第5話

 翌朝、屋敷を後にした蓮は、村を出る前に、こじんまりとした山を改めて見た。

 相変わらず、物々しい気配はあるが、昔通った時より拒絶する空気は、感じられない。

 そこに巣くっていたという、若者の正体には興味があるが、蓮は別な事が頭に張り付いて、離れなかった。

「……何か、気が抜けちまったな」

「呑気だねえ。まだ、追っ手は、かかってるんだろ?」

 呟いた言葉に反応した娘は、少し疲れているようだ。

「ん? 良い寝床じゃ、よく眠れなかったか? そりゃあ、悪いことしたな」

「そうじゃないよ。それにしても、あなたは、本当に、偉い人と知り合いみたいだねえ」

「別に、位ってもんが高くなくても、偉い奴は、偉いもんだぜ。ま、あの人は、運よく、気楽な隠居生活を送れてるが、偉くっても、貧乏のまま人生送る人もいるし、才も財もあったのに、志半ばで病に倒れて、世の変化を見守る事の出来なかった人もいる」

「……そうみたいだね。人の取り方によって、人の行動は、善にも悪にもなる。才があっても、その考え方が、人に良く取られなかったら、悪の所業になる。人間って、そう思うと最強だね。妖しも、彼らの気持ち次第で、良くも悪くもなる」

 人間の気持ち次第で、退治されるか否かも決まってしまう。

 後ろで、小さく溜息を吐く娘の呟きを背中で聞きながら、蓮は空を見上げた。

 雨雲が、徐々に空を覆って行く。

 そろそろ、雨が来そうだ。

 そんな日に、上野の翁の家を辞したのは、夕べ聞いた話が、気になったせいだ。

 丁度、一年前のこの時期に、突如として終わりを告げた、一つの村の話だった。

 その村は随分前から、神隠しの村、と呼ばれ、特に今の時期は旅人が消える村として、近隣の村では恐れられていたらしい。

 梅雨の時期に近づく旅人は、誰ひとり、その村から出て来ない。

 女連れの時は、女のみ残り、村に留まるしかなくなった女は、そのまま村人の妻となることから、お上は探りを入れていたようだが、梅雨の時期以外はごく普通の村で、その呼び名のせいで寂れかかってはいたが、真面目な村人の多い土地だったそうだ。

