3-2

 集合場所にもどると、先生がおや、という顔をした。


「カイキくん、お父さんとアザリアさんがいないみたいですが……」


「あの……アザリアが気分が悪くなって、お父さんが連れて帰りました」


「そうですか。ひとこと先生に言ってほしかったですね」


「帰ったら、お父さんに言っておきます」


「はい。それではみなさん、学校にもどりましょう」


 ジャングーはぼくとは別行動で家に帰っている。ぼくは学校に帰る集団の一番最後を、とぼとぼと歩いていった。


 プリンセスとお父さんが、てきにつかまってしまった。どうすればいいんだろう。


 ぼくがつかまればよかったんだ。それならお父さんはきっと助けにきてくれる。お父さんがつかまってしまったら、ぼくの力ではどうしようもない。


 歩く足取りは、しぜんと重くなる。家に帰るのもゆううつだ。お母さんにどうやって説明すればいい? もっとも、ジャングーが先に帰って説明しているかもしれないけど。


「ねえ、カイキ」


 顔をあげたら、ユイナがとなりを歩いていた。


「なんかあった?」


 そんなことを聞かれても、正直に話すことはできないし、話しても信じてもらえないだろう。ちがう世界のお姫さまとロボットのことを、かんたんに受け入れるなんて、うちの両親くらいのものだ。


「なんでもない……うん、ほんとう、なんでもないよ」


「ならいいんだけど」


 前もユイナをまきこんでしまった。これ以上はいけない。


 学校にもどってのこりの授業をして、家に帰る。ジャングーはまだ帰っていなかった。


 しょうがない、かくごをきめて、お母さんに起こったことを順番に説明した。お母さんはだまって最後まで聞いてくれた。


「カイキ、あなただけでも無事でいてくれて、うれしい」


「でも、お父さんが」


「そうねえ。でも、あの人は、ほら、なんとかしちゃう人だから。むしろ、プリンセスの護衛のためについていったって考えればいいのよ」


「でも、異次元世界だよ。何があるかわからないじゃん」


「何があるかわからないところに、ものすごく楽しそうな顔をして飛び込むのが、お父さんなのよ。いつもそう。そして結局なんとかしちゃうの」


「なんとかならなかったら?」


 ふふっとお母さんが笑った。


「同じ質問を、お父さんにしたころがあるわ。そうしたら、なんとかなったと言い切ってしまえば、なんとかなったことになるって言ってた」


「意味がわからないよ」


「ええ、お母さんもいまだに分からない。でもお父さんはそうやって、なんとかしてきたのよね。ねえ、カイキ。カイキのお父さんはすごい人ね」


「う、うん」


「だからきっと大丈夫。大丈夫よ」


 お母さんは僕の頭に手をのせた。小さな子にするみたいだ。でもそれで、ようやく安心できた気がする。


 お母さんはすごい。お父さんはのんきな人のように見えて、実は落ち着きがなくていろいろととっちらかることが多いんだけど、お母さんはそういうのを見ていても何も言わない。お父さんの話を聞いてあげて、そうねそうねとうなづいて、最後に、


「でも、あなたはなんとかするんでしょう?」


「まあな」


 で話が終わる。


 じつはこの家の大黒柱はお母さんなんじゃないかと思う。こんなに細いのに、ゆるがない感じ。だからお父さんは、好きなことができるんじゃないだろうか。


「お取り込み中、申し訳ありませんが」


「うわっ!」


 ジャングーが帰ってきた。なぜかあちこちがよごれている。


「どうしたの?」


「プリンセスを探していました」


「プリンセスは連れて行かれたじゃないか」


「そうなのですが、プリンセスのペンダントが発生させている信号を受信できているのです。通話などは向こうの状況がわからないのでしていませんが、シャンバラの宮殿内にいるところまでは追跡できています」


「ごめん、ジャングー。よくわからない」


「プリンセスのペンダントには、境界転移の機能はありません。この世界とシャンバラが、どこかでつながっているということです。それを探していたのですが、みつかりませんでした」


「じゃあ、アザリアやお父さんと連絡がとれるってこと?」


「可能性はありますが、慎重に行動する必要があります。ペンダントを敵に奪われてしまっては、元も子もありません。今のところ通信できるということだけが、細い糸なのです」


「でも……でも、こうしている間に、お父さんとアザリアが……」


「私のほうでも対応策を考えてみます。私はプリンセスを守るために作られた護衛ロボットです。全力をつくします」


「ジャングー」


「それが私の使命ですから。大丈夫、なんとかします」


 なんとかする、という言い方が、お父さんと重なる。ジャングーもまた、プリンセスのために数々のトラブルをなんとかしてきたのだろうか。


 お母さんがパンパンと手を叩いた。


「ご飯にしましょう。そして寝ましょう。一番大事なことよ」


「さすがです、お母上」


 言われるがままにご飯を食べて、ベッドに入ったけれど、なかなか寝付けなかった。お父さんとアザリアはいまごろ何をしているのだろう。……あ! そもそも時間のながれるはやさがちがったりしないんだろうか。お父さんがこっちにもどってきたら、おじいさんになってたりしたら嫌だな……。


 最後にはそんなどうしようもないことを考えながら、だいぶ遅くになってぼくは眠りに落ちた。


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