その31:新水着と曲がりヘソ

 神様への報告か……。これまではひよりしかいなかったから、必然的にひよりが行ってたわけだけど。今はとりあえず三人いるからな。ひよりじゃなくてもいいわけだ。

 とはいえ、鬼との戦いを全部見てたのはひよりだけだしな……。

「なんで俺が決めるんだかよくわからないけど、マッコちゃんは今日来たばかりでまた報告に戻るってのもな、って感じするしな。こんちゃんも戦いは途中からだったから、ひよりが行くのがいいのかなって気がするんだけど……」

「まー、報告書は今夜ひよりが作るとして、それを持っていくだけでいいんだけどねー。それでハンコ押してねー。だから、行くのは誰でも大丈夫なんだよー。あはは」

 むぅ。ただ書類を持っていくだけなのか。それならリモートで十分だと思うけど、神界はまだそういう文化や技術が浸透していないらしい。


「べつに、またわたしが行ってもいいですけどね。報告書書くのもわたしなんだし」

 ひよりが言う。やはりそれが一番妥当なところか。

「そうかー。ひよりが行くかー。それじゃ、ひよりが向こう行ってる間、メグルくんと仲良く過ごそうかな」

「ひより先輩! めぐっちの世話は任せといてくださいっス! たっぷりサービスしてあげるっス!」

「え……。あの……。やっぱり……どうしようかな……」

「ん……。なんだ? 具合でも悪いのか?」

「あはは。アタシもマッコもメグルくんを誘惑したりしないから大丈夫だよー。神界に戻って、約束通り水着の設計してもらってきなよー」

「あ……。水着……」

「次に来たら、水着設計してくれるって神様言ってたもんねー」

「えっ。ひより先輩、新しい水着作ってもらえるんスか? いいなー」

「だって……。今のわたしの水着、スクール水着だし……」

「……あー。そっスかー。それはなんとも……」

「マッコちゃんは、どんな水着なんだ?」

「上下とも花柄のビキニっスよ? ワイヤー入り」

「なに聞いてるんですかっ。メグルさん! マッコちゃんも普通に答えてるしっ!」

「あ、いや……。単純に、どんなやつなんだろうなーって思っちゃって」

「聞かれたんで答えたんスけど……」

「あはは。そういうのをスルッと聞けるんだもんねー。メグルくんは」

「普通は聞かないよっ。聞かれても言わないよっ」

「そっスかー? 隠してもしょうがないんで、マッコは言うっスけどねー」

「マッコちゃんはかわいくて似合う水着だからだよっ。わたしなんか……」

「似合う水着っていうか、そういう水着が似合う体型にしてるんっスけどねー。ひより先輩もそうすればいいのに」

「ううう。それができれば苦労ないんだ……よっ」

「あはは。だからさー。水着新しくしてもらえるんだから、行ってくればー? 今のひよりに似合うやつを作ってもらってさー」

「そうだ……ね……。わたしが行くよ……」


「んーと。それじゃあ、神界への報告はひよりが行くってことでいいんだな。明日の朝、発で」

「はい。報告書は今日の夜に書きます」

「あざーっス。よろしくお願いしまーっス!」

「全部ひよりに任せてごめんねー。でもひよりはこういうの得意だもんねー。かわいい水着作ってもらってきてねー。それで、その新作水着とスクール水着、メグルくんに見比べてもらうんだもんねー」

「あっ。そうでしたっ。神様とそんな話してたの忘れてたっ」

「神様の命令なんだから、絶対だねー。あはは」

「や、やっぱり、今回はわたしじゃなくてこんちゃんが行くということで……」

「やだよー。もう決まったもんねー。それに、これからずっと神界へ行かないってわけにも行かないんだから、早いうちにすませときなよー。あはは」

「ううう。メグルさんに水着姿を……」

「それなら、水着ショーでもやるっスか? みんなの水着をめぐっちに採点してもらうとか……」

「アタシはやらないけどねー。あはは」

「わ、わたしだって、ヤだよっ。マッコちゃんと水着姿で並ぶなんてっ」

「そっスかー。見られることで成長していくんっスよ? ひより先輩っ」

「そうなのかな……。で、でもっ、無理だよっ。やらないよっ」

「ひよりはさー。被害妄想っていうか、自信なさすぎなんだよー。こないだも言ったけど、水着なんて、どんな水着っていうより誰の水着姿かってことが大事なんだから。メグルくんだって、ひよりとマッコが水着で並んでたら、ひよりに釘付けになるよー。ね、メグルくん」

