第86話 病人
んーちょっと熱っぽいかもしれない。
朝目が覚めても頭の回転が遅い。
自分でおでこを触ってみるといつもより熱い気がする。
今日中には、家に帰りたい。
と、いうわけで
「帰るよ」
「もう?」
「そ」
重症化する前に家に帰りたいので、朝ごはんを食べてからすぐ帰ることにした。
「あら、もう帰るの?」
「ああ」
「ふーん」
何かを察したように、母さんはお皿洗いに戻った。
これは、見透かされてるな。
「準備できた」
さやが荷物をまとめて来た。
「帰ろっか」
「ん」
バイクに荷物を入れてバイクにまたがる。
「いつでもきなさい」
「ああ」
「さやちゃんもね」
「ん。ありがとうございます」
別れの挨拶をして、バイクを出す。
バイクをしばらく走らせて、ぼーっとする頭を全力で回転させてなんとか家まで辿りついた。
「へぇ。ついた」
「ん。ありがと」
そう言って後ろから降りた。
バイクから荷物を下ろして、家に向かう。
「荷物持つ」
「ん?」
「体調悪いでしょ?」
あれ、バレてたかな。
「喋り方変」
「あー頼む」
今回は、さやに甘えることにする。
「ん。任せて」
「悪りぃ」
あーそろそろまずい。家についた、安心感で一気に体が重くなってきた。
家について、ベットに倒れ込む。
「荷物そこらへん置いておいて」
「ん」
荷物を置くと部屋を出て行ってくれた。
「さすがに着替えるか」
今まで来ていた服を脱ぎ捨てて寝巻きに着替える。
「大丈夫?」
マスクをして入ってきた。
「ああ、少し寝るよ」
「ん」
布団の中にある俺の手を握ってくる。
「別に死なねーからな?」
「ん」
さやの手を握り返して、意識を手放した。
ーsideさやー
布団の中から見つけ出したさやの手はとても冷たかった。
「別に死なねーからな?」
ん。わかってる。けど、けど心配だから。
「ん」
周は、私の手をしっかりと握り返してくると、目を閉じた。
しばらく、ベットに座って周の手を握っている。
「あ」
周からの握りがなくなって手が落ちた。
一度、部屋を出て冷蔵庫から冷えピタシートを持ってくる。
周の額に貼り付ける。
「…入りたい」
周のベットに入りたい。そんな欲求を頑張って抑え込む。
「んーんー」
周を目の前にして、何もできないのが悔しい。
「…ああ」
すると、周が少しうなされ始めた。
「大丈夫?」
そう声をかけるも寝ている周から答えは帰ってこない。
冷たい周の手を取ると、周がギュッと握り返してきた。
「大丈夫だよ」
「…うぅ」
周のうなされている中ずっとそばについてる。
「大丈夫。一緒にいるよ」
周の手を握っていると少しうなりがおさまった。
周の握ってくる力が弱まった。
今度は、落とさないように握り続ける。
「…おはよ」
「おはよ」
周が目を覚ました。
「体どう?」
「だるい感じ」
うなされていたせいか汗かいてる。
「なんか欲しいものある?」
「これの替えと飲み物、あとタオル頼めるか?」
おでこに貼っていた冷えピタシートを剥がしてピラピラする。
「ん」
部屋を出ると、新しい冷えピタを冷蔵庫から取り出し、タオルを水を入れた洗面器に入れ水のペットボトルを持って部屋に戻る。
周にタオルを渡す。
「ありがと」
「ん」
少し空気がこもっていたので、窓を開けて空気を入れ替える。
「寒くない?」
「ああ、暑かったとこ」
振り返ると、上に来ていた寝間着を脱いで周が体を拭いていた。
「拭いてあげる」
「いや、自分でできるんだけど」
さっきまでうなされていた周の顔はとても気持ち悪そうだった。
「やる」
周の手からタオルを奪い取る。
周の背中からしっかりと水で湿らせたタオルで拭いていく。
「えっと、前は自分でやるよ?」
「病人は安静に」
周の申し出を断り胸とお腹、腕を拭いていく。
「ありがとな」
「ん。お腹減ってない?」
「あーちょっと食べたい」
「ん、おかゆ作る」
「できっか?」
心配そうにこっちをみてくる。
私だって成長してる。
「大丈夫」
「ゆっくりでいいよ」
「ん」
部屋を出る手前ちらっと周の方を見るとベットに倒れ込んでいた。
やっぱり、まだ体調良くないのかな。
別に強がらなくてもいいのに…
「えっと、お米お米」
スマホで作り方を調べる。
えっと、おかゆおかゆと。
一人前のお鍋を用意して、お米を入れて、お水をたっぷり入れてぐつぐつ。
ちょっと混ぜてと。
沸いたら弱火にして、ちょっと開けて蓋をする。
こんな感じかな?
煮込み終わったのでお塩を入れる。
「えっと、こっちがお塩で、こっちがお砂糖。今回は?」
スマホでしっかりとチェックする。
お塩とお砂糖を間違えると大変なことになる。
「お塩をふたつまみ?ふたつまみ?まあいっか」
指で適当に取って入れる。
混ぜたら完成!
「できた」
味見をしてみる。
「んーんー味ない」
おかゆってあんまり美味しくない。
梅干しを乗せてあげるのか…
梅干しの入った小さいツボから一粒。あと、しそもちょこっと載せる。
「んーすっぱい」
匂いだけでも唾液がいっぱい出てくる。
お鍋は熱いからちゃんと火傷しないようにしてお皿に乗せる。
「よし!」
スプーンと共に周の部屋に持っていく。
「おかゆできた」
「お、ありがと」
少しは、寝れたのかさっきよりも顔に生気が戻ってる。
「いや、自分で食べれるからな?」
スプーンでおかゆをすくってると周がそういってきた。
「…ん」
辛そうだし。無理強いは良くない。
小さなテーブルをベットの上に置いて、そこにおかゆを置く。
「いただきます」
「ん。召し上がれ」
どうかな。美味しいって言ってくれるかな。
「お…うまいな。ちょうどいい塩加減。やるじゃん」
そう言って頭を撫でてくれる。
えへへ。頑張ったもん。
おかゆを食べると、周はずっと元気になった。
「そんじゃ、もう一眠りして、完全に直しちゃおうかね」
「ん。がんば」
「おうよ」
お皿を片付けにリビングに戻る。
洗い終わり、周の部屋をそっと覗くとすでに周は寝ていた。
うなされる様子もなく静かに眠っている。
ベットに体を預けて、周が起きるのを待つことにした。
「…んー眠い」
すでに、夜もふけはじめて眠気が襲ってくる。
「んにゅぅ…」
結局眠気には勝てなかった。
頑張って耐えてたのに、頭をそっと撫でる温かい手のせいで負けてしまった。
「また、一つ貸しができちゃったな」
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