 その村の住人が、消えた。

 正確には、男衆が一人残らず消え、女房子供は村長の家に火を放ち、その中で自刃していた。

 旅人が消える村で、ついには村人も消えてしまい、今は野ざらしになっているらしい。

 蓮も、何度かその村を通り過ぎたことがあるが、時期が違ったせいか、危ないと思ったことがなかった。

 だから、もう終わった話ではあるが、その村を見てみようと思ったのだ。

 村を出て山々の間の道を、三人は黙り込んで歩いた。

 昨日までは、うるさい程に話し掛けてきた雅が、今日は疲れがたまっているのか黙り込んだままで、それを心配そうに、戒が見上げている。

 道の中ほどまで来た時、足元が少し盛り上がった後、土が変わった気がして、蓮は足を止めた。

 目を地面に落とすと、その周囲に今までの土砂色の土より、薄い色の土が、蓮の足下から前方に数十歩分の範囲で、敷き詰められていた。

「……岩か何か、崩して均しでもしたのかね?」

「良い勘してるね。その通りだよ」

 優しい声が、蓮の呟きに答えた。

 振り返った若者を追い越し、雅は体ごと振り返った。

「できるだけ、人の通る邪魔にならないように、岩を砕いて、地面に均してくれたんだ」

「へえ。誰が?」

「誰でしょうね」

 おどけるように答える娘を見ながら、蓮はゆっくりと尋ねた。

「こんな所に岩なんてあったか? オレが前に通った時は、なかったはずだぜ?」

「雨の時期だけ、何故か移動する、けったいな岩が、あったんだよ」

「へえ。詳しいじゃねえか」

「そりゃあ、私の住処の、真下の村の話だもの」

 蓮は、静かに雅を見返した。

 その表情に、娘は苦笑する。

「驚いてほしかったんだけど。それで、少しはすっとしたのに」

「そりゃあ、悪かった。夕べの話が無かったら、驚いてたかもしれねえけど、大体の予想は、あったからな」

「向こうの山が、安全になったことの方が、興味深い?」

「いや」

 呆れた表情の問いかけに、若者は笑って答えた。

「夕べ、あんたらが部屋に行っちまった後の、この先の村の話でな、どうも狐の妖しが絡んでんじゃねえかって、聞いたんだ」

「へえ……その狐が、私?」

「あんた以外に、住んでるのか? 狐が?」

 笑ったまま、後ろで立ち止っている戒を振り返った。

 その若者を睨むように見返して、足早に追い越した子供は、雅の傍らに立つ。

「そのガキ、あんたの弟じゃ、ねえんだろ?」

 恐らくは、何かの障りがあって、親に捨てられた子供、だ。

 そういう者は、育てる者によって、人間としても、妖しとしても育つ。

「この子は、何年前だったか、山の中で泣いてるのを見つけて、面倒を見てるんだ。今では本当の弟みたいに、可愛いよ」

 傍らの子供の頭に手を置いて、雅は静かに答え、再び蓮を見返す。

「ついでに見て行く? 神隠しの村と呼ばれた村の跡地と、旅人を生贄にしていたと言われてた、狐の住処」

 優しい笑顔は変わらず、しかし、何か諦めに似た感情が声に滲んでいたが、蓮はその意味を考える前に頷いていた。

 ……岩が砕かれて、土に均されていた場所から、緩やかな坂を下った所に、その村はあった。

 一年、たったそれだけの月日だけで、土地は草も生え放題の、荒れた野原となる。

「村人の家が点々と建っていたけど、あの後来た嵐で、殆んど崩れたんだ。田畑も、この時期は色々植えられて、色とりどりで下から見てて楽しかったんだけど、この通り草だらけ」