「んー。マッコちゃんの方を見るかな。たぶん」

「……ヘブンズストライクっ」

「あー。メグルくん、学習しないねー。あはは。おやすみー」

 こんちゃんのそんな声を聞きつつ、俺は一分ばかり気絶した。


「……スか?」

「……だよっ」

「……あはは」

 う……。そうか。俺はまたひよりのヘブンズストライクを食らって……。俺を寝かせておいて、三人で何か話してるな。

「……じゃあ、めぐっちのことはああやって攻撃してもいいんスか?」

「あはは。別に、いつでも無条件に攻撃していいってわけじゃないけどねー。サンドバックじゃないだから」

「メグルさんはときどきああいう風に、ヘンなこととかデリカシーのないことを言うんだよっ。そういうときは攻撃していいんだよっ」

「地上人を攻撃したら、死んじゃわないスか?」

「メグルくん、頑丈だよねー」

「メグルさんは封邪の護符を取り込んでるから、わたしたちと同じ神の眷属に近くなってるんだよ。だから、鬼に対する攻撃ほど効かないみたいだね」

「まぁ、アタシたちが地上人に攻撃するってことはほぼ無いからねー。メグルくんは特別だねー。あはは」

「でも、気絶してるっスけど」

「うん……。最初はわたしのヘブンズストライクを受けても気絶まではしなかったんだけど、甲羅鬼の能力を一部受け継いでからは気絶するようになったんだよね」

「鬼の能力を受け継いだから、ちょっと邪が入ってるのかもねー」

「邪が入ってるって……大丈夫なんスか?」

「あんまりいいことじゃないけど……。それも封邪の護符の力なのかもしれないんだ。封邪の護符は古の護符のひとつで、わたしもまだ究明できてないんだけど。でも一部とは言え鬼の力が使えるっていうのは、強力だからね。今日もそれで一度助かったし……」

「メグルくんも便利だとは言ってたけどねー」

「ヘブンズストライクをたまに受け流したりするしねっ」

「とりあえずは大丈夫なんスね……」

「気をつけておく必要はあるけどね……」


「う、うーん……」

「あ。メグルさん、気がつきましたか。大丈夫ですか?」

「無事っスか?」

「あはは。おはよー」

「ああ。大丈夫だよ。無事だよ。殴っておいて大丈夫かもないもんだが」

「だって……」

「ひよりがヘソ曲げるのも大概だからねー。メグルくんもいつも大変だねー。あはは」

「まぁ、いいけどな。俺の言葉でヘソが曲がったんなら、あやまるよ。今度、曲がったヘソを見せてもらいたいもんだけどな」

「曲がってないですよっ」

「ひより先輩っ! これ、新しい水着はヘソ出しビキニにしてくれっていうことっスよ!」

「え……。ビキニ……? そんな……おヘソなんて……」

「いや、別にそんなことは言ってないが……」

「あはは。ひより、水着の方向性が決まったねー」

「どんどん攻めるっスよ! ひより先輩!」

「えええ……。ビキニ……かぁ」

「まぁ、俺としてはどうでもいいけどな」

 ビシッ! ……あれ。なんか、空気がひび割れるような音がした気がするな。


「メグルくん! そういうところが、ダメなんだよっ。フォックスフレイム!」

 こんちゃんが炎の矢を撃ってきた。

 うわ。こんな、まだ地面に寝てる状態のやつを撃ってくるか? これじゃ、背中で受け流すこともできないだろ? おいおい。これ、正面で食らったことないんだが。すぐ消してくれるんだろうな。ひよりの結界の中だから、大丈夫だろうけど。……あ、ひよりの目も冷たいじゃないか。

 などということを一瞬で考えた。走馬灯ってこんな感じで見るもんなんだろうか。と思いつつ、目を瞑り、無駄とは知りながら右手で防御しようとした。少なくともヤケドはしそうだなぁ。


 しかし、しばらくしてもこんちゃんの炎の矢は俺に届かなかった。恐る恐る目を開いて前を見ると、こんちゃんはフォックスフレイムの姿勢でこちらを指差したまま、驚いたような顔をしていた。

 見回すと、ひよりもマッコちゃんも同じように驚いている。何だ? どうしたんだ?

 ひよりが声をあげる。

「メグルさんっ! その水はどうしたんですかっ!」

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