その46:胸焼け幼児体型巫女
「それじゃあ、次は水の能力を試してみましょう」
「ん。水はなぁ。こんちゃんが攻撃してきたときには有効だから使えたほうがいいな」
「アタシだって、そんなむやみに攻撃したりしないよー。あはは」
「けっこう燃やされてるような気がするんだが」
「ひどいなー。人を放火魔みたいに。フォックスフレイム!」
「おわっ。放火魔だろうが!」
俺は咄嗟に左手を出し、水の膜を展開する。火の矢は消火される。
「メグルさんが出せるのは、この水の膜と水流ですね。水の盾と、水の銃と名付けておきますが」
「水の銃……。水鉄砲よりはいいか」
「まずは、水の盾です。十字ボタンの右を押して、次は左を押して、もう一度右、もう一度左です。いいですか? その状態で左手を前に出して、Aボタンを押してください」
ひよりの言うとおりにやってみる。突き出した左の手の平。その前に、水の膜が現れた。
「おっ。出たな。……でも、なんだかまどろっこしいぞ。水の盾が必要になるのは咄嗟のときが多いから、こんなことやってると間に合わんような」
「……言われてみれば、そうですね。誤操作を防ぐためにちょっと複雑にしてるんですけどね……。これも改良ですか」
「まぁ、咄嗟のときは自動発動してるんだから、それだけでもいいっちゃいいんだけどな。使いやすいに越したことはないな。鶴鬼みたいに、目くらましみたいに使うこともあるかもだしな」
「では、要改良……と。それじゃあ、水鉄砲……じゃなくて、水の銃をやってみましょう」
「ああ。これはどうやるんだ?」
「ええとですね。十字ボタンの、右から下、左、上、と回すように押していってですね、最後に左ボタンと下ボタンとAボタンの同時押しです」
「めんどくさいわっ。必殺技コマンドかっ」
「やはり、銃ともなるとそう簡単にはできないようにした方がいいかなと……」
「コマンド完成する前にやられるだろ? だいたい、コントローラーは俺の左腕についてるんだから、片手しか使えないんだぞ。複雑なボタン操作なんてできないって。まぁ、頑張れば押せないことはないけど、指がつりそうだ」
「あ……。なるほどですね。片手しか使えないんですね」
「今気づいたのか……。もうひとつ言わせてもらえば、水流は基本的に手のひらから出るから、指でボタン押したりしてると手を相手に向けにくいんだよ」
「うーん。そうですね……。現場の声っていうのは重要ですね」
「頭の中でシミュレーションしてみるだけでわかりそうだが……。とにかく、これも」
「……改良ですね」
結局、ファミコン風元栓コントローラーは、アイデアはよかったが実際には使いにくいという残念な結果になった。
「うう……。いろいろ頑張ったんですけど……」
「改良はできるのか?」
「はい……。でも、コマンド登録くらいは簡単なんですけど、もっと構造的な部分で直さないといけないところもあるみたいなので、また時間かかるかもです……」
「ん。まぁ、これだけのものが一日で出来てるだけでスゴいと思うけどもな。それに、当初の目的は元栓を締めることだからな。それは出来てるんだから、全然失敗じゃないぞ」
「そうだねー。目的は達成できてるわけで、使いにくいのはオプション部分みたいなもんだよねー。あはは」
「マッコたちが思いつかないし出来なかったことをすぐやっちゃうんスから、そこにシビれるっス。あこがれるっス」
「うう。なぐさめてくれてありがとう……」
「いや、みんなホントにスゴいと思ってるんだぞ。ダメだったのは調子に乗ってやっちゃった部分だったんだから、自信なくすなよ」
「なんだかその言い方はちょっと……」
「まぁ、改良版がいつできるのか知らないけど、俺としては元栓が締められればいいんでな。改良はゆっくりやってもらっていいぞ」
「あ……。今のコントローラー、使ってくれるんですか?」
「ん? もちろんじゃないか。必要な機能自体はあるんだからな。まぁ、デザインはちょっとアレだけど。他人には見えないんだからいいや」
「あはは。一応これでメグルくんの元栓に関してはオッケーだねー」
「そうだな。そのうち改良もしてくれるようだしな。……あとは、調教札を処置封印してくれればな」
俺はひよりを見る。
「あの……。調教札の処置はしますけど……。もうちょっと待ってもらいたいんです……。コントローラーの改良のために、まだ参考にしたいので……」
「あー。あれ面白いから、まだあった方がいいよねー。あはは」
「そうっスね。まためぐっちがひより先輩を襲ったりしたときは、それで撃退するっス」
「面白くないし、あれは襲ったわけじゃないってわかってるだろっ。……んー、まぁ、ちゃんと管理してくれるんならな。こんちゃんやマッコちゃんには絶対渡すなよっ?」
「はい……」
ひよりは、懐に入っているらしい調教札を意識してか、胸元をそっと抑えて言った。
「さてー。一応今日の業務は終了かねー。あはは」
「どこからどこまでがおまえらの業務なんだよ」
「んー、まぁ、いつ鬼が出るかわかんないんだし、一日すべてが業務ではあるけどねー。でもどこかでメリハリつけないとねー」
「それはそうだな。一日中気を張ってるわけにもな。……でもおまえら、日中けっこうリラックスして遊んでるじゃないか」
「失礼だねー。社務所のバイトもあるし、メグルくんがいないときも探索とかしてるんだからねー」
「そうっスよ。鍛錬とかもやってるんスから。その合間に遊んでるんっスよ」
「あー。悪かったよ。この日和山にいつ来ても、三人でくっちゃべってるみたいに見えたからさ」
「それもまーねー、作戦会議っていうかねー。アレだよねー。あはは」
「そうっスよ。アレっスよねっ」
「ん。ひより、どうした? 黙ってるけど。護符のことなら気にしないでいいって言ったろ?」
「いえ……。それはもう、大丈夫です……」
「んー。ひよりー。どうしたのー? 食べすぎて胸焼けしちゃったときみたいな顔してー」
「ビクッ。えー? そんなことないけど……」
「こん先輩、そういうのわかるんスか?」
「付き合い長いからねー。いろいろわかるよねー」
「さすがっスねー。ひより先輩、食べ過ぎたんスか?」
「え、いや、あのー……」
「そういえばさー。ここに来る前に商店街の和洋菓子店でバナナオムレット買ってこようかと思って行ったら、売り切れてたんだよねー」
「あー。そういえばそうだったっスよね。人気なんスねー」
「みんなで食べたかったんだけどねー。残念だなー。ね、ひより?」
ひよりの顔を覗き込むようにして、こんちゃんが言う。
目をそらすように首を曲げるひより。それを追うように覗き込むこんちゃん。そらすひより。追うこんちゃん。……ひよりもわかりやすいやつだなぁ。
やがて、観念したようにひよりはうつむき、手をおずおずと挙げる。
「わたしが……やりました……」
ここは一応12.3メートルとはいえ日和山の山頂で、周囲は崖みたいなもんだからな。犯行を自白するにはいいかもしれない。
「うう……。メグルさんが買ってきてくれたんだけど、こんちゃんもマッコちゃんも、今日はもう来ないのかと思って……」
「だからって、三つも食べるなんてねー。あはは」
「残しちゃうのももったいないし……」
「ちょっと待っててくれてもよかったのにっスー」
「ごめんなさい……」
「あはは。別にいいけどねー。でも、罰は受けてもらおうかねー。体操着になってもらおうかねー」
「ええっ。そんな……」
……いつも思うけど、体操着ってこいつらにとってそんなに重いものなのか……?
「アタシもマッコも、特訓のときに体操着姿をメグルくんにさらしてるんだからねー。ひよりもさらすといいよー。あはは」
「わたしは前にもう見せてるし……」
「今の姿を見てもらうんだよー。あはは」
「うう……。なんで……。メグルさん、後ろ向いててください……」
「あ? ああ……」
なんで俺が刑罰の道具になってるのか。
「チェンジコスチューム! 体操着!」
後ろが光って、ひよりが体操着になったようだ。
「……ああっ。これダメっ。メグルさん、見ないでくださいっ」
「はい。メグルくん、こっち向いて見てー。ひよりは隠しちゃダメだよー」
まぁ、見ろと言われたら見るけども、何なんだ。俺は後ろを振り向く。そちらには、体操着を着て両腕をこんちゃんとマッコちゃんにとられ、顔を真っ赤にしているひよりがいた。
「うう……。メグルさん、見ないでくださいぃ」
「どうかなー。メグルくん。あはは」
「え? 別に、いつものひよりと変わらないような気がするんだけど」
「えー? こんな、お腹がぽっこりしたひよりだよー? 恥ずかしいよー?」
「……そうなのか? いつもこんな感じかと思ってたんだが。もともと幼児体型なわけだし」
「なっ……! 誰がもともと幼児体型ですかっ!」
ひよりは両腕をおさえたふたりの腕を振り払い、俺に向かって迫ってくる。
「ヘブンズっ……!」
「わはは。来るのがわかっていれば受け流せるっていうのがまだわからんのか。来てみろ!」
もちろん、元栓制御はスタンバイモードになっている。受け流しは発動するはずだ。しかし、ひよりが言葉を発する。
「消えろっ」
「えっ?」
左腕のコントローラーが消えた。
「ちょっ……。待っ……!」
……そんなのありか? このコントローラー、別に俺の声じゃなくても反応するのか?
「……ストライクっ!」
焦って振り向いた俺の腹に、ひよりの拳がめり込んでいた。
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