第五章
5-1
まるでマイキューの波の上で、サーフィンをしているようだった。
いくつもの境界の層を突き抜けていく。ふと、ぼくがすむ世界とシャンバラはどのくらい離れているのだろうかと気になった。離れているという考え方が正しいのかすらわからない。境界の数が前に来た時よりも多いような気もするし、少ないような気もする。
これだけ色々な境界があるなかで、どうしてシャンバラとぼくらの世界がつながったのだろう。以前からぼくらの世界の調査をしていたといっていたから、偶然ということはないはずだ。まだまだシャンバラについては、知らないことが多すぎる。
「カイキさま、みなさんの装備をつけてください」
ジャングーに言われて思い出す。ぼくらはロゴスブロックで作った防具と武器を取り出した。ハンディタイタンを起動して、周囲を流れるマイキューに命令する。
「マイキュー! 形をなせ!」
マイキューがぼくらの身体に取り付いて、形を作る。よろい、こて、かぶと、そして武器。「変身」みたいだといってしまえばそれまでだけど、変身だとちょっと陳腐な気がする。
この武装は、ぼくらの、想像力だ。
「シャンバラに出ます」
武装を終えたぼくらは、あらためてジャングーにつかまった。
シャンバラは大騒ぎになっていた。無理もない。マイキューが次々と異次元世界から送り込まれて山のように積まれていくのだ。でも、だからって、この出口の場所は、いかがなものだろう。
そこは宮殿の庭。
降り立ったぼくらの目の前には、巨大なダイドラゴンとリトライヤーがいた。
ヒガンはむしろ感激しているみたいだった。
「おぉっ、でかいな。こいつは、でかい。ダイドラゴンの名前にふさわしい」
「喜んでいる場合じゃないよ。たおさなくちゃ」
「そうだな。それじゃあ、おれたちも」
「そうだね」
ぼくとヒガンはロゴスブロックを取り出す。パーツじゃない。すでに完成されているふたつの作品だ。
「ダイドラゴン!」
「リトライヤー!」
「「マイキューよ、形をなせ!」」
あたりで山のようになっているマイキューが、ロゴスブロックに絡みつくようにうねうねと集まる。それは積み重なり、形を作り、巨大な龍を作り上げた。
グォォォォォォォォン!
二頭の龍が吠えた。
シャンバラの技術によって作られた二頭の龍と、マイキューによって作られた二頭の龍の、戦いが始まる。ヒガンが手を掲げた。
「やっつけろ!」
マイキューの龍が飛びかかる。なにせ、同じロゴスブロックのモデルをベースにしているのだ。力は五分五分というところ。長期戦になるかもしれない。
ヒガンが言った。
「ここは俺がおさえる。お前らはお姫さまを助けろ!」
「わかった!」
ぼくとユイナ、そしてジャングーは、混戦の脇をすりぬけて、宮殿の建物に向かった。
プリンセスたちが監禁されているのは三階だが、窓は鉄格子で固定されている。
「入って、階段を!」
曲がりくねった廊下を走り、階段を駆け上がる。先頭を走るのはジャングーだ。宮殿の廊下が広いとはいえ、曲がり角が多いこの建物では飛ぶこともできず、自転車モードでは階段ものぼれず、結局全員が走っている。
前に来た廊下を通り、ドアの前に。
「こちらです」
ぼくはドアを力一杯ノックした。誰かの目を気にしている場合じゃない。
「アザリア! 父さん!」
「カイキか? 窓の外に見えているあれはなんだ?」
「助けにきたんだ。ジャングーも一緒、ぼくの友達も一緒だよ」
「ジャングー、この扉をこわせますか?」
アザリアの問いに、
「プリンセスもご存知のように、このエリアのドアや壁は特別製です。私の力では破壊できません」
「カイキ、マイキューを持っているか」
「あるよ」
ぼくは、来る途中で山の中からつかんでポケットにつっこんでおいたマイキューを出した。
「ドアの下に隙間があるだろう。換気用だ。そこからマイキューを部屋の中に渡してくれ」
言われるままに僕はマイキューを部屋に流し込んだ。
しばらく待つと、部屋の中から何かが顔を出した。鍵だ。
「マスターキーだ。マイキューで作った即席だけど、使えるはずだから開けてくれ」
言われるがままに、鍵をさしこむとぴったりだった。ガチャリと回してドアを開く。
そこにはアザリアとお父さんと、幾人かの男女の姿があった。どの人もみんなアザリアと同じで、どことなく品がある。
ぼくはお父さんに駆け寄った。
「お父さん、どうやったの?」
「あー。——いや、お父さん、見たものをそのまま記憶しようと思えばできるんだよ。写真記憶っていうんだけどね。それで、食事を運ばれた時に使っていたマスターキーの形を覚えていて、マイキューでそれを作ったんだ」
なんだ。そうか。ぼくがイメージしたドローンを作れたのも、お父さんの力を受け継いでいるからだったんだ。かなわないな。
「プリンセス、国王陛下と女王陛下はどちらに?」
「このエリアにはいないわ。執務室や謁見所は全部首相の勢力が乗っ取っていて、お父さまたちはそっちに監禁されているみたい」
「まずはマスターキーで、このエリアに閉じ込められている王族を解放しよう」
お父さんが鍵をもって隣の部屋に移動しようとした。
近づいてくる足音、鎧がこすれる金属音。
「あ、あれ見たことある」
ユイナが言った。
「ダムソルジャーだ。10人……20人いるかな」
ユイナが刀を抜いた。といっても、本当に切れる刀ではなくて、竹刀と同じ形をした棒だけど。
「カイキとアザリアさんは国王様と女王様を助けに行って。カイキのお父さんは、部屋に閉じ込められている人を助けて。ダムソルジャーは、私に任せて」
ユイナは中段に構える。たしかに竹刀を持ったら日本の武道の中では剣道が一番強いらしいけれど、ユイナひとりにまかせても大丈夫だろうか。
「カイキ、行きなさい。お父さんもいるし、監禁されている人を助ければ味方はどんどん増える。なあに、なんとかするさ。アザリアさんを頼むな」
「……うん」
ぼくはうなづいて、ジャングーとアザリアと一緒に、ダムソルジャーの軍団とは反対側に向かった。階段は何箇所もある。別の場所から降りればいい。
そして宮殿にはつきものの謁見の間とその手前のホール。パーティーなんかでつかうやつだ。シャンバラでも、宮殿みたいな建物の作りはぼくの世界と同じみたいらしい。
向かう先は、中央部。そこにすべてがある。
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