2-3
どこににげればいい?
ぼくらの後ろから、ダムソルジャーの足音がする。速くはないけれど、ぼくらが逃げるはやさと同じくらい。だからただ逃げても、逃げ切れない。
昨日はどうしたっけ。ジャングーとプリンセスの力で、むりやりたおした気がする。今はジャングーがいない。プリンセスも……あれ? プリンセスを保健室においてきた!
でも……ダムソルジャーはぼくらを追ってきているな。どうしてだろう。ダムソルジャーのねらいはプリンセスのはずだ。ぼくらのほうを追いかける理由が思いつかない。
そうじゃない! なやんでいる時間はないんだ。逃げなくちゃ。
「カイキ! こっち」
ユイナが空いている教室のドアを開けた。ぼくらはそこに逃げ込む。
隠れるところはないだろうか。掃除道具いればとか。
「だめ、カイキ! こういう時は、反撃しなくちゃ」
「ええっ!」
ユイナは掃除道具いれをあけ、モップを2本取り出した。そのうち一本をぼくによこしてくる。
「持って! ドアから離れて立ってて!」
ぼくは言われるままに、ドアからはなれて、廊下を向いて立った……って、外から丸見えじゃん!
ユイナはドアの横でしゃがんで、モップを構えた。
ダムソルジャーのすがたが、廊下に現れる。ぼくを見つける。教室のドアをゆっくりと開ける。中に一歩ふみだす。
「いまだっ!」
ユイナが、モップを入口の下側、床から20センチのところに、水平に構えた。
ダムソルジャーはモップに足をひっかけて、正面から教室の床に転がる。このダムソルジャー、そんなに頭はよくないみたいだ。
「やっつけろ!」
ユイナがモップをふりかざして、ダムソルジャーに叩きつける。しかたがないので、ぼくもダムソルジャーをモップでなぐりつけた。
角で、角で、モップの先の金属のところで。強く、強く。思い切り、思い切り。いや、ぼくじゃなくて、ユイナがやっているのをまねしているだけだ。意外とえげつないよな。
床にふせったダムソルジャーは、モップでたたかれるたびに変な音を出した。
……えげつないな、ユイナ。
ダンッ!
ダムソルジャーが床を叩く。上半身を持ち上げて反撃をはじめた。腰に持った剣に手をかけた。
「負けないっ!」
ユイナが教室の椅子を持ち上げて、ダムソルジャーの頭をめがけて思いっきりふりおろした。ショックでダムソルジャーが床につっぷす。そこに加えて、腰にのびていた手の甲の部分にも椅子をぶんまわした。
……えげつない。
ダムソルジャーは吠えた。それまでの機械のような音ではなくて、声としてはっきりと吠えた。むねのあたりがぞわぞわする。逃げなくちゃと、体で感じる。
「にげよう!」
何かの機械のように椅子でダムソルジャーをなぐりつづけているユイナに言った。
「へ?」
まぬけな返事がかえってきたので、強引にユイナの手首をにぎってひっぱって、教室の外にむかって走りだした。ユイナは持っていた椅子を全力でダムソルジャーに投げつけた。椅子はダムソルジャーの頭に命中して、少しの間だけのけぞっていたけれど、ダムソルジャーはすぐに頭をふって起き上がろうとした。
ぼくとユイナは窓側の出口をあけて、校庭に出た。1階に逃げて正解だった。ベランダでいきどまりだったら、目もあてられない。
「カイキ!」
校庭に出たところで、アザリアの声がした。自力で逃げてきた……というか、追われていないんだから、単に出てきただけだな。しかも、自分からダムソルジャーがいるほうに出てきた。
「カイキ、ぶじなの?」
「ぼくじゃなくて、アザリアのほうがねらわれているんだろ?」
「そうだけど、目が覚めたら誰もいなくて、外のほうでダムソルジャーっぽい声がして、どうしようと思って、とりあえず出てきた」
「出てこないでよ……。かくれていてよ……。プリンセスなんだから……」
「え? え? そんな、まずかった?」
「ダムソルジャーが追ってきているんだ」
「じゃあ、逃げなくちゃ」
「逃げているんだよ!」
「そうだったの!」
「ちょっと! あんたたち!」
ユイナががまんしきれなくなって、さけんだ。
「ふざけてないで! 教室から変な化け物が出てきているでしょ!」
ダムソルジャーは、教室の椅子を持っていた。ユイナにやられたのが、よっぽど腹立たしいのではないかと思う。仕返しをするつもりなんだろう。椅子をおおきく振りかぶって、ぼくらに投げた。はやい!
