その20:護符電話と二倍ストライク
「ふが……。こんひゃん……。そんな、顔を抑えなくても……」
こんちゃんに顔を手で抑えられてヘブンズストライクを中断されたひよりが、ぶーたれる。
「すぐ、メグルくんを殴ろうとするからさー。親愛表現だとしても、あんまりやってると嫌われちゃうよー」
「いつもメグルさんがヘンなこと言うからだよっ」
「メグルくんも親愛表現で言ってるんだから、怒んないの」
「そ、そうなの……かな……」
「いや、今のは俺は別に何も言ってないけど、ひよりが勝手にばいん感がどうとか言いだしたんだぞ」
「ほらっ。わたしが悪いとか言うんだよっ」
「ああ、もう……。せっかく丸く収めようとしてるのになー。どっちもどっちだねー。っていうか、ひよりの考えを聞こうって話だよー」
「そうでした……。それじゃ、まずその話を……」
「うん。そうしてくれ。と、それよりも、一旦日和山に戻ろうか。あっちで話そう」
移動して話をしているうちにヘブンズストライクのことは忘れてくれるといいんだが。と思いながら、日和山へ向かう。
やがて、日和山に到着する。やっぱり、たらたら歩いてるとけっこう距離はあるな。まぁ、とりあえずひよりの話を聞こうか。
「鬼の感知はわたししかできないわけですけど、鬼の出現をどうメグルさんとこんちゃんに伝えるかが問題なわけです。ケータイとかスマホとやらを、わたしたちも持つことができればいいんですけど、難しいようですし」
「まぁ、ふたりがそれぞれ金を出して契約すればいいわけだけどな」
「それは検討してみましたけど、けっこうお金がかかるようなので……却下になりました。契約というのも神界の者ができるかどうかわからないので……」
「一番はお金の問題だけどねー。あはは。メグルくんも出してくれないみたいだし」
「なんで俺がおまえらの電話料金払わねばならんのか。安くすませる方法もいろいろあるらしいけどな」
「メグルくんが全部出してくれれば、解決するのになー」
「却下する」
「ですので、電話を使わずに伝えないといけないわけですけど……」
「ひよりは五合目カフェでバイトしてるんだから、カフェで店長とかの電話借りて俺のスマホや開運稲荷の社務所に電話すればいいような気もするが」
「それはちょっと……。『鬼が出現したので集合です!』 とか、電話かけるというのも……。カフェの営業時間外に鬼が出るかもしれませんし」
「んー。営業時間外というのは、確かにあるかもな。こっちの都合のいい時間に出るとは限らないからな」
「それで、わたしがこんちゃんのところ、開運稲荷神社まで直接行って伝えられればいいんですけど……」
「無理だなぁ」「無理だねー」
「間髪入れずにふたり同時に言わないでくださいっ。わたしだって、一応わかってるんで……」
「それでアタシも極力ひよりと一緒にいられるように、バイトが終わったら日和山に行ってるんだけどねー」
「ああ。こんちゃんいつもここにいるなと思ったら、そういうことだったのか」
「単に遊んでると思ってたー? あはは」
「ごめんなさい。思ってました」
「遊んでるんだけどねー。あはは」
「で? そういう状況なわけだけど、何か解決策を考えたという話だよな?」
「はい。先日神界に行ったときに、護符に関する研究書をいろいろ借りてきたんですけど、使えそうな護符もあったので、それを試してみようと思ってるんです」
「ふむ。さすが、自称護符のエキスパート。どんなのがあったんだ?」
「自称は余計ですよっ。最近は神界にも地上の便利な技術が入ってきたりして、忘れられてる護符も多いんです。わたしはそれをいくつか使えるように発掘してるんですからね。いつも言ってるように、優秀なんですっ」
「確かにねー。ひよりが使えるようにしたの、いくつもあるよねー」
ほぅ。ホントにそんなに優秀なやつなのか。ひよりって。
「動物のオスメスを見分ける護符って、ウケたよねー。大仏の首みたいな形のやつ」
「こんちゃん……。それは……。言わないで……」
なんだその昔の通販の役に立たない面白グッズみたいなの。うーん。ホントに優秀なんだろうか。
「えーと。今は動物のオスメスとか関係なくて。 今回使おうとしてるのは、共鳴の護符です」
「共鳴の護符……。確かになんか、使えそうな響きだな」
「この護符は二枚一組で、片方に刺激を与えるともう片方が反応するものなんです」
「離れていても……か」
「そうです。それが重要なところですね」
「なるほどー。電話代わりに出来るかもしれないわけだねー。お金とられずに」
「そこまで便利に出来るわけじゃないけどね。でも簡単な情報を伝えるくらいなら……」