 そこまで言って、雅は改めて村だったその土地を見回した。

「こんなに広かったのかって。こうなった後、初めて降りた時は思ったよ。あんなに、小さな村だったのに」

 そして、自分の背中を見つめる蓮を振り返って笑いかけた。

「聞かないんだね。どうして、こうなったのか。何が、私に、こんなことをさせたのか?」

「聞かねえよ」

 周りの気配を気にしながら、蓮は答えた。

「あんた、知らねえんだろ? この村に起こったことを?」

「知ってるよ。住処の真下で、起こったこと位」

「それを、あんたがやった、と?」

「そう、伝わってるんでしょ? 上野様の所には?」

 優しい笑顔のままで、娘の目が光った。

 その狐らしい金色の光に、まだ日が高い割に、よく分かると感心しながら、蓮は答えた。

「誰から、どういう風に伝わってるのかも、分かってんだな?」

「分かってるよ。私を退治に来た連中から、私が諸悪の根源で、浄化の為と名声の為に退治に来たと、声高に言ってるんだろ?」

「それが分かってて、あんたは、戻ったのか? この土地に?」

 それには答えず、雅は再び野原を見回した。

 そう、待ち伏せされているのは、分かっていた。

「本当は、戒を誰かに預けて戻ろうと思ったんだけど……私って、そういう時に頼れる知り合い、少ないんだ。だから、あなたに、お願いしたいな」

「悪いが、お断りだ。オレは、ガキが大嫌いだ」

「そんな呑気なこと、この一大事に言わないでよ。早くここを離れないと、あなたも仲間と思われちゃうよ」

「どっちが、呑気なんだ? もう、遅い。動けねえ」

「はあ?」

 思わず間抜けな声を返した雅は、突然体に攻撃を受け、草むらに転がった。

 同じように転がった蓮が、小さく笑う。

「気づかなかったのかよ。オレらがこの地に足を踏み入れた時から、あいつら、術を唱えてやがったぜ」

「ええっ。気づいてたんなら、どうして動かないんだっ?」

「自慢じゃねえが、オレはその類には弱いんだよ。もう、笑えるほど、動けなくなっちまうんだ。すげえだろ」

「本当に、自慢じゃないじゃないかっ。胸張るなっ」

 思わず怒鳴ったその目先で、戒が転がってピクリともしないのが見える。

 それより近い位置の蓮は、先の言葉を言い切った後、目を見開いたまま、動かなくなった。

「ち、ちょっと……冗談だろ? よくそんなで、今まで生きて……」

 上方に近い場所に住んでいた、どちらかというと妖しに近い若者が、出会う機会が多いはずの術師の攻撃に、全く抵抗できずに倒れてしまった。

 これなら、自分の方がまだ動ける。

 骨の節々がきしむ音を聞きながら、必死で呪縛を解こうとする雅の前に、静かに近づいて来る足音がある。

 三人だ。

 なるほど、だからここまで縛れるのかと、納得しながら、娘はようやく顔だけ上げて、相手を見上げた。

 修行僧姿の四十半ばの男が三人、娘を見下ろし笑っている。

「何だ。大した妖しではないな」

「見れば、まだ小娘ではないか」

「油断するな。動いている」

 それぞれ会話した後、更に術を唱え始める。

 激痛が体中を走り、叫びそうになるのを堪える雅の耳に、戒の叫び声が届いた。

「かい……」

「何だ、まだ、動くぞ」

「そう動くわけでもないだろう。さっさと、首を刈れ」

「分かっている。しかし……」

 言いながら娘の傍に膝をついた男の手には、刀がある。

 振り乱れた黒髪を掴みながら、その男は近くに倒れている二人を見ている。

「子供だらけじゃないか。本当にこいつ、妖しか?」

「術が利くのが何よりの証だろうが。仇と狙われるのも厄介だ。一緒に刈ってしまえ」

「丁度いいじゃないか。三人を、三人で退治した。これで、大手を振って京に帰れる」

 冷たいものが、足元の方から体中に走り、何かが壊れる音がどこからか聞こえた。

「……やめろ……」

 言いようのない恐怖が、頭の中を占め、必死で声を絞り出すが、男たちは笑って見下ろしているだけだ。

 笑いながら、子供の首をも刎ねるつもりの僧侶。

 これも、善なのか?

 それを、甘んじて受けて、死ぬしかないのか。

 何も見たくなくて、雅が目を閉じた時、一気に吹き出る蓮の血の匂いが、鼻をくすぐった。

 一年前まで続いた、あの悲劇が蘇り、諦めが力さえも奪った時、不意に掴まれていた髪が離され、地面に顔をぶつけた。

 痛みを感じる前に、修行僧たちの驚きの声が、自分と間合いを取った場所に離れた。

 何とか顔を上げた雅の傍に、血だまりがあった。

 その血だまりに、ぽつりぽつり、滴が落ち続けている。

「……腕に、力を絞り込むのに、手間がいるんだよな。痛みを与えりゃ、術も解けるのは、知ってたんだが……」

 右手から血を流しながら立つ蓮は、身構える僧侶たちを見返しながら、不敵に笑って見せた。

「初めてで、加減が分からなくてな。腕、落としちまった」

 バッサリ斬り落とされた右腕から血を落としながら、それでも笑いながら、左手で自分の血で汚れた脇差を構える蓮と、別な人物の笑顔が重なって、雅は呆然と見上げていた。

「あんまり、人死には見たくねえんだが。オレもこんなところで死ぬ気は、ねえんだ。言っとくが、手加減は出来ねえぞ。間違って利き手を斬っちまったから」

「き、貴様……」

 歯ぎしりしながら印を結ぼうとする男の一人に、音もなく近づいた蓮は、体ごとぶつかって一緒に倒れ込み、仰向けに倒れたその首に、躊躇いなく脇差を振り下ろした。

「よし、そこまでだ」

 呑気な声が、突然そこで響いた。

 同時に、体の呪縛が一気に解かれる。

 勢いよく身を起こした雅の目の先で、蓮が男に馬乗りになったまま動きを止めているのが見えた。

 その傍らに、見知らぬ人物がいる。

 その人物は、脇差を振り下ろそうとする蓮の左手首を掴んだまま、微動だにしない。

「……誰だ?」

 鋭く問う蓮に手首を掴んだままの人物は答えず、全く別な方向に向けて声を掛けた。

「おい、追いついたぞ」

 その呑気な声が呼びかけた先から、地響きを立てながら足音が近づいて来た。

 山を震わせるような足音が、野原の手前で止まり、息切れをしながら、辺りを見回す気配がある。

 振り返った雅は、その大きさに、思わず目を丸くした。

 この国では珍しい程、言ってみれば大木のように、大きな男だ。

 小さな子供なら、ひきつけを起こしそうな目で周囲を睨み、男は蓮に目を止めた。

「……お前、何て時に、追いついて来てんだよ……」

 その姿を認めてから、顔を引き攣らせていた蓮が空を仰いだとき、その若者に、大男が飛びかかった。

 その勢いに、若者の腕を掴んでいた人物が、思わず手を離して身を引き、雅も身を竦ませたが、蓮は素早く脇差を持ちかえて、その柄で大男の動きを止めた。

 くぐもった声で唸った大男が蹲るのを見下ろし、蓮は冷静に言った。

「所構わず、抱きつくなと言ってんだろうが。暑苦しい」

「だ、だってよう。今度は間に合わねえと思って……半ば諦めて……良かった、追いついたっっ」

 顔を上げて答える大男の目からは、滝のように涙が落ち続けている。

「お前なあ。よくこんなに早く追いつけたもんだな。どうしたんだ? 迷わなかったのか?」

 僧侶の上に胡坐をかいて、蓮は大男の顔を覗きこんだ。

 無邪気な仕草なのに、恐ろしく落ち着いた表情で、親子に見える二人だが、立場的には逆だと伺える風景だ。

「一応、方向は確かめて出たんだけどよ、この近くで迷っちまって。そしたら、その人が助けてくれたんだ」

 離れて立つ人物を見ながら答えた男は、そこで蓮の怪我に気づいた。

「お前っ。どうしたっ? 誰がやったんだっ? こいつらかっ」

 思わぬ成り行きに立ち尽くしていた、二人の修行僧を振り返って睨む男に、蓮はしっかりとした声で制止をかける。

「落ち着け。自分でやったんだ」

「自分でっ? お前まで、自分を大切にしねえ奴になっちまう気かっ? いくらあのご隠居が死んじまったからってだなあ……」

「うるせえっ。仕方ねえだろうがっ。骨砕くより斬る方が治り早いと思ったら、やり過ぎちまったんだよっ」

「やり過ぎちまったで済むかよっ。トカゲじゃねえんだぞっ。生えて来ねえんだぞっ」

 賑やかになった周囲に構わず、雅は立ち上がってまず戒の快方をし、次いで蓮が最初に倒れた辺りを探して、右手を拾い上げた。

 そして、身を竦ませている敵の二人を見る。

「そんなに怖がってたら、出来る術も、出来ないんじゃない?」

「出来ても、利かんと思うが」

 呑気な声が続けて言い、その声の主の二十代の若者が、手にしていた布袋を持ち上げた。

「これは、預かりものなんだが、掲げなくともこいつらにかけた呪縛を解けた代物だ。本気で使ったら、お前さんたちに勝ち目などないぞ」

「術に頼らず、まだ首を狙う気なら、受けて立つぜ。女子供を、三人がかりで手にかけようとする輩に、加減はいらねえよなあ」

 にやりとする蓮を見て、更に身を竦ませる僧侶たちには、もうその気はないらしい。

「その人、離してあげて」

 雅の頼みに黙って従い、蓮は立ち上がって、主格の僧侶を解放した。

「二度と近づかないで。次は、殺します」

 優しく笑いながら、雅は三人を見据え、きっぱりと言った。

 ほうほうの体で去って行く修行僧たちを見送ってから、雅は改めて蓮と、新参の二人を見て頭を下げた。

「危ない所を助けていただき、ありがとうございます」

「助けたのは、オレではないがな」

 自分より少し背丈のある若者は、小さく笑って二つの布袋を持ち上げた。

 それを見る目は、やけに印象が薄い。

「これは、ある奴が、京の細工師に直しの為に預けていた物と、細工師の知り合いに頼まれて、持って来た物なのだが、細工師の知り合いも、預けた奴も只者ではなくてな、思いの籠ったこれには、その力も宿ったのだろう」

 薄い色合いの目を、雅に向けた若者はのんびりと問いかけた。

「お前、寿ことほぎの娘だろう?」

「は、はい」

「なら、オレは、お前の父親の従弟にあたる。お前の父親の母親と、オレの母親が姉妹だったんだ」

「そう、なのですか」

「で、これを預けたのが、お前の父親の弟子で、久しぶりに訪ねたら、丁度いいとこれを持たされたんだ。使い走りと言う奴かね。ああ、オレは鏡月きょうげつと言う。知り合いはキョウだのカガミだの、好き勝手呼ぶが、どちらでも呼びやすいように呼べ」

「はい。私は、雅と申します」

「そうか。もう、名はあったのか。お前らは、妙なしきたりを作っているからな。まだ名を貰っていないとしたら、どう呼べばいいのかと思っていた」

「そうですか。ところで、キョウさん」

「何だ?」

 雅は、自分が手にしていた蓮の右手をもぎ取られ、鏡月がそれを振り回すさまを見ながら、言った。

「それ、渡してもらえませんか? 今ならまだ、くっつくかも……」

「無理だな。切り口が雑すぎる。妙な具合にくっついても難儀だぞ」

「仕方ねえよ。そういう風に切っちまったの、オレなんだから」

 左手を差し出す蓮は相変わらずだったが、流石に血が流れ過ぎて、顔から血の気が引いている。

 若者の方に顔を向け、鏡月は問いかけた。

「お前、蓮だな?」

「……」

 目を細めて答えない蓮に構わず、続ける。

「これは、お前の物だろう?」

 布袋を開き、その中から取り出した物を見て、雅が思わず声を上げたが、蓮の声がその声を上回った。

「あんたが、何でそれを……」

 思わず言った若者に、鏡月は静かに近づきその腕に触れた。

「あいつも大丈夫だったんだ。お前も、そのまま生やしてしまえ」

 にやりとしてそう言った若者の傍で、蓮の体が崩れるように倒れた。

「れ、蓮っ」

 蓮に縋る男を見下ろしながら、鏡月は冷たくなってきた右手を回して遊んでいる。

 雅も蓮に駆け寄って、ぐったりとしている体を抱き起して脈をとったが、思わず身を強張らせた。

 右手首の脈が、早い。

 その手を取ったまま、雅は立っている若者の手元を見上げた。

 そこに、相変わらず蓮の右手は握られていた。

「ね、熱が……どうしちまったんだ、蓮っ」

 泣き声が響く中、雅は思い当たって、鏡月に問いかけた。

「もしや、向こうの村の山の方、ですか?」

 その問いに少し目を丸くした若者は、苦笑いした。

「知っていたか。しかし、あそこまで話が伝わっていたとは、オレもあいつに訊くまで知らなかった」

「あいつとは、その石を届ける相手、ですね?」

 今度は、穴が開くほど見つめられた。

 が、何故かその気配が薄く感じられ、それが瞳孔までも色が薄いせいだと気づく。

 しばらくそうしてから、若者は自分の手元に目を向けた。

 その手には、夕べの話に出た、変わった形の金細工の首飾りが乗っていた。


 

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