三人と、お手伝いの子供が四人。年配の男性、たぶんマッサさんが肉を捌き、エーナさんと思われる年配女性が注文を取ったり隣の食堂のテーブルを片付けたりと現場を取り仕切ってる。
お嫁さんか娘さんか、若い大人の女性が店頭で串焼きを焼いていた。
「美味しそうニャ」
子供たちは大人に渡された皿をお客さんに運んだり材料を持って来たり。町の住民が朝食に来る時間なのか、かなりの客の入りだ。
あんまり忙しいようなら話をするのは後にしようか、と思ったところで若いネコ獣人の男性が駆け込んできた。背中には、自分の身長ほどもある大きな獣を担いでいる。
「どうだ親父、捕まえたぜ! 丸々太った
「おお、でかした!」
「血抜きは済んでる。明日には店に出せるかな。どんだけ畑を荒らしたんだか、えらく脂が多いぞ」
話の流れと表情から察する限り、脂身は歓迎されていないようだ。俺はヘイゼルに頷き、とりあえず店に入る。朝ごはんも兼ねて、ちょびっとだけ話を聞こう。
「こんにちは、三人だけど入れるかな?」
「いらっしゃい、ああミーチャさんたち。お店を始めるんだって?」
「やっぱり仕事してるひとたちは情報が早いね。集会所の前で、酒場をしようと思ってる」
俺が言うと、お店の男たちからも周囲のお客さんからも歓声が上がる。特に喜んでるのは藪猪とやらを担いできた男性。
店の長男でキルケだと自己紹介された。串焼きを焼いてたのが、奥さんのオーキュさん。ちょっとダジャレ風だ。
「ようやくこの町でも酒が飲めるようになるのか……」
「待ちに待ったときがきたな」
「すげえ、夢みたいだ」
どんだけ嬉しいんだ、と思いながらも客の確保はできそうだと安心した。
お薦めの朝食セットを三人分頼んで、カウンター近くのテーブルに着く。
「その豚の脂身、使い道はありますか?」
「さすがにないね。前まではウチの坊主たちが持ってってたけどね」
女将さんはクスクス笑い、お手伝いの子猫獣人たち四人が大笑いした。少しだけお兄ちゃんぽい子が、弟たちと小突き合いながら白状した。
「俺たち、ちっこいドラゴノボア、こっそり飼ってたんだけど、逃げられちゃったの」
「あぶら身、喜んで食べてたよ?」
「いっぱい食べると、けむりボーッてなるの」
危なくないのか、それ。何してるんだ、この子猫ちゃんたちは。
お兄ちゃんが“また捕まえて来ちゃる”とかコソッと言って、お母さんに怒られてる。ぜんぜん反省してないっぽいところが、小学生男子っぽい。
「肉や魚を焼くとき、最初に脂身を炙ると良い味が出るけどね。こんなにたくさんじゃ、捨てるしかないよ」
「では、譲ってもらえますか?」
「脂身を? かまわないけど、なんで?」
「料理に使うんです。試してみて、上手く行ったら、今後も欲しいです」
ヘイゼルのオーダーに、ネコ獣人の夫婦は揃って首を傾げる。
肉や魚の料理に関してはベテランの彼らでも知らないとは、こっちの世界じゃ揚げ物は存在しないのか。
朝食セットは、藪猪の塩漬け肉を炙ったものと、
かなりのボリュームがあって、とても美味い。
それを食べながら、少しだけ世間話をする。メインの銀鱒というのが、身が厚く大きく脂が乗ってて美味い。この町では常食されてるらしく、魚ボールになってたのも銀鱒だ。
帰りがけに、それの切り身を二匹分購入。もらった脂身と一緒に持ち帰る。
「では、
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