第101話 バレンタイン

2月14日

バレンタイン言うなれば、男にとって戦いの日。

彼女から優はすでに勝ち組ではある。


朝起きてきたさやにいつもよりちょっと豪華な朝食を出す。

我ながら少し期待してしまってる。


そんな俺を気にすることもなくパクパクとご飯を食べる。きっと着替えてからだよな…うん。


「学校いこ遅れる」


なかなかくれないからじーっと待ってしまった。

もうそんな時間か。てかくれないの?いや学校でくれるのでは?


学校に着くも男子はだいたいソワソワしてる。

バレンタインの力ってすごいよな。


「おはよー!」


花音と優が来た。

同じ時間帯は久しぶりだな。


「なんの袋?」


優は手に比較的大きめなビニール袋を持っていた。


「うちの彼氏もてるから」


答えたのは花音だった。

そう言っておもむろに靴箱を開けるとチョコレートが溢れ出てくる。


まじか…


「周もかもよ?ミスターコン一位さん?」


優が出てれば一位ではないんだよな多分。


「んなことねーと思うけど」


なんだかんだもてはやされたのは文化祭の数週間で今じゃそうでもない。


それに期待っするとなかった時に悲しいじゃん。


男としてのほんのわずかな期待と共に靴箱を開ける。


「…ほらないでしょ?」


泣きそう…俺ミスターコン1位だぞ?

もう、過去の栄光なのか…


「あーなかったかー」


やっぱ虚しくなった。


優は、中に入ってたチョコをゴソゴソ掻き出している。

周りの男子からすごい睨まれている。


そこまで量あるとあんまり羨ましくもないなぁ。


「はやくいこー」


優にさっさと回収させる。


「えっと、高坂先輩!」


後輩?えっと誰?

3人も知らないっぽいし。


「これ!どうぞ!」


チョコが入ってるであろう可愛らしい箱を差し出してくる。


「さや?」


念のために確認。


「ん」


どうやら良いらしい。


「ありがと」


受け取ると女の子は顔を赤くして友達らしき子の元へ走って行った。


いやーもらえたわ。


ん?君らそのジト目は何?


