その48:みなとぴあと飾り瓦
新潟市歴史博物館。みなとぴあ。信濃川の河口にあって、元は幕末に新潟が開港されたときの税関みたいなものがあったところだと言う。運上所と言うんだったか? 俺はあんまり歴史に明るくないので、詳しいところはよくわかってないんだが。
税関の建物は今も残っていて、和風のような洋風のような不思議な感じを出している。税関の建物が残っているのは、当時の開港五港の中でもここだけなんだとか。
他にも、博物館本館は昔の市庁舎の復元だそうだし、レトロな銀行の建物を移築してレストランにしていたりするらしい。この敷地にも、堀を模したような水場がある。新潟の人、ホントにこういうの好きみたいだなぁ。そして、佐渡汽船のフェリーが出ていくのを対岸に見ることが出来るのはなかなか面白いと言う。俺はまだ見たことないけれども。
そのみなとぴあが、俺たちの入ろうとしていた銭湯のちょうど東側にあたる。百メートルか二百メートルないくらいの距離だろうか。すぐそこだ。そしてみなとぴあを超えればもう信濃川になってしまうので、場所としてはそのあたりしかあり得ないだろう。
「マッコちゃんの湊稲荷もこの近くだけど、みなとぴあは見てみたのか?」
「敷地の中は自由に入れるので、一応見てみたっス。マッコもまだ来たばっかりなんで、あんまり詳しくは見てないっスけど……。あと、博物館の中は見てないっスけどね」
「媒介石になりそうなものは?」
「特にはなかったと思うっス。オブジェの類もなかったっスしね……」
「こないだの鶴鬼みたいに、壁の装飾みたいなのも怪しいけどねー」
「そういうのも見てみたっスけど、媒介石になりそうっていうのはなかった気がするっス」
「媒介石探すのって、なかなか難しいもんね。まぁ、今回はもう出てきちゃってるみたいだから、そいつを倒すだけだけどねっ」
「そうだねー。お風呂を邪魔した迷惑な鬼は、ちゃちゃっと封印してやらないとねー。そしてそのあとゆっくりお風呂だねー」
「ちゃちゃっと終わればいいっスね」
「弱い鬼っぽいので面倒ではないと思いますけど、油断は禁物ですね」
「そうだな」
道路をはさんで、みなとぴあが見えた。というか、さっきから見えてはいたんだが。それほど近い場所だ。みなとぴあに向けて道路を横断しようとしたところで、ひよりが声をあげた。
「……あれっ?」
「ん? どうした?」
「鬼の反応が……。東じゃなくて南側になってます」
「南? みなとぴあはすぐそこだけど、東側だと思うぞ。鬼が移動したのか?」
「いえ……。鬼の位置は変わってないです。ずっとそこにいるんですけど……。わたしたちが向かっている方向が間違ってるみたいです」
「えー? 鬼がいるの、みなとぴあじゃないのー? ここから南って、何があるのー?」
「この南って、普通の住宅街っスよ?」
「でも……とにかく、南ですっ」
「んー。ひよりの方向感覚は壊滅してるけど、方位指示は的確だからな。間違いないだろうな。そっちへ行ってみよう」
「なんだか、傷つけられてる気がするんですけど……」
「褒めてるんだぞ?」
とりあえず、南の方向へ向かってみる。
横断してみなとぴあに渡ろうとしていた道路を、渡らずに南側に向かう。そして信号のある交差点に差し掛かったところで、またひよりが声を出す。
「あっ。鬼の反応、移動しました。東の方へ……」
「東へ……? なんだ、結局みなとぴあか」
「そのようですね……。……えっ? いえ、まだ反応はここにあります!」
「ん? 東へ移動したんじゃないのか?」
「移動はしてますっ。そして、ここにもいるんですっ」
「なに? ということは、つまり……」
「鬼は、二体いるんですっ。……反応が揺らいでる感じがしていたのは、二体いたからですね」
「えー? 二体ー? 反則じゃないのー?」
「まぁ、俺たちだって四人で戦ってるんだからな。向こうが複数でも文句は言えない気がするが」
「ひより先輩っ。反応はここにあるって……。鬼はどこにいるんスかっ?」
「鶴鬼さんのときと似てる感じ……。たぶん……この上だよっ。そして、もう一体はたぶん、みなとぴあっ」
「上? この家の屋根の上ってことか? そんなところに、二体の鬼がいたのか?」
「なんだかわからないっスけど、屋根の上っスか? それなら、マッコの出番っスね」
「うん。二体いるんなら、二手に分かれないとだねっ。それじゃあ、マッコちゃんはわたしをリフトして、一緒に上で戦おう。こんちゃんとメグルさんは、みなとぴあの方を追ってくださいっ」
「おう。でも、封印しなきゃだよな。それはどうする?」
「メグルさんの方の封印が先に終わったら、こちらに来てください。こちらが先に終わったら鬼を拘束してそちらへ行きます」
「了解ー。よーし、メグルくん、アタシたちはみなとぴあだねー。行くよー」
「おう。よろしく頼むぞ。こんちゃん」
「おまかせー。あはは」
「それじゃあ、ひより先輩、マッコたちも行くっス!」
「うん。お願い」
「マッコリフト!」
