4-2

 ドシンッ! という音とともに、ぼくとジャングーはお尻から着地した。その前に空中に放り出されたような気がするけれど、一瞬意識を失っていたみたいだ。


 気がつけばぼくらは公園にいた。半歩ほどはなれたところの地面に、穴があいている。見たことのある穴……市民公園だ!


「戻ってこれたようですね」


 先に立ち上がったのはジャングーだった。


「ここの穴を通じて、むこうとつながっていたんだね。だから通信できたんだ」


「そのように推察します」


 どうしたものだろう。お父さんとアザリアを助けに行ったつもりが、なんにもできずに逃げ帰ってきてしまった。


「あ……あれ……あれ?」


「え?」


 素頓狂な声に振り向いたら、ユイナがぼくらを指さしていた。驚きたいのはこっちだ。どうしてユイナが市民公園にいるんだろう。


「どうした? ユイナ」


 近づくのは別の声。この声をぼくは知っている。


「カイキ? ……と、謎のロボット……」


 ヒガンだ。


 え?


 いや、本当に驚きたいのはぼくのほうだ。どうしてユイナとヒガンが一緒に、しかも公園で、しかも名前呼んでるし、一緒というかふたりっきりだし、もしかしたらぼくらいないほうがよいのかっていうか、ぼくら何か邪魔したんじゃないだろうか。そんなことを頭をかけめぐる。


 もしかして、ふたりって。


「や、やあ……」


「こんにちは、ユイナさん。そちらの男性は、はじめましてですね。おふたりはどういう関係なのですか?」


 ジャングーが空気を読まずに質問した。そんなのいきなり聞くなよ。


「「だって、いとこだから」」


「そうですか」


「そうなんだ……」


 って、ええっ? そんな話どっちからも聞いたことないぞ。ヒガンはぼくの学校知っているから、ユイナと同じってことは知っていたはずで、でもユイナからヒガンのことを聞いたことはないし、ヒガンからユイナのことを聞いたこともない。


「俺はユイナから色々聞いているぞ」


「ええっ」


「私もヒガンから色々聞いているよ。でも黙ってたの、だってカイキって、あんまり趣味のこととか話したくなさそうだったから。……ていうか、黙っていたほうが面白いかなって思ったから」


「そんなぁ……」


「だからカイキ、お姫さまと暮らしていることや、変なロボットのことも、ユイナから聞いて知ってるぞ」


 こうなったら観念するしかない。ぼくはヒガンとユイナに事情を説明することにした。細かなところはジャングーがおぎなってくれる。その中にはぼくが知らないこともあった。アザリアのフルネームが、アザリア・カレルレンであることとか。


「海野ケイ先生は悪い人だったんだね……」


「ぼくも信じられないよ。ケイ先生は、ぼくにいろんなことを教えてくれたんだ」


「それも、カイキに近づくためだったんじゃないのか?」


「そんなこと、言うなよ」


「カイキはだまされやすい。お人好しすぎるんだ」


「それよりも、ダイドラゴンとリトライヤーがいたんだ。ジャングーよりも大きなロボットになって」


「あ! あの時の! あの時だよ、カイキ!」


「あの時って?」


「ロゴスブロック展示してもらったろ? その時に、おれたちの作品見ていたひとがいたじゃないか。写真とか撮っていたじゃん。あれでコピーしたんだ。あの時から、その異次元世界のひとはこっちに来ていたんだよ!」


 僕はジャングーを見る。


「シャンバラが以前からこの世界の調査をしていたのは本当です。ですが、それはあくまで調査という態度を維持していました。結果的にはプリンセスがこの世界に逃げてきたことで、カイキさまたちを巻き込んでしまったのは、遺憾に思いますが」


「じゃあやっぱりあれはダイドラゴンとリトライヤーの巨大コピーだったんだね」


「なんか悔しいな」


「そうだね」


 全員が黙り込む。一分くらいすぎたところで、ユイナが口を開いた。


「悔しいんだよね」


「うん」「ああ」


「どちらにしても、カイキのお父さんとアザリアさんは助けないといけないんだよね」


「そうだね」「そうだな」


「それなら、みんなで助けに行こうよ。私も協力するから。ヒガンも協力するでしょ?」


「もちろん。だけど、俺たちがそんなに力になるか?」


「カイキひとりだったのが、3人になるんだから三倍じゃん。できるよ。それにカイキのお父さんが作ったマイキューってのがあるんでしょ? ヒガンもブロック得意なんでしょ? できるじゃん」


「ユイナは?」


 僕は心配になって聞いた。女の子をこういうのに巻き込むのはよくないと思ったからだ。


「私? カイキ、知らないでしょ。私、剣道習ってるの。多分、この3人の中で、一番強いよ」


「はあ」


 それは……まいったな。ここまで言われたら、前に進まないわけにはいかないや。


「わかったよ。3人でチームを組もう」


 ぼくは立ち上がった。ユイナとヒガンも、続いて立ち上がる。ぼくらは向かい合い、右手のこぶしを前に出した。その上から、ジャングーの大きな手がかぶさった。


「私もいます。プリンセスの護衛ロボットである私は、たとえみなさんがやめるといっても、プリンセスを助けに行きますよ」


「じゃあ、4人のチームね」


「まずは、ユイナとカイキの武器と防具を作らないとね。もう一度準備を始めよう」


「おーっ!」


 ——で。3人で僕の家に帰り、お父さんの部屋で作業をはじめた。


 まずは二人分の武器と防具だ。ヒガンはロゴスブロックで自分用の鎧と斧を作った。ユイナの分は、剣道の動きができるように工夫して、防具と刀を作った。この時に、ユイナのアイデアで全員ランドセルのかたちをした容れ物をバックパックとして背負うようにした。


「この中にロゴスブロックをいれておけば、シャンバラで新しいブロックを組めるじゃない?」


「それいいね」


「採用」


 ところが、考えてみるとそんなバックパックに詰めるほどのロゴスブロックを、ぼくらは持っていなかった。ぼくの持っている分とヒガンが持っている分とを合わせても、そんな大した量にならない。


 やっぱりあんまり意味ないかなと思い始めたときだった。


 プルルルルルル。


 家の電話がなった。お父さんの部屋の受話器をとる。電話の主は、ロゴスブロックセンターの鈴中さんだった。


「やあ、カイキくん。この前で出してもらった、ロゴスブロックのコンテストだけれど、おめでとう! 入賞だよ」


「え? アメリカ行き!」


「いや、それは最優秀賞。残念ながら最優秀賞にはのがして、入賞だ。ついでに教えとくと、ヒガンくんも同じく入賞だ」


「あ、ヒガン、ここにいます」


「じゃあ、伝えといてくれ。あらためて、おめでとう。アメリカ行きは残念だったけれど、次を狙えばいいさ」


「はい」


「とりあえず、入賞の賞品があるんで取りにきてくれないかな」


「賞品?」


「うん、賞品。ロゴスブロック・フルセット。ヒガンくんの分もあるから、2セットでかなりの量になるけれど、大丈夫?」


 それを聞いて、ぼくらは顔を見合わせた。



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