その54:検証ヘブンズクラッシュ
「なるほど。あの恵比寿鬼の能力っていうのは、感覚共有ということか。恵比寿鬼と大黒鬼で、同じものを見ることができていたわけだな。だから、タイミングよくひよりが転送されたってことだな」
「すぐにヘブンズストライクを当てられる……っていうところで転送されましたからね」
「そんな能力だと、戦っててもわかんないねー。あはは」
「その戦い自体も、鬼具の力を使って逃げるだけだったっスからね」
「そうだな。大黒鬼の方も、鬼具である打ち出の小槌が無ければ怖くない能力だったしなぁ。あいつら、いったい何だったんだろうな」
「まー、それを言い出すと、鬼は一体なにしに地上に来てるんだろうってことだけどねー。あはは」
「それ、おまえらもわかんないのか? 鬼が出ないんなら、おまえらも来なくていいんだろうに」
「んー。その辺は、アタシたちにはわかんない事情があるみたいだけどねー」
「どんな事情なんだか……。そういや、甲羅鬼は大要に行きたかったみたいなこと言ってたけど」
「ん? 大要ってなにー?」
「ああ。こんちゃんたちはまだいなかったもんな。わかんないよな。えーと、どうするかな……」
「ちゃんと教えてあげればいいじゃないですかっ」
「んーとだな。いわゆる、成人映画館だよ。もう閉館したけどな」
「ほー。そんなところに行きたがってたんだー。あはは。鬼もオトコだねー。オンナの鬼もいるだろうけど。それに、メグルくんもよく知ってるねー。あはは」
「成人映画館って……。えっちな映画館スかっ。そんなのに行きたいんスかっ。めぐっち、フケツっス!」
「いやだから俺じゃなくてな。甲羅鬼が行きたがってたっていう話をな……。それに俺が来たときにはもう閉館してたから、行きたくても行けなかったってば」
「行きたかったんスねっ」
「いやあのな……。もう、どうでもいいや。脱線しすぎだ」
「まぁ、メグルさんがちょっとえっちなのは周知の事実なので、それくらいでいいでしょう。本題です。今回の鬼さんたちの能力をまとめると……」
「何が事実なんだ。まぁいいけど。んーと、まず、大黒鬼だな。最初は、俺とこんちゃんで相手したわけだけど」
「アタシのフレイムを撃ってやったけど、大量の水で消されちゃたんだよねー。鬼具である打ち出の小槌の力でねー。でもその打ち出の小槌は何でも出せる万能アイテムではなくて、結界内のものを移動させるというものだったけどねー」
「敷地内の水場の水を移動させてたわけだよな。ものだけじゃなくて、生物も移動させてたから、なんだかんだ言っても高性能のアイテムだったよな。俺も移動させられて、不意をつかれちゃったし」
「わたしも移動させられましたしね。道を隔てた、屋根の上からみなとぴあまで。びっくりしました」
「それと、打出の小槌は巨大化もできると。俺の左足、倍にされたからな。……でも、あいつ大きくも小さくもって言ってたな。小さくすることもできたのかもな」
「わたしも……あの……胸に当てられて……」
「千倍にされたよな」
「そんなじゃないですよっ。……たぶん」
「そして、大黒鬼本人の能力が、爆破か。打ち出の小槌で大きくしたものを、大きくした分だけの破壊力で爆破すると。だから、もしひよりが胸に触れられていたら地球ごと木っ端微塵になってたかもしれないんだよな」
「だからそこまでじゃありませんってばっ。……えーと、つまり、大黒鬼の能力は爆破で、鬼具は打ち出の小槌、ものを大きくしたり小さくする力と、結界内の生物を含むモノを移動させる……ということですね」
「次は恵比寿鬼っスね。こちらは、ひより先輩とマッコからほぼ逃げてただけっス。鬼具の釣り竿は、その針を落とした場所に自分を瞬間移動させるっス。それで翻弄されたっスけど、マッコのバルーンとひより先輩の方位誘導で追い詰めたっス。最後は打ち出の小槌の力で逃げられたっスけど。それから、もうひとつの鬼具がビクっス。こちらは、遠隔攻撃が吸収されてしまうっス。マッコのバレットやストームが全部ビクに吸収されてしまったっス」
「あれはちょっと手こずったよね。逃げるに徹してたみたいだから、よけいにやりにくかったね」
「それで、恵比寿鬼本人の能力が感覚共有っスね。恵比寿鬼の見ていたものが大黒鬼にも同じように見えてたみたいっス」
「だから、タイミングよくひよりを転送できたし、鬼形態になったあとには恵比寿鬼をひよりの目の前に転送できたわけだな」
「そして、鬼形態になったあとの恵比寿鬼さんは、能力が進化して『能力共有』ができていたわけですよね。大黒鬼さんの『爆破』を恵比寿鬼さんもできるようになっていたと」
「それで、ひよりの胸に手を伸ばして爆破しようとした恵比寿鬼はヘブンズクラッシュを食らって……ご愁傷さま……と」
「なるほどねー。恵比寿鬼は大黒鬼とまだ感覚共有もしていたから、実際にはひよりのヘブンズクラッシュを受けていない大黒鬼まで泡吹いて気絶してたんだねー」
