その13:新作水着とマッコちゃん
それから数日は、特に何事もなく過ぎた。時たまひよりが迷子になったり、銭湯に行くたびこんちゃんをおぶって帰ったりはしていたが。鬼がどうこうという動きはなかった。
こんちゃんは開運稲荷神社の社務所でバイトを始めたらしい。日和山住吉神社と違って、あそこは社務所あるからな。こんちゃんの場合は開運稲荷の敷地全体が結界ということで、まぁ、ひよりが五合目カフェでバイトしているのと似たようなものか。
ミーティングはもっぱら日和山で行なう。基本的には夕方。みんなのバイトが終わったあとに話をしたり、探索に出たりする。
俺とひよりは早朝にも会っているのだけど、こんちゃんはあんまり朝は強くないということで、その時間は出てこないで寝ているらしい。そして日中、社務所のバイトがヒマなときにはひとりで周辺を探索しているのだという。
ひよりと違って、こんちゃんはそれが出来るからな。迷子にならないから。
そんなある日の夕方。バイトを終えた俺は日和山に向かった。街側の階段を上って山頂に着くと、ひよりとこんちゃんがベンチで話をしていた。
「おう。こんちゃんも来てたのか。ふたりとも、お疲れ」
「メグルさんもお疲れさまです」
「メグルくん、お疲れー」
「日中、何にもなかった? 鬼の反応とか」
「なかったですねー。平和そのものです」
「それはなにより……だけど、いつ来るんだろうな。甲羅鬼の親父とかも、予告だけしておいて出てこないしいな。モチベーションが下がっちゃたのかな」
「モチベーションですか」
「ああ、アレ? あはは。話は聞いたよ。ダイヨーってやつね。ダイヨーがもう無くなったっていうの息子から聞いて、出てくる気がなくなっちゃったんじゃないのー?」
「んー。親父も観たかったのかな。モチベーションだだ下がりか」
「親子だからねー。オトコだからねー。あはは」
「もう。そんな、えっちな映画を楽しみにして地上へ来るなんて……。何考えてるんだか……」
「ひよりも、その辺は理解してあげないとー。メグルくんも困っちゃうよ?」
「いや、別に俺は……」
「メグルさんがちょっとえっちなのはわかってますけど……」
「あれ。俺、なんかえっちだったことあった? ないよね」
「ブルマを肯定するし、まわしをつけさせようとするし、コスチュームに水着があるって知って鼻息が荒くなってたじゃないですかっ」
「え。鼻息……? そ、そう……?」
おれは思わず鼻に手を当てる。
「あはは。アタシやひよりの水着姿を想像しちゃったのかなー。ひより、今度メグルくんに見せたげようか」
「だっ、ダメだよっ。そんなの。それに……わたしのは……スクール水着だし……」
そこで、お社の鈴が「カラン」と鳴った。
「お。おみくじ通信か?」
「あ。それじゃアタシが取ろうか。バイト代も入ったし」
こんちゃんが財布から百円を取り出し、おみくじを引いた。こんちゃんはひよりと違って金に意地汚くないんだな。
「んー。ひよりあてだねー」
「あ。わたし?」
こんちゃんがおみくじをひよりに渡す。
「なんだって?」
「うう……。『スクール水着、嫌なの?』って……」
「あははー。神様、こまかいとこ聞いてるー。……じゃなくて、神様はいつも細やかな気遣いにあふれてるぅー」
むぅ。こんちゃん、失言リカバリーうまいな。
「うう。神様……。だって、こんちゃんの水着はスク水じゃないのに、わたしだけ……」
カラン。また通信だ。今度は俺が金を出して引く。
「……ひよりあてだな」
ひよりがくじを開く。
『そう。ひよりに一番似合うと思って設計したけど、他がいいのなら新しく設計してあげる。スク水は残すけどね。今度神界に来たらね』
「あ。水着、神界に行ったときに新しくしてくれるって。やった。ありがとうございますっ」
カラン。通信が来る。
「あ。わたし出します。うふふ」
ひよりが上機嫌で百円を俺に渡す。届かないひよりの代わりに俺が引いてやる。
