ヘイゼルの野望

 ティカ隊長とドワーフ有志連合に重機のレクチャーを行い、作業を任せることになった。最終的には俺たちが連れて来たドワーフ組四人と町のドワーフ三人の計七名が外壁と外堀の作業担当になった。新しい機材と技術を手に入れて、みんなものすごいノリノリである。

 重機の他に、コンクリートの説明もあった。レシピと簡単な解説を行い、セメントの引き渡しも済ませてある。彼らは外堀チームと分かれて、早くも正門周辺から試験的に外壁を組み始めるようだ。


「町の外は掘ると砂や砂利が出るそうなので、堀は少し深めに掘るようにお勧めしておきました」


「コンクリートの素材に使うってこと?」


「それもありますが、砂地というのが気になったからですね。この辺りは河だったか、河の氾濫で土砂が流れて来た可能性があります」


 お、おう。ゲミュートリッヒは開拓されてまだ百年に満たない。治水に関して安泰かどうかわからないようだ。


「少し離れた辺りに溜め池を作りましょうか。ちょっとした湖になるくらい掘り下げておけば、氾濫が起きたときにも受け皿になります」


「いいね。王国にし側に作れば、敵の動線を塞ぐ防衛手段にもなる」


 俺たちは町の西側、二百メートルほどのところにある平地まで足を伸ばして、ヘイゼルの一時保管区画ストレージで一気に木や土や岩を収納した。下から現れた砂をさらに掘り下げると粘土質の地層が出て来たので、やはり土砂が流されて来たものだとわかった。過去には大雨でもあったのかも。


「悪くないですね」


「ああ。水が入ったら、きっと景観も良いぞ、これ」


 ヘイゼルの見事な仕事ぶりを眺めて、俺たちは顔を見合わせて頷く。目の前にあるのは、直径百五十メートル、深さ十五メートルほどの窪みがふたつ、瓢箪型につながっている。


「粘土質だから水の抜けもなさそうだ。水を引くとしたら、河からか?」


「たぶん湖の方が少し近いのニャ。後で町の猟師さんに訊いてみるニャ?」


 これだけの窪地に水が入れば、越えられない障害が町の西側に出現するわけだ。南にある正門を避けて回り込もうとしたら、かなりの迂回を余儀なくされる。

 北側にある裏門は外堀に跳ね橋を作る予定だし、孤児院組の集会所も俺たちの店もあるから防衛拠点としてキッチリ補強するつもりだ。町の東側には、衛兵や猟師やら町の猛者たちが暮らす民家が集まっている。東側の防衛は、いまのところ問題はなさそうだ。必要なら彼らの意見も聞いて考えよう。


「さて、ひとつ非常に重要な提案があるのです」


「ニャニャッ⁉︎」


 ひと仕事終えて町に戻ると、ヘイゼルが真剣な表情で振り返った。思い当たるもののない俺とエルミは首を傾げるしかない。とはいえ、ツインテメイドのこれまでにない切実さに、ここは真面目に答えなければとネコ耳娘とふたりできちんと背筋を正す。


「ヘイゼルちゃんの本気が伝わってくるのニャ! ウチにできることなら、なんでもやるのニャ!」


「……よし、言ってみろ。俺も、可能な限りサポートはする」


 ごくりと固唾を飲んで身構える俺たちに、ヘイゼルは熱い思いを打ち明ける。


「フィッシュ&チップスが、食べたいのです!」

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