その47:鬼の反応と水着回
う……。あれ。どうしたんだっけ。……ああ、ひよりのヘブンズストライクを食らったんだったか。また気を失ってたんだな。
目を開くと、ひよりとこんちゃんとマッコちゃんの三人が俺の顔を覗き込んでいる。
「あ。気がついたねー。ちょうどニ分くらいだねー」
「今回、キレイに入ったっスけどねー」
「最近は受け流されることも多かったから、ちょっと気持ちよかったりして。うふふ」
「う……。あのな。人の腹を殴って気持ちいいとかいう神の使いがどこにいるんだよ」
「だって……。失礼なことばっかり言うから……」
「あはは。まーねー。でも今回はひよりがバナナオムレットを三つも食べたのが原因なんだから、許してあげなよー」
「それを言われると……」
「それでなんで俺が殴られるのか納得いかないところはあるが、まぁそれはいいや。いつものことだしな」
「さすがめぐっち、殴られ慣れてるっス」
「俺も慣れたくはないんだが。それはそれとしてだ。このコントローラー、俺専用じゃないのかよ。……出ろっ」
おれは左腕に浮き出たコントローラー、元栓制御の固着紋をひよりの方に向ける。
「それはまぁ……。一応、封邪の護符と連携するので、メグルさんの声に対して反応するようにはなってるんですけど、護符の製作修正過程でいろいろやる必要があるので、わたしの声でも動くようにはなってますよ?」
「なるほど……。管理者権限みたいなもんか。であれば、不自然ではないだろうけど……」
「マッコの声じゃ動かないんっスか? ……消えろっ」
「……消えないな。反応するのは俺とひよりの声だけってことか」
「それほど厳密な声紋チェックとかしてるわけじゃないですから、声マネとかでも動くかもしれないですけど、そんなことまでする相手もいないでしょうね」
「ふむ……。いやでも、ひよりはその気になればいつでも俺の受け流しを解除することができるわけじゃないか。そのうえでヘブンズストライクを……」
「うふふ。そうですよ。いつでもメグルさんを殴れるわけです。これからは失礼なこと、言わないようにすることですね」
「うぐぐ……。そのためにこの元栓制御の護符を作ったんじゃないだろうな」
「かもしれないですね。うふふ」
うむむ。そのために作ったなんてのは冗談だろうが、結果としてそのように使えるものになってしまってるからな。なんてこった。でもまぁ、さっきはテンパってしまったが、あのあと俺がもう一度「出ろ」と言えば受け流しは発動したんだろうから、次はそうすればいいだろう。次を見ていろ。
「さてー。メグルくんも目覚めたようだし、お風呂かねー」
「今日も入るのか」
「だってねー。今日は朝からランニングしたりイチャついてるところを見せられたりマッコの仕事相談したりバナナオムレット食べられなかったりして疲れたからねー。それは入るよねー。あはは」
「あ。それじゃあ、お風呂代はマッコが出すっス」
「あー。マッコはまだいいよー。今日が初バイトだったんだし、大事にしなよー。今日はひよりが出してくれそうな気がするしねー。あはは」
「うう……。なんか断れない……。今日はカフェもお休みで収入ないのに……」
「いつも俺に出させて貯め込んでるだろうが」
「そんなに貯めてませんよっ。メグルさん、半分補助してください……」
「この上まだ出すのか。バナナオムレットだって四人分出したのに……」
「そう言って結局出しちゃうのがメグルくんだよねー。あはは」
「めぐっち、優しいっス」
「くそ。しょうがないな……。いや、おまえらが自分の分は自分で出せばそれで済む話なんだが」
こんちゃんは横を向いて、吹けない口笛を吹いた。
巫女三人はセーラー服にコスチュームチェンジして、俺たちは街側の階段を下りる。
「コスチュームチェンジも、毎日してると慣れるもんだねー」
「そういや、ひよりが最初にコスチュームチェンジしたとき、精神力使うとか言って変な顔してたけど、こんちゃんたちはそんなことなかったのか?」
「アタシも最初はちょっとねー。メグルくんには見せなかったけどねー。あはは」
「マッコはあんまり苦にならないっス」
「マッコちゃんはコスチューム好きだもんね。わたしやこんちゃんはあんまりやらない方だけど」
「ヘヘヘ。体操着以外はだいたい好きっス」
