第34話 甘えん坊

雫さんが俺を押し倒した状態で首筋を噛みにくる。


ちょ。やばい


雫さんの右肩を押してそのまま転がって俺が上に回る。

目が元に戻る。


「はぁ、助かった」


「あはは、ごめんね。久々でテンション上がっちゃって。えへへ。あたしの首筋嚙んでみる?」


雫さんが唇に人差し指を当てて煽ってくる。


なるほどこれは誘惑度高い。


「んーん」


ソファの方から声が聞こえた。

さや起きたのかな?



ここで現在の状況を思い出してほしい。

現在、雫さんからの吸血を回避するため。俺が押し倒したみたいな態勢になってる。


「む。なんにしてんの」


まあ、そうなるよね。


「え、えーとですね。雫さんが俺の血吸おうとして回避しようとしたらこうなった」


「むー吸われた?」


さやの声が怖い。


「吸われてないです」


「ん。よかった」


そんなに怒ってなさそう。


「ごめんねさやちゃん」


「ん。いい。今回は、私が寝てたから仕方ない」


案外怒ってないっぽい。


「だから。ね?ちょっとだk「ダメ」あ、はい」


そうでもないや。


「まあ落ち着いてね」


さやを俺の間に座らせると少し機嫌悪そうに胸に頭をグリグリしてくる。


はいはいいーこいーこ。


「ちぇーずるいなー」


雫さんが指を加えてみてる。

なんか気まずいよ?


「えっと、夕飯食べよ?」


「ん。食べる」


まだ体がフラフラするものの耐えられなくはない。


「出前なんか取ろうか」


流石にこれからご飯作る気力も出ない。


「私ご飯なら買ってきたよーこーなると思ってね」


雫さんはごはんも買ってきてくれたらしい。


「なに買ってきたんですか?」


「カップラーメン」


不健康。さやのカロリーが心配だな…


まあ、仕方なし。


沸騰させたお湯を入れて3分まつ。


たまに食べるカップラーメンが美味しいんだよな。

毎日とかはきつい。


「はい、さやの」


「ん。ありがと」


冷房を強めに設定し直す。


「んーこの背徳感たまんないよねー」


わかる。体に悪いのが美味しすぎる。


「ん。美味しい」


こやつ、完全にカロリーのこと忘れてるな。

いいんだけどね。今日は色々あったし気にされても困る。


まだ、完全に調子が戻ったとは言えないけどだいぶマシになってる。

今も笑顔でラーメンをすすってる。


このままでいるても仕方ないのでさやにはさっさとお風呂に入って寝てもらうことにした。


「一緒にお風呂入ろ」


ん?


「なんでだよ」


「近くにいて」


うん。なるほど?


「お風呂の前にいるよ」


「ん」


案外すんなりおれた。本当に近くにいればそれでいいらしい。


「じゃあ、私と入ろ!」


雫さんとさやは一緒にお風呂に入っていった。

あと、なんでうちのお風呂…


現在俺は、洗面所のドアの前に座っている。

さや、に近くにいろと言われたので。


中からはキャッキャウフフと声が聞こえてくる。

あぁ、雫さんがさやで遊んでるんだろうなぁ。

意識するとまずいことになりそうだったので、スマホをいじって気を紛らわす。


「そう言えば、最近仕事引き受けてないな」


依頼は来てるけど実家に帰ったりなんだりで断っていた。


「そろそろやんなきゃな」


別にお金には困ってないけど一回辞めちゃうとやらなくなるからな。

受ける依頼を選別していると2人が上がってきた。

ま、続きはまた今度かな。なるべくはやめにね。


「ぷはー!風呂上りは、牛乳だねー!」


雫さんは腰に手を当てて、コップに入った牛乳を一気に飲み干した。


「髪やって?」


いつものようにさやからドライヤーを渡される。


「ああ、もちろん」


何気に日々の楽しみの一つになりつつあるのだ。

好きな人の好きな髪をいじりまくれる。天国ですか?


「はい。乾いた」


楽しい時間はあっという間におわってしまう。


「ん。ありがと。サラサラ」


いつものように乾いた髪の感触を確認している。


「そんじゃ、さっさと家帰って寝ちゃえよ。俺は風呂入るから」


そう伝えて、お風呂に向かう。



お風呂から上がるとリビングには2人の姿はなかった。


今日は素直に帰ったか、俺もさっさと寝ようかな。


リビングの電気を消して部屋に戻るとベットの上でさやが足をバタバタさせながらスマホをいじっている。


「家帰るって言ってなかった?」


「周に言われたように雫さんが帰った」


2人に言ったつもりなんだけどな。


「なんで、残ったの?」


「雫さん寝相悪いから一緒に寝たくない」


うーん。否定できない。

あの人めっちゃ寝相悪そうだもん。


「それに今日は色々あったから…」


それ言われたらなんも言えないんですけどー。


「えっと俺がソファってのは?」


「ダメ」


ですよねー。わかってるよ、わかってるけど。聞いておかないといけないじゃん。

俺ら付き合ってるわけでもないし。


「さっさと寝るぞ。俺は眠い」


「ん。私も眠い」


ベットに横になる。実家に帰ってた時は一緒に寝ていたとは言え布団は二つあったが、ベットだと密着感がすごい。


いつもとは違いさやは、俺に背を向けて背中を俺の体に密着させてくる。


「右手かして」


右腕はさやの肩を通ってさやと手を繋いでいる。

手には、さやの吐息がたまに当たる。

まずい。


手を繋いでることじゃない。

さっきまで俺の体の側面だけさやに触れてる状態だった

それが今回は次元が違う。


現状を超簡単に説明すれば、俺がさやをバックハグしてる状態

全身、密着してる。

髪からはいい匂いがするし、華奢なさやの体のラインが直に感じられる。

思いっきり抱きしめたい欲求にかられる。


電気を消したはいいものの。


寝れない。


緊張感がやばい。


「周。起きてる?」


「どした?さっきから心臓がバクバクして寝れない。この態勢やめよっか」


「やだ、こっちはすんごい落ち着く」


そいいつつさやからも心臓の鼓動が聞こえる。


たしかにさやはあったかくて、俺も落ち着く。

それは間違いないのだが、問題はそこではない。

落ち着きを緊張が大きく上回っている。


「周はやだ?」


「いやじゃないよ、俺も落ち着くし。でも緊張がやばいんだよ」


さやの笑い声が聞こえる。お互い様だろうに。


それでもしばらくしているとまぶたは重くなってきた。

ちょうどいい大きさの抱き枕をしっかり抱きしめて眠りに落ちていく。


あったかい。

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