第98話 自己中

ーside花音ー


キーコーキーコー


ブランコに揺られながらまた考える。


どうしてこうなったのかと。


優に怒った。

どうして他の子を見るのか

どうして花音を見てくれないのか

だから全て言ってやった。


怒りを吐き出した。


これでスッキリすると思っていた。


でも、実際はそうではなかった。

心は苦しくて吐き出した言葉は自分の心を締め付けた。


自分勝手だった。


今までと同じみんなに好かれた優でいて欲しいだから縛らない。そう決めて今まで過ごしてきた。


だから他の子と遊ぼうと自分の独占欲に蓋をして見て見ぬ振りをしていた。

それでも言って欲しかった。女子と遊ぶなら尚更。


一度ついてしまった火は一気に大きくなって結果。優に怒った。でも、大きくなった火はすぐに消える。せめてずっと燃えていてくれれば辛くもなかった。現実はそうはいかない。怒った後1人になると火はすぐに消えた。



次の日。焦った様子のお母さんに起こされた。


「早く起きて!学校もうやばいよ!優くんこないなら言ってよ!」


忘れてた。そっか、来ないよね。


久しぶりに1人で学校に向かった。

学校についてHR中の教室に入る。

優の顔にはモヤがかかったように見れなかった。


お昼優が声をかけてきた。

でも無視した。答えられなかった。

自分の矛盾点を指摘されたらどうすれば良いかわからなかった。


ますます心は締め付けられた。

みんなに悟られないように笑顔を作り続けて学校から帰った。


作り笑顔をしていたせいか表情筋が疲れた。


何もする気が起きない。

まるで体の一部がなくなったかのように…

喪失感に襲われた。


その日から優は何も接して来なくなった。


…痛い。


優がいないこと。どれだけ今まで優が…優に助けられていたのかを実感した。


完全に生活の溶け込んでいて気づかなかった。

毎日が楽しくない。たった1人がいないだけで


優とさやが、仲直りをする機会をくれたのに。

ダメだった。優の顔すら直視できない。


どんどん優との距離が離れていく気がした。


毎晩泣いた。どんどん薄れていく優の感覚。

甘えたい、頭撫でて欲しい。話すだけでも良い。

そんな欲望が溢れてくる。



「もう無理」


限界。作り笑顔をしすぎたせいか顔が痛い。心が痛い。


「優ぅ」


「ねえ、君」


男の声が聞こえた。


「ゆ…ぅ」


違った。3、4人の男の人が前を囲うようにニヤニヤしながら立っていた。


「誰?」


「君が泣いてるから俺らが慰めてあげようと思ってね」


目の前に立っている20歳くらいの男の人がニタァと笑っていってくる。


「泣いてない。彼氏いるから」


溜まっていた涙を拭き取ってブランコから立ち上がる。


「ひどい彼氏だね。彼女が泣いてるのにほっとくなんて…もしかして喧嘩でもした?」


…いやらしい目で見てくる。最悪…

嫌なところを的確に突いてくる。


「ね?だから俺らと遊ぼ?」


「無理、帰るからどいて」


左右にいた男に腕を掴まれる。


…吐き気がする。


「まあ、ここでもいっか。ホテルの方がいい?」


結局それ目的。


「離して」


「そんな強気でいて良いの?今から何するかわかってる?」


「くる」


「はぁ?何がだよ」


絶対くる。優は来てくれる。

そうじゃないと…

今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えて願う。


「誰も来ねーよ」


「ミーツーケーター」


え?誰?


まるで人間ではないかのような不気味な声が聞こえた。



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