4-3

 今度は、マイキューが足りない。


 3人で自転車に乗って、ロゴスブロックを受け取ってきて、いざマイキューで本番用の装備を作ろうとして壁にあたってしまった。3人の装備をつくるには、お父さんの部屋にあったマイキューだけでは足りないのだ。


「カイキのお父さんは、どうやってマイキューを作っていたの?」


「わからない。お父さんとアザリアなら作れるんだろうけど」


「この部屋に作る道具はなさそうだしね」


「あっても、俺らじゃ使えないだろ」


「じゃあさ、カイキのお父さんの会社の人に頼んで、工場とかで作ってもらえないかな」


「シャンバラのこと、簡単に信じてもらえるかなあ。お父さんはあっさり信じたけど」


「カイキの親父さんの仕事場なんだから、同じような人が集まっているんじゃないのか?」


 そうかなあ。ジャングーを見てもらえれば、すごいロボットがいることはわかってもらえるけれど、異次元世界とかは信じてもらえないんじゃないだろうか。下手したら警察に通報されるかもしれないし。


「でもマイキューがないと、何もできないよ」


 ユイナの言うことはもっともだ。マイキューがないと、ぼくらはただの子供でしかない。マイキューとロゴスブロックがそろってはじめて、力を発揮できる。


 ジャングーが手をあげた。


「カイキさま。お父さまから渡されたハンディタイタンを貸していただけますか?」


「いいけれど、どうするの?」


「この世界に介入することは避けていたのですが、こうなってはそうも言っていられません」


 ぼくはハンディタイタンをジャングーにわたした。


 ジャングーは自分の胸の蓋を開けて、ケーブルをひっぱりだし、ハンディタイタンにつないだ。


「つながるの?」


「この世界の汎用的なシリアルバスについては、事前に調査済みです。私にはもともとこの世界の機械と接続する機能がそなわっているのです」


 そしてキーボードに向かい、手をかざした。ガチャンという音とともに、10本の指が割れて、20本になった。そして高速にキーボードをタイプしはじめた。


 ぼくらは誰もジャングーに話しかけられない。じっと見守っていた。


 10分ほどして、ジャングーが手を止めた。


「お父さまが残してくれた情報と、工場の状況を把握しました。最新版のマイキューの設計情報は手元と開発サーバにあります。これを工場の設備に流し込めば、マイキューを生産することができますが、出来上がったものをどうやってシャンバラに運べばいいのかという問題があります」


 え? え? マイキューを作れるってこと?


「できたら、バケツリレーみたいにして、シャンバラへのトンネルに運べばいいんじゃないのか?」


 ヒガンがいうが、


「効率が悪すぎます。まだ直接製品の出口をトンネルにつないだほうがいいですが、確実にみつかります」


 ジャングーが却下する。


 そうだよなあ。見つからないようにするのが難しい。ちゃんとした生産ラインにのせようっていうんだからなあ。


 うーん。


 何か思いつきそうなんだけどなあ。お父さんならこういう時、どうするだろう。アイデアをひねるにはどうすればいいって言っていたっけ? くみ合わせる? ひっくり返す?


「そうねえ、運び出しているのがゴミとかだったら、見つからないんでしょうけど、ねえ」


 ユイナが言うのを聞いて、それだ! と思った。


「そうだよ、ジャングー、それだよ! 工場の生産ラインに潜り込めるってことは、最後の動作試験の機械にももぐりこめるよね。そこで、全部欠陥品ってことにしちゃって、廃棄のほうに流しちゃうんだ」


「なるほど。それで廃棄ラインをシャンバラへのトンネルにつなげるわけですね」


「カイキすごい!」


「カイキえらい!」


 それでいこう!


 さっそく荷物のじゅんびをして、お母さんにみつからないように裏口から家を出る。外はもう暗くなっていた。


 最後にちょっとだけ振り向いて家を見た。お母さんが知ったら何ていうかを想像してみる。でもきっと、「なんとしてでも帰ってきなさい」とか「お父さんが逃げないように首のところつかんでいなさい」とか、そういうことな気がした。ぼくの勝手な思い込みだし、子供が親の思うように育たないのと同じように、親も子供が想像していることの斜め上を考えていたりするものだろうけど。


 お父さんが勤めるおもちゃ会社の工場は、自転車で30分のところにあった。自転車モードのジャングーで走っても大丈夫か不安だったけれど、夜ということもあり、誰にもみつからなかった。


 ぼくらは工場の横を流れる大きな川の川原を陣地にすることにした。


「カイキさま。ドローンを作ってください」


「ドローン? あのプロペラが4つあるヘリコプターみたいなの?」


「そうです。ドローンを中継器にして、工場の内部ネットワークに侵入します。その後は、おまかせください」


「やってみる」


 ドローンってどういう形だっけ。どういう機能だって。どういう動きをするっけ。どうやって飛ぶんだっけ。頭に浮かぶイメージは、何かの動画と写真で見たものそのものだ。これなら作れる。


 ロゴスブロックを組み合わせる。正確にイメージするんだ。大丈夫。できる。ぼくには確信があった。


「できた。マイキュー! 形になれ!」


 ハンディタイタンを操作する。マイキューがぞろぞろと集まって結合し、ドローンができあがる。


「ジャングー、これ」


「ありがとうございます。飛ばします」


 ドローンがふわりと浮かぶ。そして工場のほうに飛んでいった。今度はジャングーの仕事だ。


「屋上に着地。ネットワークコネクタを探します。……接続。生産ラインのセグメントに侵入します。これが見つかったら、お父上は怒られますね」


「え! そうなの?」


「冗談です。いえ、冗談ではないですね。怒られるでしょう。会社をクビになるかもしれません。進みますか?」


「うん。進むよ。お父さんならそうするはずだ」


 ぼくは迷わなかった。


「了解です。生産ラインのうちのひとつを占拠します。……検品機能を置き換え。すべての生産物を不良品としてマークします。不良品と廃棄設備を接続しました……。廃棄設備は外部につながっているようですね。好都合です。境界遷移装置の終端を廃棄物移動車両の内側に設置します。これなら見つかりません。……タスク生成……実行します」


 工場からは、廃熱のための巨大なファンの音がずっと続いていて、とくに変化はない。


「うまくいっているの?」


「ドローンを少し移動させます。カメラの画像をハンディタイタンに転送します」


 みんなで画面をのぞきこむ。そこには、ベルトコンベアーに運ばれて、マイキューがつぎつぎと廃棄物と書かれた車に吸い込まれている映像が写っていた。


「このまま私たちもシャンバラに乗り込みましょう。背中につかまってください」


 ジャングーが立ち上がった。関節の動きを確認してから、しゃがんだ。ユイナとヒガンが、その背中によいしょとつかまる。


 ぼくは迷わないときめた。ベッドにもぐるのはもう終わりだ。今度こそ、お父さんとアザリアを取り戻すんだ。


 ジャングーの背中にしがみつく。


「行こう」


「一気に飛びます」


 ジャングーはロケットのように飛び上がり、一気に急降下。工場の駐車場に急旋回して入り込み、マイキューが吸い込まれている車の中に飛び込んだ。


 うずまきが、ぼくらを飲み込んだ。

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