その10:鬼出現ガイドと実験台

「あはは。ホントに嫌だったんだねぇ。メグルくんがいなかったらどうなってたんだか」

 こんちゃんがひよりの頭をなでながら言う。

「まぁ、その前の段階で、ひよりがこの公園にたどり着けたかどうかわからないけどな」

「うう。またそういうことを……」

「いや、でも俺だけで勝てたわけでもないしな。最終的にはひよりの色仕掛けが功を奏したわけだし」

「えーっ。ひよりの色仕掛けっ?」

「こんちゃん、なんでそんなビックリするのっ。わたしだって、そのくらい……」

「まぁ、色仕掛けというか、ロリ仕掛けというか、な」

「ロリ仕掛けって、何? あはは」

「いやだったけど……ヘンタイ鬼さんの注意をひくためにね、体操着にコスチュームチェンジして……」

「ああ。ブルマのやつかぁ。あれ、ちょっとイヤだよねぇ」

「だよねっ。でもそれでヘンタイ鬼さんの注意をひけたみたいで……」

「その隙に、俺が封印をスパンッと」


「はー。なるほどねー。相手がロリコン鬼であるがゆえにひよりが戦えなかったけど、最後は逆にそれでとどめをさせたと。すごいねー。ひよりのロリコン力」

「そんなの無いよっ。こんちゃんまでそんなこと言うなんて……」

「ロリコン力というか、ロリコンを魅了する、ロリっ子力な。……それって、もしかしたら、ひよりの特殊能力なんじゃないのか? 水先案内能力とロリっ子能力を合わせ持つ巫女。それがひより」

「そんなの無いって言うのにっ! ふたりとも、ひどいっ」

「あはは。ごめんって。ひよりが十分役に立ってたってことを言いたいだけだから」

「ううう。こんちゃん……」

「そうだぞ。水先案内能力はレアだそうだけど、ロリっ子能力だって俺は相当レアだと思うぞ。こんちゃんがやろうったって、もう出来ないんだから。神界広しといえども、ひよりにしか持てない能力じゃ……」

「メグルさんは、まだ言うんですかっ! ヘブンズストライクっ」

「おっと」

 来ることが予想できたので、おれはクルリと背を向ける。ひよりの拳は受け流される。


「くっ、くやしいっ。変な能力手に入れてっ」

「こないだは、俺が受け流し能力を手に入れて安心だって言ってたくせに」

「変なふうに使うからですよっ」

「凶悪な打撃から身を守るのは、普通の使い方だと思うが」

「誰が凶悪ですかっ」

「あはは。ホントに仲良しだねー。妬けてくるよ。……メグルくんは、ロリコンじゃないの?」

「ちっ、違う! 俺は至ってノーマルな……」

「うーん。残念。メグルくんがロリコンなら、万事オーケーなのにねー」

「「なにがっ」」

 俺とひよりは同時に声を出す。

「あはは。そういうところだよ。……ひより、メグルくんロリコン化計画を発動しようか」

「なに言ってんの。こんちゃん! ……あ。だいたい、わたしロリっ子じゃないから!」

「毎日、ひよりのブルマ姿とかスク水姿を見せてあげてればさ、いつしかメグルくんも……」

「こんちゃんも、いい加減に……」

「あ。ヘブンズストライクはやめて。アタシは受け流せないから。あはは。あ、そういえば鬼の媒介石も見ておきたいな」

 拳を作るひよりを尻目に、こんちゃんはロリコン鬼の媒介石、まわしをつけた子鬼の像の方へ走っていく。うーん。はぐらかし方、うまいな。さすがひよりと付き合い長いだけあるな。メモしとこう。


「ふーん。これが、ロリコン鬼の媒介石……。もう、見るからに鬼、だねー」

「像としてみれば、けっこうカワイイんだけどね。これが、アレになるなんて……」

 ひよりはまた思い出したみたいで、身震いした。よほど嫌だったんだろうなぁ。

「鬼がこちらに出現するときは、まず媒介石と同じ形で現れるみたいで。ロリコン鬼も、最初はこの像の形だったよな。これが三体あって、違和感があったんだよな」

「わたしたち巫女は、こちらに来るときは疲れがあるくらいだけど、鬼は『酔い』がある状態で、それだと十分力が出なくて、鬼の形にもなれないみたいなんだよね。その時間帯が退治、封印のチャンスなんだけど」

「なかなかそううまくはいかないだろうねー」

「いかに早く探知して、仮封印なりなんなりできるかということだよな。それはひよりにかかってるんだけど。バイト優先とか言ってないでくれれば」

「う……。反省しました……」

「あはは。バイト優先しちゃったんだ。ひよりにしちゃ、珍しいね」

「お金大好きだからなぁ、ひより。意外と」

「あー。アタシもバイトしないとなぁ。考えておこ。……それじゃ、今度は甲羅鬼だっけ? の出た場所へ行ってみよ?」

 俺たちは、あけぼの公園をあとにして助賈地蔵院へ向かうことにした。日和山のすぐ裏だから、日和山へ向かうようなもんだが。


 こんちゃんは、スタスタと前を歩いていく。

「とりあえず、日和山へ行けばいいんだよねー」

「うん。そこからすぐだから。……こんちゃん、すぐ道憶えちゃうからなぁ」

「何回行っても憶えられないやつもいるのにな」

「ううう。だって……」

「こんちゃんと一緒なら、ひよりももう迷わないんだろ。俺がいなくても動けるな」

「そうですね……。でも……」

「あっ。アタシもずっとひよりと一緒にいられるわけじゃないんで、メグルくんのお世話もまだまだ必要だよー」

「ああ。まぁ、封印は俺がしないといけないんだろうし、極力一緒には動くけどね」

「極力一緒だって。よかったね。ひより」

「うん。……いやいや、それはまぁ、封印はしてもらわないとだし」

「そういう口実があってよかったね。あはは」

「口実じゃなくて事実だよっ」

「お。うまいこと言う。うまくもないか。あはは」


 などと言っているうちに、日和山に着く。

「甲羅鬼が出たのは、こっちだから」

 今度は俺が先導して、日和山を過ぎて交差点に出る。右へ行けば、こんちゃんの開運稲荷神社。左へ行けばすぐに、甲羅鬼の出た助賈地蔵院と結界になっていた湊小学校跡だ。

「へー。ここ、ちょっと前まで小学校だったんだ」

「そうなんだよ。そして、さっきいたあけぼの公園も、もともと湊小学校があったところなんだってさ」

「あー。最初あそこに出来て、だいぶ前にここに移転してきて、最近廃校になったと」

「うん。なんだかちょっと縁を感じる気がするね」

「なるほどねー」

「で、小学校とは直接関係ないけど、その前にあるのが助賈地蔵院。六地蔵とか如意輪観音像とか梵字の書かれた碑とか、いろいろあるんだけど、そこの亀の甲羅が媒介石だったんだよ」

「あの、入り口の上にあるやつかー。なんか面白いねぇ」

「うふふ。メグルさん、なんかガイドさんみたい」

「中身を知らないから観光ガイドはできないけど、鬼ガイドなら出来るかな」

「あはは。イヤなガイドだねー」


「それで、甲羅鬼は鬼形態になる前に俺たちに襲いかかってきて。ひよりが迎え撃ったんだけど」

「受け流されちゃったんだよー。ヘブンズストライクが……。さっきのメグルさんの背中と同じように。っていうか、能力としてはそのものなんだけど」

「そっかー。確かに、打撃無効っていうのはひよりにはキツイかもねー。ひよりは近接パワー型だもんね」

 うーん。そういう分類があるのか。なんか聞いたことあるやつだが。

「わたしにとっては天敵だったけど、こんちゃんの火炎ならダメージ与えられたのかな」

「そうだねー。火炎でも、受け流されちゃったら効かないかもしれないけどねー。……試してみようか」

「あ。いいかも」

 ひよりとこんちゃんが、俺を見る。え。まさか。

「フォックスフレイム!」

 こんちゃんが右人差し指に火を灯す。

「シュート!」

 そして俺に向けて放つ。

「なっ。ちょ、ちょっと、いきなりか!」

 俺は後ろを向いて走り出す。

「あ。背中向けて、ちょうどいい感じ」

 ひよりがのんきに言う。おい!


 数歩走ったところで、俺の右側を火が追い越していった。

「あー。受け流されちゃうね。だめかー」

 後ろでこんちゃんの声がする。

 今の火はこんちゃんのフォックスフレイムとやらか。俺の背中には命中せず、右に流れていったんだな。俺を追い越した火は、建物のコンクリートに当たって消えた。おい。下手すると器物損壊だぞ。それで済めばまだしも、放火になっちゃうぞ。

「あの……。こんちゃん……。いきなりこういうのは……」

 俺はゼェゼェしながら抗議する。

「あはは。ごめんごめん。たぶんこうなるんじゃないかなと思ってたんでさ。メグルくんには当たらないだろうと思って、やっちゃった。一応、出力も小さくしたからすぐ消えるし」

「わたしも、フォックスフレイムは受け流されちゃう気がしたな。矢みたいなもんだもんね。打撃に近い」

 いや、もし当たってたらどうなったんだ。

「フレイムはダメだったねー。でも、ファイヤーとかブレイズなら、大丈夫なんじゃないかなー」

「試してみた方がいいかもね。甲羅鬼さんのお父さんとやらも同じような受け流し能力を持ってるとしたら、効くのかどうかわからないとね」

 えーと。それは、まだ俺で試すということ……なんでしょうか。

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