俺とこんちゃんは道路を渡ってみなとぴあに向かう。ひよりとマッコちゃんは、屋根の上へ。こんな戦い方は初めてだな。まぁ、戦い自体そんなにしてるわけでもないけれども。
「……みなとぴあか。博物館はもう閉館してる時間だけど、入れるのかな」
「公園っていうか、広場は入れると思うよー? まー、建物の中だと困っちゃうけど、鬼の結界はたぶん広場だねー」
「こんちゃん、わかるのか?」
「うんー。傾向からするとねー。アタシたち巫女の結界は神社内だけど、鬼の結界は広いスペースのことが多いんだよねー。媒介石のある場所、プラス、近所の広い場所。っていうのが鬼の結界になりやすいねー」
「確かに……。甲羅鬼は旧湊小学校、鶴鬼は西大畑公園が結界だったけど、媒介石近くの広場ということだったな。ロリコン鬼はもともと公園が媒介石のある場所だったからな」
走りながらそんな話をしていると、すぐにみなとぴあに着く。あれが鬼だろうなと思われるやつが、芝生広場にいた。広場に入ると、やはりここが結界のようだ。空気の密度が変わったような、変な感じがする。そして向こうも俺たちに気づいたようだ。
「グガ? ナンだ? オマエタチ。……ソッチのオンナハ、ミコか……? ナンカ、くさイとオモッタら」
「失礼なやつだねー! 誰がくさいってー? まぁ、アンタたちが出てきたせいで、お風呂入ってないんだけどねー」
「ウワー。クッサー。ダイダイダイ」
「あったま来たよー。乙女に対してー。今、消し炭にしてやるよー! ……ん? アンタのその形……」
今回の鬼はどんなやつなのか。能力は何か。俺もそれを気にしていた。やつらの能力は、媒介石の形に由来することが多いみたいだから、形を見ようとしていたのだ。周囲は暗いし、相手はとても小さかった。それでよく見えなかったんだが。
「おまえ……。その形は、大黒様か? 感じからして、飾り瓦ってところか。さっきの家の、屋根に付いてる瓦ってことだな?」
「ホウ。よくワカッタな。ソウイウことダイダイダイ」
「大黒様の形だなんてねー。うちの開運稲荷にも恵比寿大黒像はいらっしゃるけど、そんな姿をとるなんて、おこがましいねーっ! 語尾もいらつくしー」
「……なるほど。恵比寿大黒か。つまり、まだ向こうの屋根にいるっていうのは、恵比寿様の飾り瓦か」
「それじゃあ、行くっスよ。ひより先輩! マッコリフト!」
マッコは確かに高所恐怖症っスけど、ひより先輩と一緒なら怖くないっス。長いこと一緒に練習してきたっスからね。そもそも、五メートルくらいの高さであればひとりでも耐えられるっス。下に安定した足場があれば怖くはないっスから、屋根の上でもまぁ、あんまり恐怖なく戦えるはずっス。
……あれ? めぐっちがいないんで、ここはマッコが語りっスかね。自分で何言ってるのかわかんないっスけど。
「あ。いたよ! マッコちゃん。あれが鬼だね」
「……あれっスか。なんか、ちっさいスね」
「……マッコちゃん、なんか傷つくんだけど」
「な、な、ひより先輩のことじゃないっスよ! 鬼がっスよ!」
「それはわかってるんだけどね。なんだか、ちょっとね。小さいのをバカにされてるみたいでね……」
「すみませんっスー! マッコが悪かったっスー! 許してほしいっスー!」
「そんな謝られるようなことじゃないんだけどね。むしろまた傷ついたというか……」
ああ。どうすればいいっスか。ひより先輩、たまにムズカシイっス……。
「……って、そんなこと言ってる場合じゃないねっ。鬼をやっつけなきゃ!」
「はいっス!」
マッコたちは、二階の屋根の上に下りたっス。向こう側には、小さな像みたいなやつがいるっス。
「グガ? ナンだ? オマエタチ。……ミコか? クルのハヤいナ……。ヒマなのカ……? チイサいコドモもイルじゃナイカ。ハヤくカエってネろエビ」
「なっ。小さい子どもって、わたしのことですかっ。わたしはマッコちゃんより年上ですからねっ。そもそも、あなたのほうがよっぽど小さいでしょっ!」
「グキキ。イマはナ。ホンライのオニのスガタニなれバ、オオキくなるエビ」
「エビ? なんですか、その語尾はっ。ふざけてるんですかっ。……ん? その形は……?」
なんだかふざけた語尾のそいつの姿は暗くてよく見えなかったっスけど、長い棒みたいなものを持っているみたいっス。
「それは、釣り竿ですねっ。こっちにある飾り瓦は大黒様みたいですし、あなたの媒介石は、恵比寿様の飾り瓦ということですねっ! そして、さっき移動したもう一体はおそらく大黒様の形!」
「グキキ。オオアタリ。ダイセイカイだエビエビ」
「なんかイラつくっス! そんな、キャラ付けみたいな語尾、ダサダサっス!」
「グキキ。オマエモナー。エビエビ」
「あああーっ。あったま来たっス! ひより先輩! やっちまいましょうっス!」
こんなふざけたやつ、さっさと吹き飛ばしてやるっスよ!
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