「いやーあの笑顔ないわー」


「ん。ないわー」


えぇ。


「やっぱ周は隠れファンがいるのでは?」


花音がまた妙な推理をする。


結局教室に着くまでにチョコが5個に増えた。


優が隣にいるせいか少なく見えるけど5個ももらえれば十分すぎる。


「それにしても5個とも後輩とは秋もやるねぇー」


花音が煽りながら突いてくる。


「いや、知らねーよ」


教室に着くとまたゆうは回収作業を始めた。

なるほど机にも詰まってるのか。


「てか、なんで優には直接渡してこないんだ?」


「あ?それはアイツがいるからなぁ」


そう言って花音の方を見る。

俺もつられてみると気づいたのかこっちにニコッと笑ってくる。


あー納得。

いつも一緒にいるし怖いもんな。


「その点さやは怖くな…くもないか。うん」


あとから来そうでも怖いな。


「花音からもうもらった?」


「ん?まだ今日成瀬と一緒に作るとか言ってた」


あ、なるごど…ホッとした。


「あ、もしかして成瀬にもらえなくて泣きそうだった?」


「いや、泣きはしねーよ」


毎時間休み時間に2〜3人チョコを渡しにくる。


「いやー周モテモテだねー」


花音は楽しそうに笑っている。


「うるせー」


ホワイトデーに破産するんだけど。


「だってほとんど後輩でしょ?うちの学年の何個?」



「5個ですけど」


「そんなにあってたったの5個アハハハ」


いや、十分だから。てか本当にホワイトデーどうしよ。


「袋いるか?」


優がビニール袋を差し出してくる。


「いただきます」


そしてさっきからまわりの男子の目線が痛い。


昼休みになると花音がみんなにクッキーを配り始めた。


曰く手作りらしい。

配る用にしては手間がかかっている。


「俺ももらってこよ」


「んじゃ、俺も」


優も貰いにいくのか。


「やめろって言ったのになぁ」


まあ、確かに他の男子からの株は爆あがりだろう。


他の男子に嫉妬するなんて可愛いやつだ。


「義理だし良いんじゃない?」


「じゃあ、考えてみろ。成瀬が笑顔でバレンタインにクッキー配ってる姿を!それを受け取った男子はどう思うと思う?」


「…殺す」


「つまりはそーゆーこと」


なるほど、完全に理解した。


「2人して教室のど真ん中で何してるの?」


「「お前のせい」」


「えーなんでよ」


本人は悪気はないらしい。まあそうだろうけど。


「そーだ。俺にもくれよ。そのクッキー」


袋に入ったクッキーを指す。


「周には別にあるよ。はい」


「お、おう。ありがと」


あー優に後ろから睨まれてる気がするー


せっかくだから一個食べる。


ふむ。うまいな。


「惚れ薬入りだよ?」


「…残念。すでに他の女子に惚れてるんだわ」


「デスヨネー」


つまんなそうに口を尖らせる。


「んじゃ、次俺」


さっきからタイミングを伺っていた優が出てくる。


「優はあーげない」


花音は悪戯にニヤッと笑う。


「えー」


なんかちょっとかわいそう。


学校が終わり終わりさやと花音は出かけるらしいので俺と優で帰る。


「これ全部食べんの?」


正直、そんなにチョコ好きじゃないんだけど…


「一応忠告。売り物は食べても良いけど手作りは何入ってるかわかんないからな」


優は遠い目をしていた。


過去に何があったかわからないが、聞けなかった。

その目が顔がなかなかひどいことがあったことを物語っている。


「そんじゃ俺はこっちだから」


「じゃーな」


優と別れて、家に帰るとさっき言われた通り既製品と手作りを分ける。

知り合いでない人からもらったもの。


くれた人には悪いけど、全部食べるのはきついし知らない人ばっかだから正直ちょっと怖い。


知ってる人なら全然良いんだけどね。


こうして見るとほとんど既製品、相手側もわかってるのかな。


そして問題がもう一つ。

俺があんまりチョコ好きじゃない。

嫌いなわけではないが大量に食べたいほどじゃないし。柔らかいのとかまじ無理。


歯がゾクゾクってなる。


とりあえず、チョコは全部冷凍庫にドーン。

こうすると俺の食べやすいタイプになる。


クッキー系にしてくれた人にはまじ感謝。


パク


うん。うまいうまい。


コーヒー…や、紅茶にしよう。

一回食べ始めると止まらなくなるな。さすがお菓子。


すでに6時すぎ…


うん。夕食入らない。


どーするかなー軽くうどんとかにしよーかな。


というか、さやさん。まだぁ?


そろそろ、俺我慢の限界なんですけど。

玄関を開けて左右を見る。


「いない」


やっぱいないですよねー。はぁ…


スマホを見ても何にも連絡は来てない。


ゴソ。


ん?


もう一度外を見るとさやがとぼとぼ帰ってきた。


「おかえり」


「ん。ただいま」


どーしたんだろ。随分とテンションが低い。

家にあがり荷物を置くと抱きついてきた。


「どーしたの?」


「失敗した」


失敗?


「何が?」


「チョコ作れなかった」


あーなるほど、それでこんなにテンション低いのか。


「別に良いよ。気持ちだけで十分伝わったから」


今にも泣きそうなさやの頭を撫でる。


「花音も?」


「ん。でも失敗したの優にあげればいっかって言ってた」


おぉー怖い。さやでよかった。


「ちなみに何を失敗したの?」


「砂糖と塩間違えた」


また王道な。


「なんか真っ黒になった」


…なんでだよ。


「そっか」


優。頑張って生きろ。


時間のことも考えて何回も失敗したのかな。


「これ」


さやがブレザーのポッケから板チョコを一枚とりだした。


「ありがと」


せっかくだし食べよっと。


立ったまま疲れるので、ソファに座る。


板チョコってパキパキだから、チョコの中でも好きな部類。


「一列ちょーだい」


さっきから俺が食べてるのをじーっと見てたさやが手を伸ばす。


「はい」


一列分割ってさやに渡す。


「ん」


チョコの端っこをパクッと加えてこっちを向いてくる。

えっとポッキーゲーム的な?

なんかちょっと照れくさい。


パクパクパクと食べて進んでいく。


あと少しのところで割ろうとすると最後の一つ分をさやの食べそのまま口をつける。食べた分をそのまま俺の口の中に流し込んでくる。


さやの口の中で溶けて唾液と混ざりあったチョコレートが無理やり捻じ込んできたさやの舌を伝って俺の口の中に広がっていく。


ング!?


「…どう?」


顔を赤くして聞いてくる。


ふむ。溶けたチョコも存外悪くないかもしれない。



「今まで食べた中で最高な味だったよ」

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