その58:鬼具検証と水着経済

 今日も俺が風呂代出さないといけないか……。でもまぁ、ひよりも帰ってきたことだし、その前にミーティングだな。

「しょうがないから今日も風呂代は出してやるけど、次は絶対自分たちで出せよ。俺もそんな金持ちじゃないんだからな」

「あはは。わかったよー。次は出すよー。メグルくんが破産しちゃうとアタシたちも困るからねー」

「破産しない程度に搾り取り続けるんスね?」

「おい」

「こんちゃんもマッコちゃんも、そんなメグルさんのふところを当てにしちゃだめだよ。メグルさんだって薄給なんだから」

「それもちょっと傷つくが。……ホントのことだけどな。じゃ、今日はひよりは自分で出してくれるんだな」

「それはそれ。これはこれです」

「出さないのかよっ。神様、もうちょっと税率下げてやってくれよ……。あ、神様と言えば、ひよりは今日も帰り早かったんだな」

「はい。作業にちょっと時間はかかったんですけど、夕方の便になんとか間に合いそうだったので戻ってきちゃいました」

「ひよりがいなくて寂しがりながらも日和山にやって来るメグルくんをマッコとからかう算段をしてたら、ポーンって戻ってきたからねー。あはは」

「ちょっと計画狂ったっスね」

「どんな計画たててたんだよ。おまえらそんなヒマなのか」

「そんなことないっスよー。今日だって、こん先輩とマッコで探索してたんスから」

「あんまり収穫は無かったけどねー。マッコがいると高いところも見られて便利なんだよねー」

「えっ。人前で飛んだりしてないよねっ?」

「あはは。それは一応気をつけてるけどねー。大丈夫だよー」

「もう。ホントに気をつけてね。地上にいられなくなっちゃうよ……」

「え。そういうもんなのか? 地上人にバレるとダメなの?」

「まぁ、一応……。そういう慣習というか……。その世界における『異能』というのは、その世界の人に見せると秩序が乱れるということらしいんですけど」

「ふーん。俺は思いっきり見せられてるけど、いいのか? 五合目カフェの艦長も一応事情を知っちゃってるけど」

「メグルさんは封邪の護符を取り込んで神の眷属みたいになってるので……。艦長には明確な異能は見せてないので、いざというときはどうとでもなるかなということで……」

「俺が水出すところは見せちゃってるけどな」

「もしものときには、アレはメグルさんの手品だと、水芸だと言い張ってください」

「うーん……。まぁ、いいか……。艦長の頭、鈍器で殴って忘れさせようとしたりするなよ?」

「しませんよ? たぶん」

 ホントに大丈夫なんだろうなと思ったが、それ以上考えないことにした。


「あと、神界ではあの鬼具の研究申請をしてきたんです」

「ああ。大黒鬼と恵比寿鬼が使ってたやつな。打ち出の小槌と釣り竿とビクか。そういや、神界へ持っていったんだったな」

「はい。一応、鬼具となるとわたしが勝手に持ってるわけにはいかないので。でも研究の余地があると思われるので、手元に置いておけるように申請したんです」

「その辺は、ひよりじゃないと許可おりないだろうねー」

「さすがひより先輩っス。まぁ、マッコたちじゃ研究しようとも思わないっスけど」

「研究って、何するんだ? また鬼具を使えるようにするとか?」

「それが出来ると面白いですけど、たぶん無理だと思います。でも、残っている術式の残滓を読み取れれば似たようなことを護符に応用できるようになるかもしれないと思って」

「ふーん。それで『大きくなぁれ』とかやりたいと?」

「ビクッ。そ、そんなこと、か、考えてないですよっ。わたし、そんなのいつまでも引きずりませんからっ」

「んー。まぁなぁ。『おおきくなぁれ』は一番使いみちなさそうだしなぁ。大黒鬼の『大きくしたものを爆破』の能力があってこその力だからな」

「そ……そうですよね」

「でもさー。結界内のものを移動させる能力ってのは使えるんじゃないー? 相手を引き寄せた上でヘブンズストライクとか撃てれば強力だよー?」

「結界内ってのが問題だろ? 自分の結界の中で戦えるかどうかはわからないわけだし」

「んー。そうかー」

「そこが、研究次第なわけですよっ。鬼具をそのまま再現するんじゃなくて、わたしたちが使えるようにいい部分を抜き出して、護符として再生できればっていうことですからねっ」

「なるほど。そういうことができるんならな。面白いな」

「あの恵比寿鬼の鬼具には苦労したっスからね。こっちの攻撃が全然当たらなかったっスから」

「ふーん。俺とこんちゃんは直接見てないんだけど、攻撃を避けられるんなら便利だな」

「めぐっちの受け流しよりお手軽かもしれないっス」

「でもさー。ビクの力では、近接攻撃は食らっちゃうんでしょー? ひよりの攻撃とか」

「そうっスね。それで日和先輩が攻撃しようとしたんスけど、そうすると瞬間移動で逃げられちゃって」

「そうか。ひよりの殴り攻撃は避けられないんなら、ビクは微妙だな」

「そんな、人を殴り魔みたいに」

「殴り魔だろうが」

「あはは。その殴り魔には、釣り竿の瞬間移動も有効だろうねー。相手の間近に移動して殴ればいいんだもんねー」

「そうっスね。遠距離攻撃を封じるビクを持って、それで相手の近くに瞬間移動する釣り竿を使うと、ひより先輩は無敵じゃないっスか?」

「なるほどなぁ。そういうことを考えて、鬼具の研究をしたいわけか。『大きくなぁれ』を使いたいわけじゃなくてな」

「も、もちろんですよっ。うふ。うふふ。うふふふ」

 ……こいつ『大きくなぁれ』のことしか考えてなかったな? でもまぁ、それは言わないでおいてやろう。


「しかし、鬼具の研究もするのか。いろいろ大変だな。あんまり詰め込んで具合悪くするなよ?」

「大丈夫ですよ。……もちろん、メグルさんの元栓制御の方も継続しますし」

「だから、そんな全部やろうとすると体壊すぞって言っとるんだ。俺のなんか、そのままでいいんだからな。使えてるんだし」

「あはは。ひよりの性格考えると全部やりたくなるだろうけどねー。あんまり根を詰めるなってことだよー」

「ひより先輩が倒れちゃったら、マッコたちどうにもできないっスよー」

「……まぁ、そこまで大変だと思ってないんだけどね。でも、あんまり詰めすぎないようにするよ」

「あはは。そうだねー。張り詰めっぱなしだと疲れちゃうからねー。リラックスしないとねー。リラックスにはお風呂だよー。さー、お風呂行こうかー」

「こんちゃんが行きたいだけだろうが。だいたい、こんちゃんリラックスしっぱなしじゃないのか?」

「失礼だねー。まー、リラックスはしっぱなしだけどねー。あはは」

「ま、いいか。よし、風呂行こう」

「行くっスー」

 俺たちは街側の階段を下り、いつもの銭湯へ向かう。


 歩きながら、マッコちゃんが思い出したように聞いてきた。

「あっ。そういえばひより先輩、アレはどうだったっスか?」

「アレ? なんだっけ」

「アレって言ったらアレっスよ。水着っスよ。新しいやつ!」

「あー。うん……。作ってもらった……」

「何が、あーうんっスか! それが一番の話題になるやつっスよ!」

「そ、それはどうかな……」

「ほら! めぐっち! ひより先輩の水着が出来たそうっスよ!」

「お、おう。そうか」

「何が、お、おうっスか! そんな薄い反応だと、ひより先輩、水着見せてくれないっスよ?」

「べ、べつにどんな反応だって見せないよっ!」

「えーっ! 何のための水着っスか! 見せてナンボっスよ!」

「わ、わたしはマッコちゃんみたいにばいんばいんじゃないんだから……。ナンボにもならないよっ」

「何言ってるんスか! 経済は需要と供給っスよ! ばいんばいんだろうがそうでなかろうが、見たい人間にとってはナンボにもなるんスよっ!」

「け、経済じゃないと思うけど……。見たい人間……?」

 ひよりがちらりと俺を見る。

「ほらっ。わかってるじゃないスかっ。めぐっちなら、全財産はたいてでも見たいはずっスよ!」

「いや、全財産はたいてまでは……」

「でしょうねっ! ヘブンズ……ぶっ」「そういうとこっスよ! マッコストームぅっ?……」

「はいはいー。いまメグルくん気絶させたらお風呂代払ってもらえないでしょうがー」

 こんちゃんがひよりの顔面を抑えてヘブンズストライクを止め、同時にマッコちゃんの腕を真上に向けさせてストームを上空に逃した。こういうときのこんちゃんは頼りになるな。風呂代のためとはいえ。

「あはは。まー、メグルくんのための水着発表会はまたそのうちやるとして、今はお風呂だよー」

「そんな、発表会なんて……」

「マッコ、楽しみにしてるっスー」

 まぁ、俺もみんなの水着を見てみたくないわけでもないが、俺のためのとか言われてもな。発表会とかどうせうやむやになるんだろうしな。

 そんなことを考えつつ、俺たちは銭湯の暖簾をくぐった。

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