ぼくはとっさにプリンセスをかばう。と、ユイナがとっさに椅子をけりかえそうとしていたので、そっちにもジャンプして地面にふせさせる。ぼくらの頭の上を椅子が飛んでいく。
「勝てるわけないだろ!」
「それならどうすんのよ!」
アザリアがぼくらのところにかけよってきて、空を指さした。
「大丈夫、間に合った」
言われて、空をみる。飛んできたのは、ジャングーだった。いつの間にか、羽がついている。その背中に乗っているのは、
「お父さん!」
「助けにきたぞ!」
「プリンセス、ご無事で」
「ありがとう、ジャングー」
父さんがジャングーの背中から何かを投げた。するとそれは、旋回してダムソルジャーのほうに向かう。
「マイキューで作ったロボットだ! 次々いくぞ!」
父さんが叫ぶ。ぼくがふしぎそうな顔をしていると、アザリアが説明してくれた。
「昨夜お父さんのマイキューを改造したのです。いまなら、どんなものでも作れますよ」
マイキューの飛行機がつぎつぎに投げられる。鳥のようにダムソルジャーのまわりをぐるぐると飛び回る。ダムソルジャーは腰の剣を抜いた。振り回すものの、マイキューの飛行機は小さすぎて、かすりもしない。
ダムソルジャーの動きは大きくて、剣をふるごとにスキができる。飛行機はそこをねらった。ソルジャーの関節部分をくちばしでつついては逃げ去るというのをくりかえしたのだ。
ダムソルジャーは何度も剣をふる。でもダメージばかりがたまっていくようだ。
やがてひざを地面についた。
「キツツキを飛ばすぞ」
お父さんが、一回り大きな鳥の形をした飛行機を投げた。キツツキと呼ばれたそれは、ダムソルジャーの剣にとりついて、カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンと剣をつついた。
ぽろり、と剣が折れた。ダムソルジャーはまるごしになる。
アザリアが片手をあげた。
「ジャングー、いっけーっ!」
ジャングーが急降下し、いきおいをそのままにダムソルジャーめがけてパンチした。
全力のパンチを受けたダムソルジャーは、こなごなになって消えてしまった。
お父さんがジャングーの背中からおりてくる。
「無事か? カイキ」
「うん……だいじょうぶ」
「お父さま、助かりました」
「アザリアさんも無事でなにより。そちらの女の子は……おや、ユイナちゃんじゃないか」
「カイキのお父さん、こんにちは」
「きみは? 巻き込まれたのかい?」
「わたしも大丈夫よ。助けてくれてありがとう」
「子どもたちが困っていたら、お父さんは助けにくるものだよ」
そう言って、お父さんはワハハと笑った。
お父さんのまわりにマイキューの飛行機が集まってくる。お父さんはひとつひとつをつかまえて、使い古したカバンにいれる。マジシャンがハトをどこかにかくすみたいだ。
お父さんはこういうひとだ。ぼくや家族に困ったことがあっても、なんとなくなんとかしちゃう。スーパーマンみたいなのとはちがう。なんとなくやってしまう。そしてお父さんがいれば、最後は困らないだろうなって家族みんなが思っている。
かなわないな、と思う。
でも、そんなお父さんがいてくれてよかった。そこに、アザリアとジャングーの力があれば、もしまたダムソルジャーが来ても大丈夫だろうし、アザリアもいつかは自分の国に帰れるんじゃないかと思う。
期待しすぎかなとは思うけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます