その33:結界設定と熟睡巫女

 攻撃は受け流されたが、三人はそれ以上の攻撃はしてこなかった。やはり、ちょっと自分たちが悪かったという気持ちがあるんだろう。

「お。もう終わりか? 俺も女子を下敷きに着地して悪かったよ」

「それはいいですけど……。ばいん感が、とか言うから……」

「すまん。ひよりにばいん感は感じなかった」

「……っ! またそんなことをっ。ヘブンズストライクっ」

「おっと」

 俺は後ろにジャンプして避ける。おお、飛んでるわけではないけど、ジャンプはだいぶ高く遠く飛べる。オリンピックでも勝てるんじゃないか?

「ううう。メグルさんが手強くなってる……」

「うーん。メグルくん、どんどん鬼化していったりしてねー。そのうち、えっち鬼になっちゃうんじゃ……」

「ばいん感……。めぐっち、えっちな人だったんっスね。気をつけるっス」

「いや、俺はそれほどえっちなわけじゃないからな。むしろ紳士的な方であってだな……」

 三人の目が白くなっていたので、それ以上の弁解はやめておいた。


「まぁ、それはそれとしてだ。俺の中にまた鬼の能力が、一部かもしれないけど取り込まれたわけだろ。あんまり取り込むべきじゃないという話だけど、俺がどうこうできる性質のものじゃないみたいだし、とりあえず利用しておけばいいわけだよな?」