「大黒鬼も……ご愁傷さま……と」
「あはは。そんなに痛いのかねー」
「痛いんだよっ。痛いどころの話じゃないんだよっ。別次元なんだよっ。だからあの技は、そうそう出していいもんじゃないんだよっ」
「めぐっち、必死っス」
「他人事じゃないからな……。しょせん、おまえらにはわからないんだよ……」
「うふふ。出させないように、気をつかってくれてればいいんですよ。……さて、鬼さんの能力と鬼具の力についてはだいたいわかりました。ありがとうございました。報告書の方はこれで書けそうです。夜に書いて、明日の日の出便で神界に行ってきます」
「いつもひよりにばっかり行かせて悪いねー。あはは」
「そのうち、マッコも行くようにするっス」
「一応、今回は神様がわたしを指名したみたいだから。今度、機会があれば行ってもらうよ」
「あっ。ひより先輩が呼ばれたの、水着があるからっスよ。たぶん。前回、作れなかったみたいっスからね」
「あ……。そうなのかな……」
「いよいよスク水脱却だねー。あはは」
「まぁ……、それはオマケだからね。報告書だけ、ちゃんと出してくるよ」
「ん……。出発は明日の日の出だよな。夕方には会えそうだな。俺、今日のバイトが早出になってるんで、もう行かなきゃなんだよ。行ってくる」
「あ、そうなんですね。行ってらっしゃい。がんばってください」
「がんばってー」
「行ってらっしゃいっスー」
「おう。みんなもな」
俺は街側の階段を下りてバイトへ向かう。後ろの方でなにやら「ヘブンズクラッシュを~」とか不穏な単語が聞こえてきたけれども、聞こえなかったことにする。いったい何の話を始めとるんだ。
そして夕方。俺はまた日和山へ向かう。日中、元栓制御のコントローラーを消してなかったことに気がついて、バイト先で「消えろっ」と言ったらバイト仲間に変な顔をされたが、それ以上は何もなかった。変な場面で手から水を出したりしてしまうよりはいいだろう。
日和山の山頂に着くと、三人が朝と同じ位置でくっちゃべっていた。……全員ずっとここにいたんじゃないだろうな。
「あ。メグルさん、おかえりなさい。お疲れ様でした」
「お疲れー。あはは」
「おかえりなさいっス」
「ただいま。……おまえら、ずっとここでしゃべってたわけじゃないんだよな」
「まさかー。アタシもバイトしてきたよー。あはは」
「マッコもちゃんと労働してきたっスよ!」
「わたしだってカフェで働いてましたよっ」
「……そうか。いや、朝とまったく同じ感じだったんでな」
「そう言われたらそうだねー。あはは」
「そんなに話ばっかりしてられませんよっ」
「でも、不可能ではなさそうっスー。へへへ」
「……まぁ、そうだな。そんなに話が続くわけでもないよな。……今は何の話をしてたんだ?」
「めぐっちにはまだヘブンズクラッシュを放ったことはない……って話っス」
「まだそんな話続けてたのかよっ!」
「いえ別に、どうしてもメグルさんにヘブンズクラッシュを放ちたいとかいう話ではなくて……」
「当たり前だっ」
「あの、恵比寿大黒鬼さんはヘブンズクラッシュで悶絶してましたけど、メグルさんだとどうなんだろうっていう話をですね……」
「何の話だよっ」
「ほら。メグルさんは、ヘブンズストライクで少し気絶するようになったじゃないですか。鬼の能力を取り込む代わりに邪成分が増えてるのかもしれないっていう仮説で」
「ん……。そうだな」
「それじゃあ、ヘブンズクラッシュを今受けたらどうなるんだろうなって話を……。恵比寿大黒鬼さんと比較してどうなんだろうな……ってことを話してたんです。それから……」
「さあな。それは俺にはわからんけども……。って、なに俺の背後に回ろうとしてるんだっ。こんちゃん! マッコちゃんもだっ!」
「あはは。さすがに、戦闘回数を重ねてると勘が鋭くなってくるねー」
「でもまだマッコたちには敵わないっスよ。きしし」
すぐに、背後から両腕をとられてしまった。これでは元栓制御のコントローラーも使えない。
「さー。いいよー、ひより。存分にやっちゃいなよー」
「悪いようにはしないっスよ。めぐっち」
「ま、待て。悪いようになるだろっ。あのな。邪だとか関係なく、あんなの食らったら大変なんだからなっ。おまえらにはわからんかもしれんけどっ! あっ、ひよりっ。近づくなっ」
「うふふ。わたしの探究心が抑えられなくて……。メグルさん、ごめんなさい」
「ちょっ! 待ってくれ! バナナオムレットみんなの分買ってくるから! 風呂代も出すから! やめてくれっ!」
しかし、妖しい笑顔を浮かべながら、ひよりが近づいてくる。ああ、なんでこんなことに。
そして、ひよりの手が俺にのびる。……ん? 手? 蹴り上げるんじゃないのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます