その49:鬼具を危惧して
大黒様の形をした鬼か。あくまでも、鬼に形態変化をする前の形ということだが。でも、その形と関係する能力を持っていたりするんだよな。こいつら鬼って。
「うーん。こんちゃん、こいつの能力ってなんだろうな」
「なんだろうねー。一応は七福神っていうことだから、神様なみの力持ってたりすると、ヤバいねー」
「でも、事前情報じゃ弱い鬼ってことだったよな?」
「そうだねー。実際、強そうではないねー。問答無用でやっちゃえばいいのかねー。あはは。フォックスフレイム!」
「グカカッ」
こんちゃんは炎の矢を大黒鬼に向かって放つ。それに対して、大黒鬼は何かを下に打ちつけたようだった。すると、打ちつけた場所から、大量の水が噴き出した。炎の矢は消火される。
「え。また水ー? 最近の鬼、水ブーム? 困ったもんだねー」
「水があいつの能力なのか? 大黒様と水って関係あるのか?」
「必ずしも、形と能力が関係あるわけでもないけどねー。それに、こじつければ、何でもアリだろうけどねー。でも、アタシの見たところでは、これはアイツ自身の能力じゃない感じがするねー」
「あの鬼自身の能力じゃない? どういうことだ?」
「たぶん、アイツの持ち物……」
「グカカ。バレたカ。タシカに、オレのチカラはヨワイ。ダガ、このキグはイチリュウヒンダイダイだ」
「器具? なんだ、器具って」
「ナンカ、カンジがチガうヨウナきガスルから、イッテオクぞ。キってイウノハ、ウツワじゃナクテ、オニだカラな。ダイダイダイ」
「……ウツワじゃなくて、オニ? ……ああ。器具じゃなくて、鬼具ってことか。おまえら、カタコトでしゃべるからわかりづらいんだよ。それとその語尾無理につけるの、冗長だからやめろ」
「そっかー。鬼具が大黒様の持ち物っぽいやつかー。それはちょっと面倒だねー」
「……大黒様の持ち物って、なんだっけ」
「打ち出の小槌ってやつだねー」
打ち出の小槌……。昔話なんかでよく出てくるやつだな。大黒様というより、もともとが鬼の持ってる宝物だった気もするが。望みのものがなんでも出てくるんだったか。一寸法師を大きくしたり……。
「ほぅ。そうすると、この鬼は俺たちが欲しい物を出してくれたりするのかな。いい鬼なんじゃないか?」
「グガガ。ダレがソンナモノだすカ。オマエらヲたおすタメのモノをダスのダイダイ」
ふむ。さっきの水もそういうことで出したのか。……でも、そんなの相手にして勝てるのか? トータル的には、スゴい強い相手だろ? こいつ。
「こんちゃん、あいつが言ってるのが本当なら、大変なんじゃないのか?」
「んー。打ち出の小槌って言っても、そんなに万能じゃないはずなんだよねー。アイツらの鬼具って、アタシたち巫女が使う護符みたいなものでねー。性能はピンからキリまであるんだよねー。そんななんでも出来るような、古から伝わるレジェンド鬼具をこんな弱そうな鬼が持ってるはずないしねー」
「なるほど。なんでも出来るわけじゃない……か。でも、水を出されるとこんちゃんはやりづらいよな」
「そうだねー。でも、水を無限に出せるわけでもないみたいだからねー。たぶん、さっきの水は何もないところから出したんじゃなくて、そこの水場の水を転送しただけだねー。つまり、あの打出の小槌は、結界内のものを移動させるだけと見たね。だから、攻撃を続ければ水も出なくなるだろうねー」
