その39:マッコフライはおいしいか

「フォックスフレイム!」

 こんちゃんの炎の矢が飛んでくる。炎というか、火というか。鶴鬼に攻撃していたときなんかと比べると、威力は弱そうだ。こちらも水流で打ち消そうとするが、水の膜が出てしまう。一応、それで防ぐことはできたけれども。

「それで『メグルバリアー!』とでも叫ぶとトリガーになるかもよー? あはは」

「なんか、ダサいんだが。バリアってほどでもないしな。それに、今は水流を出そうとしたけどこっちが出てしまったんだよなぁ」

「名前つきの技名がダサいって言われるとなんか複雑っスけど、マッコはそれが一番出しやすいっスよ。ピンとくるっていうか、しっくり来るっスね」

「そういやマッコちゃんの技は、マッコなんとかだよな。こんちゃんはフォックスなんとかで、ひよりはヘブンズなんとかか……」

「基本、神様がこれで行けっていう風に決めるんだけどねー。マッコは自分の名前になったよねー。名前っていうか、愛称だけどねー」

「マッコちゃんは一人称が『マッコ』だからなぁ。出てきやすいワードなんだろうな」

「自分でしっくり来るワードが一番なんっスよ」

「こんちゃんの『フォックス』ってのは、稲荷神社だからってことか?」

「まぁ、そうだねー。でも稲荷神社ってのも多いからねー。マッコのところも稲荷神社だし。アタシの能力が火炎系だったから、狐火っていう連想で『フォックス』になったみたいだけどねー」

「人をたぶらかすからじゃなくて?」

「あはは。言ってくれるねー。フォックスファイヤー!」

 こんちゃんが火炎放射してくる。

「おわっ……と!」

 俺はジャンプして逃げる。その場で助走なく、二メートルくらい跳んで、後方に着地する。

「へー。スゴイねー。咄嗟に一番いい行動をとるもんねー」

「ビビったけどな。今のファイヤーも、威力弱めだろ?」

「そりゃねー。本気でやってメグルくんが死んじゃったら困るからねー。ひよりに絶交されちゃうよー」

「絶交されなかったら俺は死んでもいいのか……。こんちゃんの技は『フォックスフレイム』と『フォックスファイヤー』を見たことあるけど、他にもあるのか?」

「あといくつかは、あるよー。威力が強い分、疲れるし、制御しづらかったりするけどねー。フォックスブレイズでも、お見舞いしてみようかー?」

「いや、遠慮しとく。今までより威力があって制御できないとかだと、ホントに死んじゃうかもだしな」

「あはは。残念だねー。たまに出そうかと思ったのにねー」

「それは、鬼の出た実戦時に、鬼に対してお願いします」


「それじゃあ、マッコの攻撃を受けてみるっス! マッコバレット!」

 マッコちゃんが人差し指をこちらに向けて叫ぶ。初めて聞く技……かな? こんちゃんのフォックスフレイムみたいなポーズだけど、炎の矢が飛んでくるみたいなことはなさそうな……。

「あたっ。あたた」

 腹のあたりに、何かが次々に当たっているような痛みがあった。オモチャのピストルで銀玉でも当てられてるみたいな感じの。

「どうっスか。マッコバレット。空気の塊を高速で射出するっス。威力は弱いんっスけどねー。弾が見えづらいんで、相手は避けにくいっス」

 なるほど。風を操るっていうのは、空気を操るわけだからな。そんなこともできるのか。

「もうちょっと威力を上げて空気塊を大きくして回転させると、マッコストームになるっス。マッコの基本的な攻撃技は、これっスね」

「マッコは戦闘補助系だからねー。攻撃力はあんまり高くないけど、いろんな場面で役に立ってくれるんだよねー。マッコのいるいないじゃ、戦い方が全然違うからねー」

「へへへ。恐縮っス」

「メグルくんに、ひとつ見せてあげようかー」

「やるっスか」

 こんちゃんとマッコちゃんが、二人並んで俺の方に向く。

「フォックスファイヤー!」

「マッコストーム!」

 こんちゃんの放つ火炎放射がマッコちゃんの回転空気塊に乗って、炎の渦となってこちらに向かってくる。俺には当たらず、脇を通り抜けていったが。俺は動けなかった。

「これがアタシとマッコの複合技だよー。なかなかの威力でしょー? あはは」

「どうっスか。見た目も威力もスゴいんスよ」

 こんちゃんのフォックスファイヤーは火力は高いが、射程距離はそれほど長くない。それを空気の渦に載せてやることによって、ある程度の遠距離攻撃もできるようにする。確かに、これは強力だ。

「なるほど……。これは食らいたくないな。ふたりで組んでこそということか……。鶴鬼のときも、これ使えばよかったんじゃないか?」

「んー。それでもよかったんだけどねー。不確定要素もあったからねー。ひよりの『ぶん殴る』の方がより確実だと思ったんだよねー。アタシの方が鶴鬼の揺動しやすかったしねー」

「マッコが未熟で、ひより先輩をガッチリ固定しきれなくて威力減少しちゃったんで、それは反省っスけどね」

「んー。高いところで目を瞑らなきゃねー」

「だから、マッコもめぐっちと一緒に頑張るっス」

「お、おう。頑張ろうな」

 その後も、こんちゃんとマッコちゃんの攻撃を受けたり俺のトリガーワードを考えたりして、特訓を続けた。トリガー、どうもピンとくるものが浮かばないんだが。どうにも恥ずかしいしなぁ。


 俺たちは、しばし休憩する。

「しかし、鬼は自分たちの能力発動はどうやってるんだ? 俺はここまで三体の鬼と戦ってきたけど、技の名前を叫ぶとかしてなかったぞ。まぁ、ロリコン鬼は技という技は無かったけど。甲羅鬼は何も言わず受け流しを使ってた……けど、俺も何も言わずに使えてるか。……でも鶴鬼はやっぱり、別に技名なんて言わずに水出したり飛んだりしてたよなぁ」

「それもそうだねー。鬼の能力の使い方は、アタシたちとは違うのかもしれないねー。メグルくんが持ってる能力はもともと鬼のやつだから、使い方も違ったりするのかねー?」

「どうなんスかねー。能力自体には鬼も巫女もないと思うんスけどねー」

「そうだねー。能力自体に違いはないだろうから、使う側がどうやって使うかだよねー。……まぁ、そもそもメグルくんは巫女じゃないという事実もあるんだけどねー。あはは」

「んー。俺は鬼でも巫女でもなく地上人だから、自分なりの発動の仕方があるかもしれないということか」

「それも推測だけどねー。とにかくまずは、アタシたち巫女流のやり方を試してみるべきだねー」

「そうだな……。それでダメそうなら、またいろいろ考えるっていうことだな」

「そうだねー。じゃ、また特訓再開しようかー。あはは」

「お願いするっス」

「おう。やるか」


「めぐっち、さっきは攻撃回避で高いジャンプしてたっスけど、まだ意識的にはできないんスか?」

「んー。そうなんだよなぁ。攻撃を受けるとかすると、水出したり飛んだりできるんだけどな。自分の意志だけでやろうとしても、うまくいかないんだよなぁ」

「難しいもんっスねぇ」

「マッコちゃんも、飛ぶときは何も言ってないんじゃないか? 聞いたおぼえないんだけど」

「それは、一応訓練したんスよ。飛ぶのはホントは『マッコフライ』って言うんス。でもそれだと、なんだかマッコが揚げられて食べられそうじゃないスか」

「なるほど。ポテトみたいでなんかウマそうではあるな」

「それで恥ずかしくて。まぁ、それだけじゃないんスけどね。マッコフライとかマッコウォークとか、マッコリフトもそうなんスけど、気づかれずに移動したい場合に使うことがあるんで、声は出さない方がいいんス」

「ああ。そうか。鶴鬼のときも、ひよりを持ち上げるために『マッコリフト!』とか叫んでたら気づかれてたもんな」

「そうなんス。トリガーなしって、けっこう苦労したんスよ。おかげで、重宝されてるっスけどね。マッコリフトも、前はひより先輩しか持ち上げられなかったんスけど、努力して今は大きい人も持ち上げられるようになったんスよ。短時間っスけどね」

「そうか。マッコちゃんって努力の人なんだな。尊敬するよ」

「そ、そんなこともないっスけどね……。じゃ、じゃあ、飛ぶっスよ! めぐっち! ……マッコリフト!」

「あ。ここでは言うんだ」

「言った方が、楽だし効果も大きくなる気がするっス。めぐっち、大きいっスからね」

 マッコちゃんが俺を持ち上げながら上昇する。とりあえず、飛ぶ感覚を身につけるためだ。


 山頂から、十メートルくらい上がってるだろうか。下にいるこんちゃんが小さく見える。

「マッコちゃん、大丈夫か?」

 風を使って飛ぶ能力がありながら高所恐怖症であるマッコちゃんなので、ちょっと心配する。

「だ、大丈夫……っスよ。まだ、行けるっス。たぶん高いほうが、めぐっちの飛ぶ感覚はつかみやすいと思うっスよ」

 さらに上昇する。また五メートルくらいは上がっただろうか。そこでふと下を見ると、山頂の方角石が淡く光っているように見えた。

「ん……? 方角石が……光ってるのか?」

「え? なんスか? 方角石が……?」

 俺の言葉に、マッコちゃんがつられて下を見てしまった。

「ひ、ひぁっ!」

 下の景色を見て、高所恐怖症のマッコちゃんがバランスを崩してしまう。

「おいっ。大丈夫かっ?」

「あわ、あわわわわ」

 ……いかん。軽いパニックになってるな。マッコちゃんはうまく姿勢を制御できず、落ちていく。もちろん俺もだ。下にクッションとなるマッコバルーンは敷いてるかもしれないが、マッコちゃんがこの様子だとバルーンもどうなってるか。

 俺はマッコちゃんを両腕で抱えて、着地しようとする。山頂の地面まであと二メートルというところで、俺の身体は浮いた。というか、空中に静止した。

 またお姫様抱っこ状態になっている俺の腕の中で、マッコちゃんが震えながら言う。

「めぐっち……。あ、ありがとっス……。ごめんなさ……」

 そこで、光っていた方角石から飛び出してきたものがあった。もちろん、ひよりだ。

「ただいまーっ」

 そう言いながら方角石から二メートルくらいの高さまで飛び出してきたひよりと、マッコちゃんをお姫様抱っこして空中に静止している俺の目が合った。ひよりは表情を変えずに俺たちを上から下まで眺めて、そのまま方角石の上に着地した。

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