「そうですね……。鬼の能力は実際には封邪の護符に取り込まれているわけなので、メグルさんに拒否権があるわけじゃないですから」

「使えるものは使っとけってことだねー。でも、基本的に戦うのはアタシたちだけどね」

「もちろんです。メグルさんはあくまでも封印役ということで」

「うん。俺もしゃしゃり出たりはしないよ。自分の身を守るために、鬼の能力を使えればいいって話だな」

「はい。そうしてください」

「でも、いろんな性質の能力が使えるってのはいいっスよねー。特にあの受け流しとか、衝撃っスよ」

「ああ。あれはいいな。凶暴な打撃を放つのを趣味にしてるやつが近くにいたりするからなぁ」

「凶暴な打撃って……わたしのことですかっ。別に趣味になんかしてないですよっ」

「あはは。確かにひよりには効果てきめんだねー。アタシやマッコには別の攻撃手段もあるけどねー」

「でも、今回取り込んだ水を出すやつは、こん先輩には嫌な能力なんじゃないっスか?」

「んー。そうだねー。もっと強力な水流が使えるようになったら、厄介かもだねー。それなら、さっきの簡易飛行はマッコの技の威力を半減させるんじゃないかなー」

「あ。そうっスね。高いところから落とすみたいなやつは効かないっスね」

「ふむ。なるほど。ここにいる三人の攻撃に対して、割と有効な能力を持ってるわけか」

「メグルさんっ。何か邪悪なことを考えてないでしょうねっ」

「いや別に。いつかおまえらをひれ伏させてやろうとか、考えちゃいないよ」

「あはは。メグルくんを敵に回しちゃいけないみたいだねー」

「それか、今のうちに叩き潰してしまうかだねっ」

「おおー。どっちにするんスかっ?」

「潰すといえば、、さっきの鶴鬼さんとの戦いの中でわたしが宣言してたことがありましたねっ」

「ん? なんだっけ」

「メグルさんには、ヘブンズクラッシュですっ……て。だから……潰しますっ」

「えー? 何を潰すんっスか」

「マッコは聞かないほうがいいねー。あはは」

「すみませんでした。勘弁してください」

 俺は土下座した。


「まぁ、とにかくあれだ。そんな物騒な話は置いといて。早朝から大変だったな。マッコちゃんなんか、来たばっかりで戦いになっちゃって」

「いやー。ちょっとビックリしたっスけどね。でも封印できてよかったっスよ」

「ホントだね。マッコちゃん、ご苦労さま」

「アタシも今回は初戦闘だったけど、マッコがいてくれて助かったよー」

「へへへ。あざっス。これからもお願いするっス」

「それじゃあ、このあとは五合目カフェでマッコの歓迎会しようかー。メグルくんがおごってくれるみたいだしー」

「おい。まぁ……いいけどな。でもまだ開店時間にはだいぶあるから、一旦解散しようぜ。ちょっと疲れたよ。走ったり、落とされたりしたからな」

「あはは。そうだねー。またあとでだねー」

「マッコも、湊稲荷でいろいろ設定してくるっス」

「設定?」

「地上に来たばっかりのときはねー。いろいろやるんだよねー。結界の調整とかねー」

「こんちゃんもひよりもやったのか?」

「そりゃねー」

「やりましたよ。この山頂でいろいろ技を放ったりメグルさんが上空へ飛んでいったりしても周囲から見えないようになってますから。それでさっきもドタバタできたわけです」

「まぁ、それは聞いてたけど……。迷惑な話だなぁ」

「特にこの日和山山頂はいろんなことやりやすいよねー。あはは」

「空間的にもいい場所なんですけど、わたしが腕によりをかけて設定してますからねっ。えへん」

「鼻をふくらますな。それで俺がここでいろんな実験台にされたりするわけか。勘弁してほしいもんだが」

「マッコもがんばって湊稲荷の設定してくるっス。またあとでっス」

「んー。アタシもちょっと寝てくるよー。朝、起こされちゃったからねー。遅かったらまたお姫様抱っこで起こしに来てねー。あはは」

「ダメだよっ。こんちゃん! ちゃんと起きてきてよっ。メグルさんも行かなくていいですからねっ」

「まぁ、起こしに行くくらいはいいんじゃ……」

「いいですけど、お姫様抱っこはする必要ないですからねっ」

「ちぇっ。じゃあ、ちゃんと起きてくるよー。んじゃねー。あはは」

 こんちゃんとマッコちゃんがそれぞれの神社に戻っていく。


「さてと。ひよりは……今日もバイトか?」

「はい。マッコちゃんの歓迎会ですけど、わたしはウエイトレスで歓迎します」

「そうか。まぁ、それもいいかもだな」

「うふふ。働く姿をマッコちゃんにも見せてあげます」

「俺は……どうするかな。うちに帰ってもいいんだけど……。開店までこのベンチに座ってるか」

「それじゃあ、わたしもいます」

「ひよりは、いつでもここにいるだろ?」

「方角石には戻らないで外にいて、このベンチに座ってるっていうことですよ」

「このあとも仕事なんだから、方角石でゆっくりしてるか、報告書でも書いてればいいのに」

「カフェのバイトはいつものことだし、報告書は夜に書くから大丈夫ですよ。うふふ」

「そうか……。俺もわざわざうちまで戻るの面倒だから、ここで少し寝るかな」

「わたしはメグルさんの寝顔を見てましょう」

「寝れないだろうが」

「うそですよ。うふふふ」

「まぁ、別にかまわないけどもな……。んー……」

 やっぱり疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。


「…………ねー」

「…………スか」

「…………だよー。あはは」

「…………スよー」

 ん……。ああ、少し寝てたか。なんかうるさいな。

「あっ。めぐっち、起きたっスよ」

「メグルくん、おはよー。アタシを起こしに来るとか言って、アタシの方が早かったねー。あはは」

「んー……。あれ、そんなに寝てたのか? わりぃ。やっぱ疲れてたのかな」

「別にいいけどねー。開店にはもうちょっと時間あるし」

「えっ。でもそんな時間か。ひよりも起こしてくれればいいのに」

「それは無理かもしれないっスねー」

「たぶんねー。あはは」

「ん。なんで?」

 そこで気づいた。身体の右側が重いことに。

「そんな、ふたりで寄り添って仲良く寝てるんだからねー。アタシたちだって起こせないよねー」

「まったくっスよ。いつ起きるかと思ってずっと見てたっスけどねー」

 ひよりが俺の右側に身体をあずけて、寝息をたてていた。

「ひよりが寝てるとこ、あんまり見たことないんだよねー。あはは」

「そうっスよねー。なんか、ちっちゃくてかわいいっスねー」

「な……。起こせよっ。おい、ひより、起きろ!」

「ふにゃ……。あ……メグルさん……。……あっ! 寝ちゃってたっ?」

「あー。起きちゃったねー。もっと見てたかったけどー。まったく、いつもイチャイチャしてー」

「あああっ。こんちゃん! マッコちゃんも! あああ。メグルさんの肩にっ……。ええっ。いつからっ? いつからいたのっ」

「ずっと見てたっスよー。そっスかー。やっぱりそうなんスねー」

「な、なにがそうなのっ。ちがっ、違うよっ。……なんでこんなに熟睡をっ」

「あはは。よっぽどメグルくんの肩が寝心地いいんだねー」

「ううう……。メグルさんも早く起こしてくださいよぅっ」

「俺も今起きたんだよ……。俺もひよりが寝てるの初めて見たな。方角石から出てくるときは起きてるしな」

「うー。寝てるの見られるの、恥ずかしい……」

「あはは。かわいいからいいじゃない。まぁ、このあとの歓迎会はメグルくんのおごりで、次のバナナオムレットはひよりのおごりだねー」

「ううー。なんかおごらなきゃいけないような雰囲気が……」

「あざーっス。ゴチになりまーっス!」

「ほら。ひより。従業員はもうカフェに行かないといけないんじゃないのー。あはは」

「あっ。そうだ。と、とりあえず、行かなきゃ。待ってるからねっ」

 ひよりがダダダと階段を下りていく。

 よくわからんけれども、俺が歓迎会のおごりなのは変わらないから、どうでもいいか。しかしよく寝たな。

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