「ビクッ。ナ、ナ、ナ、ナニいってルカー。ソ、ソ、ソ、そんなコトアルカー」
あ。図星だな。こいつもごまかすのヘタだな。しかし、こんちゃんって戦闘に関しての洞察力あるな。
「ふむ。そうすると、この大黒鬼は決まった場所にあるものを移動させるだけの、倉庫番鬼みたいなもんだってことだな。しかも自分の能力なんて持ってなくて、アイテムに頼るだけのやつか」
「グガガーッ。ばかニスルなっ。ノウリョクくらい、オレだってモッテる! トビキリのヤツをナ! ミセてヤロウ」
「さっきから、語尾はいいのか?」
「ア。ダイダイダイ」
「素直なやつだなぁ」
「オオキクなアれ!」
そう言いながら、大黒鬼は打ち出の小槌を地面に打ちつける。大黒鬼の前には、人の頭ほどの大きさの岩があった。
「お。そんな岩、どこかから移動させたのか?」
「グカカ。コノこづちハ、タシカにナニもウミダサない。イドウさせるダケだ。シカシ、モノをオオキクしたりチイサくシタリするコトハできルノダ。おとぎバナシのヨウニな。コレはイワではナイ。ソノへんのコイシだ……ダイダイ」
「ほぅ。なんか、それだけでも使いみちありそうだな」
「グカカ。ソシテ、コレにオレがテでフレルト……」
大黒鬼が、小石だった岩のようなものに手で触れる。すると、小石だった岩のようなものは爆散した。
「うおっ。びっくりした。手で触れただけで爆発させる……だと?」
「グカカ。コノバクハツが、オレのホントウのノウリョクだ。オマエらモアトカタもナクしてヤロウ。……ダイダイ」
「わざわざ思い出してまで語尾つけなくていいぞ。……しかし、強そうな能力だな」
「あはは。そんな強い能力を持ってるとも思えないんだけどねー。でもまー、どっちにしても近づかずに攻撃すればいいわけだよねー。フォックスフレイム!」
大黒鬼はまた小槌を使って水を出し、防ぐ。
「あはは。水、量が多いよー? 使いすぎだって。すぐに使える水、なくなっちゃうよー? フォックスフレイム!」
「グガガ。ミズのリョウのチョウセイがデキン……。シナノガワはチカクにアルが、ケッカイのソトだ。シキチにミズはマダあるガ、タシカに、そのうちナクナッテしまう……」
「観念したほうがいいんじゃないー? フォックスフレイム!」
「グガガァッ」
大黒鬼が小槌を打ちつける。また水を出すのか。……と思った瞬間、俺の視界に変化があった。
「おわぁっ!」
俺の視線の先にはこんちゃんがいて、こんちゃんの放った炎の矢が俺に向かってきていた。俺は咄嗟に背中を向ける。炎の矢がわきに逸れていく。受け流しだ。元栓は、もちろん開いてある。
「グガ? オマエ、なんともナイノカ? タテにしてヤッタとオモッタのに」
くそ。こいつ、小槌で俺を自分の前に転送して、盾にしたのか。俺に受け流しがなかったら、いつもフレイムを受けて慣れてなかったら、大変なことになってたとこだぞ。
「おおー。メグルくん、危なかったねー。こういうときのために、いつもフレイム撃ってたんだよー」
「ウソつくな。まぁ、役に立ったのは事実だから何も言えんけど……」
しかし、俺のすぐ目の前には大黒鬼がいる。こいつに触れられてしまったら……。俺はそれに気づき、咄嗟に後ろに跳躍する。こいつが手を伸ばせばすぐに届いてしまう。間に合うか……?
「グガァッ。オオキクなアれ!」
大黒鬼は、手で俺に触れようとはせず、また小槌を打ちつけてきた。地面ではなく、俺に向けて。しかも、大きくなれ?
俺の咄嗟の跳躍は、飛行能力の一端が発現した大きな跳躍になった。俺はこんちゃんのそばに着地する。しかし、大黒鬼の小槌も俺の左足先をかすっていた。
「メグルくん、危なかったねー。でも、避けられてよかったよー。……なに、その足ー。気持ちわるー」
「ん? 足……? うわ。何だこれ」
俺の左足は、そちらだけ大きさが二倍くらいになっていた。歩きづらいことこの上ない。
「グカカ。アシにアタッタか。ソコにオレがフレれば、ダイバクハツだ。……ダイダイ」
「ふーん。なるほどねー。アンタの能力は小さいものだけど、小槌の力で大きくすれば、爆発も大きくなるってところだねー」
こんちゃんは、足元にあった小石を大黒鬼に向かって投げる。いいコントロールだ。大黒鬼はその小石を手で払う。ポンッと軽い爆発音のような音がするが、小石はその場に落ちただけだ。
「つまり、小槌で大きくしてなければ、大した爆発にはならないわけだねー」
「そうか。さっきの岩を破壊したやつは、かなり大きくしたんだな。でもまぁ、結局やつに触れさせなければいいわけだろ。小槌の転送で近づいてしまうのにだけ注意すればいいと。それさえわかってれば、大丈夫だ」
「グカカ。ワカッテればナ。……ダイダイ」
ん? こいつ何かたくらんでるか?
「マッコストーム!」
あーっ。またマッコの技があの変な魚の入れ物、ビクって言うっスか? あれに吸収されてしまったっス。マッコバレットとか放っても、あの鬼には当たらずにビクの方に行ってしまうっス。
「ひより先輩~。やっぱり遠距離攻撃は吸収されてしまうっス。直接行くしかないっスかね」
「そうだね。でも、近づこうとすると瞬間移動しちゃうからね……。あの釣り竿の力かな……」
「いらいらするっスよね~。逃げてばっかりで」
「あの釣り竿にビク……。どっちも鬼具なんだろうね。あんなのを持ってる鬼が出てくるなんて……」
「本人は弱そうっスけどねぇ」
「うん。近づけさえすれば、なんてことないんだけど……」
狭い屋根の上なのに、この鬼、恵比寿鬼っスかね、ぴゅんぴゅん瞬間移動して、捕まらないっス。
「グキキ。オソいオソい。もうスグあにきガもどッテくるダロうから、ソウすればオマえらもオワりだエビ」
「兄貴……。兄弟なんスね。こん先輩とめぐっち、大丈夫っスかね」
「あちらの鬼もそんなに強くなさそうだし、大丈夫だと思うけど……。でもこの分だと向こうも鬼具を使ってそうだね……」
「どんな鬼具っスかね。口ぶりからすると、攻撃系っスかね」
「かもね……。でも、うーん。あの瞬間移動の鬼具、護符に応用できるといいんだけどなぁ」
「ひより先輩の探究心はスゴいっスけど、今はまずあいつを倒さないとっスよ!」
「うん。わかってる。でも、だいたい移動のパターンがわかってきたし、仕掛けも終わったからね。次で抑えようか」
「はいっス。それじゃあマッコがまず殴りに行くんで、逃げたところをお願いしまっス。逃げ場はマッコバルーンを使って制限されてるはずっスから」
「うん。それじゃ、お願い!」
「行くっスよー! マッコパンチ!」
マッコは恵比寿鬼に向かって飛んで、マッコパンチを繰り出したっス。これは別に能力でもなんでもなく、単なるパンチっスけど。一応技名をつけて叫ぶと、効きそうな気がするっス。
「グキキキキ。むだダってノガワカラナイのカ。エビエビ」
でもパンチが届く寸前に、恵比寿鬼は移動してしまったっス。作戦とも知らずに。
ここまで散々攻撃を避けられてきたっスけど、その傾向を見てひより先輩が吉方位も加味して位置を予想してきたっス。さらに要所に相手には見えないマッコバルーンを配置することによって、その予想位置に確実に来るように仕向けてあるっス。さすが、ひより先輩っス。
「エビエビ……。グギッ? ナンでココに……」
「来ましたねっ。待ってましたよっ。ヘブンズ……!」
ひより先輩のヘブンズストライクが出るっス! これでお終いっスね!
と思ったんスけど、そこでなぜか忽然とひより先輩が消えてしまったっス。
え? なんでっスかっ?
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