第38話 亀裂

ピンポーン


学校二日目。さやを起こしに向かおうとしたところ

自分から起きてきた。


「起きれたじゃん」


「周と一緒に行けるから」


なんだそれ


「朝食できてるから食べちゃって」


すでに俺は食べ終わっているのでさやの跳ねた寝癖を直しにかかる。


学校へ行く準備も終わり、さやを連れて家を出る。


「周と行くの初めて」


「まあ、そーだな」


いつもさやと出かけるときはメガネ外してるし髪もいじってるしね

今日は何もしてない


「なんか緊張してくるな」


いつもはそんなに、気にならないけど

さっきからうちの生徒からの視線が痛いこと痛いこと


うぅ…


学校に近づくにつれてどんどんその数は増えていく。

これ毎日って結構マジスカ?


「もう、割り切ってメガネ外したらマシになるかね?」


「だめ」


速攻さやにstopをかけられた。


「なんで?」


「周がかっこいいのバレるとまずい」


何がまずいんだよ。あれか?目つき悪くなるからか?

逆に嫌われそうだな。やめとこ…


教室に入ると、みんなから視線を感じる。

不思議とそこに憎しみとか妬みの視線は飛んでこなかった。


それもそーか、俺じゃ、さやには釣り合わないもんね。グスン…


「あ、あの成瀬さん。今日の放課後、校舎裏で待ってます!」


なるほど、今日のメインイベントはこれだったか。


「ん。わかった」


さやは、すぐに返事をした。


「もしかしたら高坂の役目は今日までかもなー」


クラスの誰かが言った。


まあ、本当に成功して付き合うってなったらそーなるな。


相手は、学年でも有名なイケメン、優男、運動勉強ともに優秀。


…あれ?まじで成功してもおかしくなくね?

いや、さやが幸せになってくれるなら本望だろ。


なのに…なんか引っかかる。心が苦しい


「どーしたんだよ、そんなに暗い顔しちゃって」


いつも通りの明るい雰囲気で俺の元に優がくる。


「成功すると思うか?」


「もしかして、不安なのか?」


ニヤリと笑ってこっちを見てくる。


「…ちげーよ。ただお前はどう思うか気になっただけだよ」


「ふーん。まあいいや、俺は失敗すると思うぞ」


結局今日一日ろくに授業に集中もできずに終わりを迎えた。


家に帰るも落ち着けなかった。何をしてればいいのかわからない。


「あれ?俺いつも家帰った後何してたっけ?」


こういう時普通がどんなんだったかがわからなくなる。


「もし中島のやつ成功したらさやはもううちには来なくなるのか」


ついついマイナスなことを考えてしまう。


もともといなかったんだし元の生活に戻るだけじゃん。

なんも問題ないだろ。


自分にそう言い聞かせた。


その日、さやはうちにこなかった。


花音とご飯食べると連絡をしてきて、そのまま


複雑な感情の中1人静寂に包まれながら食べる夕飯は味がしなかった。





朝起きて気持ちを切り替えていく。

きっと昨日は疲れてただけだ

そう自分に言い聞かせる。


朝食を食べてさやを起こしに向かう。


「学校行くぞー」


チャイムを鳴らして言う。


珍しくちゃんと準備しているさやが少し気まずそうに俯いて言った。


「今日は…大丈夫」


え?


「あれ?高坂?」


昨日さやに告白すると言っていた。坂本がそこにはいた。


「え?なんで?」


「今日は俺が一緒に行くの。ごめんね、先連絡しとけばよかったよ」


少し照れくさそうに坂本が説明してる。


「告白受けたのか?」


さやに聞く


「いや、失敗したよ」


答えたのは坂本だった。


「だったらなんで?」


「成瀬さんが俺のことあんま知らないだろうから、もっと知ってもらおうと思ってね」


胸に激痛が走った気がした。


「そ、そっか。じゃあ、俺は先行くよ」


2人に背を向ける。

息がうまくできない。うわ、絶対今ひどい顔してるわ。俺


教室に入ると優が俺の元へきた。


「おはー。あれ?成瀬は?」


「坂本と来るってよ」


「え?」


優が驚いた顔をしている。


「あいつ成功したのか?」「いや、さすがに」「でも、あいつなら」


クラスがざわめき始める


坂本とさやが教室に入ってきた。


俺は見向きもせずに自分の席へと向かう。


「お前成功したのか!?」


「いや」……


席に座り腕を枕にして突っ伏す

なんだろう。初めての感覚だ。

イライラ?痛い?わからねぇ


「大丈夫か?」


優が前の席に座って声をかけてくる。


「大丈夫だよ」


「そうは見えないんだよなぁ」


さっきから苦しくて仕方ない


授業をなんとか乗り越え1日を終えた。


家へと着いても何もやる気が出ない。

ベットに倒れ込みスマホで動画を見て気を紛らわせる。

夕飯は食べにくると連絡が来ていたので2人分を作り始める。

今日はオムライス。余った卵を消費したかったのだ。


ちょうどご飯ができた頃


「ただいま」


さやが家に帰ってきた。


「おかえり」


一言かけて夕飯の準備を再開する。


「…手伝うことある?」


「大丈夫。椅子座ってて」


会話がぎこちない


夕飯を用意し終える


「「いただきます」」


お互い無言で夕飯を食べきるとさやは、そそくさと帰っていった。


喪失感、大切な何かが体の一部がなくなってしまった

かのような感覚に襲われる。



足下にぽたっと何かが落ちた。


涙がこぼれ落ちた。


あれ?なんで俺泣いてんだろ


止めようとするも、際限なく涙は溢れ出てくる。


なんで!?


ーsideさやー


朝起きる。昨日のことを思い出すと気が重くなってくる。


放課後体育館裏に行くと坂本君がいた。

坂本君は学年でも有名な人で女子の間でも人気が高い。


「成瀬さん!好きです!付き合ってください!!」


いきなり告白された。わかってはいたけどびっくりした。


「ありがと、でもごめんなさい。坂本君のこと知らないし」


丁重に断る。


「じゃあ、俺のことを知ってくれ!」


このまま終わるかと思ったら、そんなことを言われた。


「知る?」


「そう!明日朝迎えに行くから一緒にいこ」


その後も色々言われて勢いに負けて承諾してしまった。


ピンポーン 


チャイムがなった

相手が相手なので今日はしっかりと身支度をした。

自分でやるのは慣れてないせいか結構時間がかかってしまった。


ドアを開けると周だった。


「今日は大丈夫」


周の質問に答えているとばったり坂本君がきてしまった。


「じゃあ、成瀬さんいこっか」


「ん」


坂本君と一緒に学校へと向かう。

学校へ向かうまで坂本君はいろんな話を私にしてくれた。

部活のこと、兄弟のこと。でもそれらは頭に入ってこない。

ずっと前を歩く周の背中を見入ってしまう。


なんだかもどかしい。


「成瀬さん?」


坂本君に声をかけられて我に帰る。


「えーっと。どうしたの?」


「話聞いてよー」


「ご、ごめん」


学校についてからも周と話せなかった。


昼休み中のいい女子で固まってご飯を食べていると周の話になった。


「最近うち気付いたんだけどさ。高坂君って隠れイケメンじゃない?」


ゴホッゴホッ


「わかるかも、性格いいしめっちゃ優男だよね」


今までこうして話していて初めて周の名前が出てきた。


「そーなんだよー。前、日直でノート運んでたら手伝ってくれてしかも、その後も仕事手伝ってくれてさー。かっこいいなぁって」


少し顔が赤くなっている。


「えーもしかして狙ってんのー?だから話しかけに行ってたのかー!」


「ち、違うよぉ」


そんな他愛のない話が胸が痛む。


「成瀬ちゃんって家近いんでしょ?学校外の時の高坂ってどんな感じ?」


「やさしい」


そう周はやさしい。その優しさにいつも甘えてしまう。


「「やっぱりー!」」


すんごい盛り上がってる。

だけど、なんだろう苦しい。


「好きな人とかいるのかなー?」


それは私も気になるかも


「いるよー」


私の後ろから花音が抱きついてきた。


「だ、だれ?」


「うちも気になるー!」


思わず食い気味に聞いてしまった。


「それは秘密〜」


教えてくれなかった



周好きな人いるんだ



なんだか少し寂しい。もしかしたら毎日私が家にいるのは邪魔なのかもしれない。

そう考えているとますます気分が落ち込んでしまう。


夕飯を食べに周の家に行くも、学校でのこともありすぐに自分の家に帰ってきてしまった。


なんだろう。今まであんなに楽しかったのに昨日から急に生活が変わってしまった。周がどんどん遠くなっていく気がした。



ふと鏡を見ると頬に一筋の涙が流れた。


「あぅ…」


枷が外れたように涙が溢れ出てくる。


止まってよぉ




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