その24:背中体重計とお姫様抱っこ
風呂上がり。毎度のことながら、俺はのぼせてしまったこんちゃんをおぶって歩く。
「あー。疲れたよー。ひよりもメグルくんも、なんでそんな平気で走れるのー」
「こんちゃんが、だらけ過ぎなんだよっ。わたしたちが鬼と戦うんだから、鍛えないとっ」
「アタシは近接パワー型のひよりと違って遠隔術士タイプだしー。体力ないんだよー」
「でも最終的には体力勝負だよっ。鬼の出現場所には駆けつけないといけないんだしっ」
「その辺はさー。導きの護符とか使えないの? 使えれば、すぐに行けそうじゃない?」
「あれは、神界から地上へ行く場合の道しるべだから……。地上の二地点で瞬間移動しようとすると、地上の物理量がなんとかいう制約があるらしくて」
「なんだかよくわかんないけど、ダメなんだね。使えないなー」
そんなような話を、俺の背中のこんちゃんと、脇を歩くひよりがしている。こんちゃん、そんな話してられるんなら自分で歩けるんじゃないかとも思うが。
「メグルくんも、体力あるよねー。いつもアタシをおぶってくれるし」
「おぶらないで済むなら、それに越したことはないんだけど。まぁ、毎朝走ったりしてるからなぁ」
「こんちゃんもメグルさんみたいに毎朝走ればいいのに」
「そうだねー。走ろうかー。メグルくんと一緒に。仲良く」
「えっ。それは……メグルさんのペースもあるだろうし……」
「あはは。何あせってんの。冗談だよ。毎朝早起きってのはキツいしねー」
「俺は別に構わないけど……」
「やらないよー。ひよりが睨んでるし。あはは」
「べつに、睨んでなんかないよっ」
「そもそも、今日いきなり走ったりしたのは、明日マッコちゃんが来るってことだったからだよな?」
「そうですね。それで、走るって言い出したのがこんちゃんだったし」
「あはは。太ったと勘違いしちゃったからさー。おぶってみて、太ってないよね? メグルくん」
「…………」
「なんか言ってよー」
「俺だって体重計じゃないんだから、ちょっとくらい増減したってわからないよ。もしわかるようなら、それは相当太ったときだな」
「怖いこと言う人だよ。メグルくんは」
「こんちゃんは、割と増減する方だもんね」
「ううー。割とね……。ひよりはしないもんね。増減する、余分な脂肪がないもんねー」
「なんか、失礼なことを言われてるような気がする……」
「いや、そういう話をしたかったわけじゃなくてな。マッコちゃん、明日の朝来るって言ってたみたいだから、また早朝の便で来るのかなって」
「そうですね……。早朝に来るでしょうね」
「またお出迎えするんだろ? こんちゃんのときみたいに。俺は明日バイト休みだから、いつでも行けるぞ」
「その方がいいですね。誰もいないところに出てくるの、寂しいですからね」
「早朝なら、アタシは寝てようかなー。ひよりはメグルくんが連れて行ってくれるんだし」
「ダメだよっ。こんちゃんも迎えてあげようよっ」
「今朝も早かったし、走って疲れたしなー」
「来ないと、またマッコちゃんに『こん先輩、太ってマッコに姿見せられないんっスね。ぷぷぷ』とか言われるよっ」
「う……。言いそう……」
「マッコちゃんって、そういうキャラなのか?」
「そういうキャラなんです……」
「マッコちゃんも、おまえらふたりと同期なのか? さっきの口真似聞いてたら、後輩しゃべりっぽかったけど」
「さすがメグルさん、鋭いですね。マッコちゃんは、わたしたちの一個下です」
「後輩なのか……。だけど、ボン・キュッ・ボンであると……」
「それは言わないでください……」
「マッコは基本的にひよりを尊敬してるけど、その部分に関してだけは上から目線だもんねー。あはは」
「ずっと、年下だと思われてましたしね……」
「まぁそれはある程度しょうがないだろうけど……。脇腹をつねるな」
「だから、先輩として後輩をきちんと迎えてやらないといけないんです」
「しょうがないなー。それじゃ、先輩づらするために、明日も早起きしてやろうかー」
「うん。その方がいいみたいだな。……こんちゃんは、ひとりで行けるよな。開運稲荷からの方が近いし。ひよりは、また俺が拾って行ってやるよ」
「人をモノか何かみたいに……」