「ふむ。具体的にどうするんだ?」
「共鳴させるには、わかりやすい刺激が必要なんです。そのために、同じような形のものに護符を仕込むといいと思うんです。なので、この、鈴の紐に仕込めばいいかなと。日和山住吉神社の鈴紐と、開運稲荷神社の鈴紐に仕込めば、片方を鳴らせばもう片方が鳴りますから」
「なるほど。その鳴らし方を取り決めておけばいいわけだな。……でも、鈴は神様からのおみくじ通信でも鳴るし、一般の参拝客が鳴らしたりもするわけだよな。うるさくならないか?」
「そうですね……。それはちょっと、運用してみた上で考えてみましょう」
「それじゃ、明日にでも試してみようか。開運稲荷に戻ったらこの護符を鈴の紐に設置すればいいの? アタシでも護符設置できるかな?」
「たぶんできるよ。あとで説明するね」
「うん。よろしくー」
「こんちゃんの方はそれでやってみるとして……俺の方はどうなんだ?」
「鬼が出たら、メグルさんにも来てもらわないとダメですからね。心苦しいですけど。連絡はできるようにしておかないとですね」
「まぁ、それはもういいけどな。心苦しくならないでも。俺はもうそういうつもりでやってるから」
「メグルくん、さすがだねー。もう、神界の人になっちゃえばいいのに」
「そういうわけにもいかんけどな。ん? そういうのもありなの?」
「あはは。どうでしょう」
「なんか含みのある言い方だな。まぁいいや。で、俺への連絡というのも、その共鳴の護符とやらを?」
「…………。あっ、そうですね。共鳴の護符ですね。えーと……」
「なに、ボッとしてんだか」
「ちょっと、たまたまですよ。はい。共鳴の護符を使いますけど、普通の使い方とはちょっと変えないとかな、と」
「なんで?」
「メグルさんはこんちゃんと違って、いる場所が変わるじゃないですか。だから、場所を固定できないわけですよ」
「まぁ、そうだな」
「だから、メグルさんの身体に共鳴させようかと」
「えっ。俺の身体自体に、共鳴の護符を設置するってことか?」
「いえ、これは封邪の護符と違って、身体には取り込めないので」
「そうか。またさらに護符のタトゥーが増えたらどうしようと思ったよ」
「うふふ。増えませんよ。でも、その封邪の護符に共鳴させます」
「ん? これに?」
俺は封邪の護符が取り込まれている、自分の胸を抑えた。
「つまりは……どういう……?」
「わたし特製の、共鳴の護符を作ります。メグルさんの封邪の護符とリンクするようなものをですね」
「そんなのができるのか」
「共鳴の護符の仕組みは理解できたので、それを応用して。……わたし、優秀なんですよ?」
「メグルくん。ひよりが優秀なのはホントなんだよ? こんなだけど」
「こんちゃん! こんなだけどって、なに!」
「そうか。前にも思ったけど、自らの身体的成長を犠牲にして優秀さを獲得したと……」
「ヘブンズ……! さっきのも合わせて、二倍ヘブンズストライクっ!」
「あっ。撃っちゃった。止める間もなかった。あはは。メグルくん、おやすみー」
二倍……。そんなのがあるのか……。俺はこんちゃんの声を聞きながら気を失った。
気がつくと、ひよりとこんちゃんが脇に座っていた。
「あ。気がついたね。もう、ひより、思いっきり行くからー。五分も気を失ってたよー」
「だって……。いっつもあんなこと言うから……」
「でもまぁ、メグルくんの封邪の護符、しっかり確認できたからちょうどよかったかもね」
「……ん? 護符の確認?」
「あはは。メグルくん、ごめんねー。メグルくんが気を失ってる間に、封邪の護符の固着紋を見させてもらっちゃった。ひより、じっくり見てたよー」
「特製の共鳴の護符を作るには、しっかり見ないといけないから……」
「シャツをめくって……?」
「……ごめんなさい。ちゃんと言ってから見せてもらうつもりだったんですけど……」
「いや、まぁ、いいけどさ。今までもさんざん見られてるしな」
「メグルくん、安心して。アタシが見張ってたから、ヘンなことはされてないよ」
「見てなくてもしないよっ。ヘンなことなんてっ」
「それで、特製の護符は作れそうか?」
「たぶん大丈夫です。今夜、作ってみます」
「アタシの方の護符も、これからやり方聞いてやってみるよ」
「そうか。それじゃ、明日いろいろ試してみるか」
「はいっ」
まぁ、連絡がとりやすくなるなら、俺もバイト中に気をもむことも少なくなるだろうし、いいか。ふたりと別れ、俺はそんなことを考えながら帰路についた。
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