「うーん。体操着ももうちょっとねー。ブルマとかじゃなければねー。名前入りゼッケンもだけど」
「恥ずかしいんだよね……」
体操着、やっぱり不評なんだな。神様もちょっと考えてあげればよさそうなもんだが。
「あ。そういえば、ひより先輩。新作水着はどうだったんスか?」
「そうだねー。スク水じゃないやつを神様に設計してもらうって言ってたねー」
「それは……。ちょっと今回時間がなかったので……。次回作ってくれるって言ってたんだ……」
「そうっスかー。今回は帰りが早かったっスからねー。残念っスね」
「まぁ、あんまり水着にコスチュームチェンジするなんてこともないんだけどね」
「いやー。わかんないよー? 夏の海辺に鬼が現れるかもしれないしねー」
「別に海岸で戦うとしても、巫女服でいいでしょ?」
「暑くて大変だよー。砂が服に入ったりして動けないかもしれないしねー。あはは」
「こん先輩は暑がりっスからね。特に大変かもしんないっスね」
「もし真夏の海で戦うんだとしたら、アタシは水着になっちゃうかもだねー」
「じゃあ、マッコもそうするっス」
「そうなったら、ひよりもだねー。ひとりで巫女服ってわけにもいかないよー?」
「べ、べつにひとりで巫女服でもいいでしょっ? 戦えさえすればっ」
「えー。ダメでしょー。そのときはたぶんメグルくんも水着だよー」
「え。俺も入ってるの?」
「もちろんだよー。メグルくんだって、アタシたちのチームなんだからねー」
「俺はコスチュームチェンジなんてできないぞ」
「水着持ってきて、その辺でモソモソ着替えればいいよー。結界で外からは見えないだろうしねー。あはは」
「その辺でって……扱いが雑だな」
「メグルさんがその辺で……。わ、わたしは後ろ向いてますからっ」
「あたりまえだ」
「めぐっち、フケツっス」
「おい。何想像してんだ」
「あはは。たぶん海岸になんて鬼は出ないだろうけどねー。媒介石になりそうなものもないしねー」
「……テトラポッドとかは、どうだ?」
「あ。なんだか、そういうのもありそうな気がしてきますね」
「うーん。ありそうかなー。どうだろうねー」
「テトラポッドっスか。あんまり見たことないっスけど」
「海の探索なんてしてないからねー。今度、行ってみないといけないかねー」
「海、行くっスか? ひより先輩の水着が出来たら、行きましょうっス。水着回っスね」
「まぁ、もともと海のそばにいるんだから、海に行くも何もないような気がするけどもな。なんだ、みずぎかいって」
「まー、そういう機会があったらねー。あるかねー。あはは」
そんな話をしていると、そろそろ銭湯に近づいてくる。
「マッコたち、最近お得意さんっスね。この銭湯」
「まぁ、よく来てるよな。主に俺の金で」
「ずっとメグルくんに出させるつもりないからさー。今日はお願いー」
「今日も、だろ」
「今日もお願いー。あはは」
「今日はわたしも出すけどね……」
「ひより先輩、あざっス! バイトが安定したら、マッコが出すっス」
「マッコちゃんありがとう……。よろしくね」
「まー、なにはともあれ、お風呂だよー。おっふろーおっふろー。あはは」
銭湯の暖簾をくぐろうとしたとき、ひよりが立ち止まった。そして告げる。
「あ……。鬼です。鬼の反応が出ましたっ」
すでに暖簾をくぐっていたこんちゃんが出てくる。
「鬼ぃ? こんな時間にー? 人がお風呂入ろうってときに、非常識だねー。出たの、確定?」
「たぶん……。なんだかちょっと変な反応だけど、確定みたい……」
「なんだ? 何が変なんだ?」
「ちょっと揺らいでる感じがするんです……。でも、消えないから、完全に出てきてはいるみたいです」
「しょうがないなー。行こうかー。どっち? 遠い?」
「どうだ? ひより。遠くか?」
「いえ。近いです。すぐ近く。東の方です」
「東……? ここから東だと……みなとぴあ……かな」
この近くには、新潟市歴史博物館、愛称・みなとぴあがある。鬼の媒介石になるようなものも、こういったところにはあるかもしれないという気はするが……。
ひよりたちは見えないところで巫女服にコスチュームチェンジし、俺たちはみなとぴあの方へ向かった。
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