「ひとりでたどり着けないんだから、しょうがないだろ」
「あはは。拾ってくれる人がいるんだから、感謝しなきゃね」
「ううう。お願いします……」
「あ。もう開運稲荷に着くね。今日は全部おんぶしてもらっちゃった。ラッキー」
「あ。いろいろ話ししてたら下ろし忘れた」
「ありがと。メグルくん。また明日ねー。おやすみー」
「おう。おやすみ」
「こんちゃん、おやすみー」
こんちゃんがこんこんさまに消えるのを見届けて、俺とひよりは日和山へ向かう。
「こんちゃん、意外と体力ないんだな」
「うふふ。それも補い合う部分ですから」
「まぁな。さて、明日も早いからさっさと寝るか」
「あの……メグルさん……」
「ああ。また、あれか」
ひよりがコクンとうなずく。最後にひよりをおぶってやるというやつだ。軽くため息をついて、背中を向けてしゃがんでやる。ひよりの重みを背中に受ける。
「これ、なんなんだ?」
「……イヤですか?」
「そんなこともないけど……どういうあれなんだろう、とか思ってさ」
「上書きをしないとって……何でもないですっ」
「……? まぁ、なんでもいいんだけどな」
「……ありがとうございました。これでゆっくり眠れます」
「そうか。俺は安眠マクラか」
「うふふ。そうですよ。……おやすみなさい」
「おやすみ」
ひよりが方角石に消えるの待って、俺は街側の階段を下りる。明日はまたお出迎えか。いろいろ疲れなきゃいいけどなぁ。
翌日。早朝。俺は例によって日和山展望台で深呼吸をしたあと、ひよりのいる日和山へ向かう。
海側の階段から山頂に着くと、ひよりはすでに方角石に座っていた。
「あ。メグルさん、おはようございます」
「おう。おはよう。相変わらず早いな。……それじゃ、さっそく行くか」
「はい」
俺たちは湊稲荷神社へ向かうために、街側の階段を下りる。そこでふと気づく。
「こんちゃん、ちゃんと来るんだろうな」
「……朝、弱いですからねぇ」
「一応、開運稲荷寄って行くか」
「そうしましょうか……」
俺たちは開運稲荷神社を経由して湊稲荷神社へ行くことにした。
五分も歩くと、開運稲荷神社だ。鳥居をくぐると、すぐにこんちゃんの媒介石である、こんこんさまがいる。
「どうだ? こんちゃん、いる?」
「……まだ中にいますね」
俺にはわからないが、ひよりはこんこんさまを見ればこんちゃんが中にいるのかどうかわかるらしい。
「こんちゃーん。ひよりだよー。湊稲荷神社、行くよー」
ひよりが声をかけるが、反応がない。
「……もう出かけてるとか、ない?」
「まだいますよ。見ればわかるじゃないですか」
「……いや、全然」
「しょうがないなぁ。おーい。こんちゃーん。起きてー」
ひよりは、こんこんさまを叩き出した。吽形の方だ。
「おいおい。そんな叩くと、壊れちゃうぞ。ただでさえ脆くなってるみたいなのに」
「あ。だ、大丈夫……ですよ。たぶん」
しかしひよりは叩くのをやめた。俺が代わりに、やさしくノックするように叩いてやる。
「こんちゃーん。起きてるかー?」
すると、こんこんさまが淡く光りだした。そして目の前の空中に、横になったこんちゃんが現れる。
「おわっ」
俺はあわてて両手を出し、こんちゃんを受け止める。こんこんさまの光が消えると、こんちゃんの重みが俺の腕にどさっとかかってきた。
「うっ……」
「……あれ? メグルくん……。おはよー……」
こんちゃんは眠そうな声を出して辺りを見回す。
「……んふふ。目覚めにメグルくんがお姫様抱っこしてくれてるなんて、これは夢だわねー。夢なら何してもいいってもんよねー」
そして、ガバッと俺の首に腕をかけてくる。
「ちょっ。こんちゃん! 夢じゃないからっ!」
ひよりの方を見ると、ひよりは硬直していた。
「……夢じゃない? ……あっ。メグルくん? 本物? ひよりもいるよねー。あららららー」
こんちゃんは俺の首から手を離し、俺の腕から下りると俺から三歩ばかり離れた。そして、ひよりに「どうぞ」というような手真似をした。俺に向けて。
「ヘブンズストライクっ!」
「なんで俺がっ」
俺は数十秒間、気を失った。
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