「またひよりあてだな」
ひよりがくじを開く。読むとすぐに閉じてしまった。
「ん? どうした?」
「な、なんでもないですっ」
「どれどれ?」
ひよりが後ろ手に隠したおみくじを、後ろにまわったこんちゃんがひょいと取り上げる。
「あっ」
「……なになに? ……あはは。『新しい水着が出来たら、その出来栄えをメグルさんに見てもらいなさいね。比較対象として、スク水姿も見せなさいね』だって。神様の命令だからねー。無視できないねー」
「うう……。メグルさんに、水着姿を……」
「見せたいくせにー」
「そんなことないよっ。……こんちゃんはスタイルいいからいいだろうけど……」
「水着なんて、スタイルなんかよりも誰が着てるかの方が重要なんだよ。かわいい水着設計してもらいなよ。そうすれば……」
「そ、そうなのかな……。えっ。だからって、別にメグルさんに見てもらいたいとかは……」
「もう、そういうのいいから! ねっ。メグルくん!」
「えーと、何話してたかわからないけど、たぶん、そう」
「でしょっ! ひよりとアタシだったら、ひよりの水着を見たいよねっ」
「んー。どっちかと言ったら、こんちゃん……かな」
「フォックスフレイム!」「ヘブンズストライク!」
正直に言ってはいけないことって多いんだなぁ。迫る炎と拳を見ながら、俺は思った。
そんなことをしていると、また鈴が「カラン」と鳴った。俺が出さないといけないんだろうなと思って、自ら百円を出し、おみくじを引く。……ひよりあてか。ひよりに渡す。
「またヘンなこと書いてないでしょうね……」
と言いながらくじを開く。
『どうでもいいこと言ってないで、ここから本題ね。こんちゃんに続いて、まるこちゃんをそちらに送ります。必要になる場面がありそうなので。導きの準備お願いね』
「ふーん。マッコちゃんが来るのかー」
「マッコちゃん? ひよりたちと同じ、巫女さんだよな。」
「そうです。やっぱり同期ですけど。ホントはまるこちゃんって言うんですけど、マッコちゃんって呼ばれてます。自分でも言うし」
「わざわざこっちによこすんだから、優秀なんだろうな」
「まぁ、わたしやこんちゃんを見ていればわかると思いますけど」
「あ。残念なやつなのか」
「何言ってるんですかっ。優秀なんですよっ」
「あはは。まぁ、能力的に優秀だよねー」
「なんか、含みのある言い方だな。どんな能力なんだ?」
「ある程度、天候を操れます。ある程度ですけどね」
「えっ。それ、すごいんじゃないのか?」
「さすがに、突然大雨を降らせるとか竜巻を出現させるとか、そんな派手なことはできないんですけどね。基本的には、風を操るんです」
「ふーん。それでもすごいと思うぞ」
「そして、風を操るというのから派生して、空を飛ぶことも出来るんです」
「ものすごいじゃないかっ。空を飛べるなんてっ」
「ただ……」
「ただ?」
「高所恐怖症なんです」
「……飛べるのに?」
「怖いみたいなんです」
「んー。それはあれか。ひよりが方向音痴だったり、こんちゃんが猫舌の暑がりでアンラッキーだったりするのと同じか」
「たぶん……そういうことです」
「んー。まぁ、そんなもんなんだろうなという気はするけど、もったいないなぁ、お前ら」
「あはは。そんなもんなんだよねー」
「そうか……。それじゃ、ひよりはまた、導きの護符とやらを作るんだな?」
「はい。作らないと。そのためにまたマッコちゃんの媒介石のあるところまで行かないとですね」
「やっぱり、神社なのか?」
「わりと有名な神社だよねー」
「湊稲荷神社って言うんですけど」
「ああ。聞いたことあるな。回るこま犬があるっていう……」
「その、回るこま犬がマッコちゃんの媒介石なんです」
「……もしかして、回る狛犬で……まるこなの?」
「そんなもんなんです……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます