第33話 化物

「周、お母さんのお墓参り行こ」


「おう、そうだな」


以前から今日行くことを約束していたので出かける準備はできている。


「行くか」


今日のさやは、前実家で着ていた。白の半袖Tシャツに黒のロングスカート。

Tシャツはスカートの中に入れていて。スタイルの良さが目に見えてわかる。


「ん」


さやのお母さんはクリスチャンらしく、キリスト教の霊園に向かう。

知らなかったが、結構近くにあるらしい。


霊園にはバスで向かう。


暑いからね。


バスに乗って10分くらいでついた。

うちは名前だけだけど仏教だしキリスト教のお墓にくるのは初めて。


全てのお墓の大きさが統一されている。

ここのお墓は石の大きさでマウント取られないで良さそう。


そこそこ広い割に人は、あまりいない。


お盆ピークは過ぎたからかな。


買ってきたカーネションの花束を持って向かう。


さやがお墓に花束を置く。


あれ、こっからなにすればいいんだろう?

綺麗に整備されていて特に綺麗にする部分もない。


手は合わせる?合わせない?


「この人が高坂周、いつもお世話になってる」


さやがお墓に話しかける。


「え、えっと。高坂周です」


お墓に自己紹介するのは初めてだ。


しばらく無言でお墓を眺めるさやの顔は、少し寂しそうだった。


「ん。そろそろ帰る」


「りょーかい」


さやの手をとり。入ってきた方へと歩き出す。


あまり人のいないこのお墓に1人の男が入ってきた。

シルクハットを深くかぶっていて影で顔は見えない。

夏の暑い日にもかかわらず、コートを着ている。


うわ、怪しい。


その男を通り過ぎる瞬間…



『まだ生きてたのか、化け物め』




小さい声でそれでいてしっかりと聞き取れる大きさでその言葉を放った。

手を繋いでいた左手からさやの手がスッと落ちた。


振り向こうとするとさやに止められる。


「いい…はやく帰ろ」


震えながら呟いた。


目には涙が溜まっている。


「ああ、帰ろう」


震えるさやの手をとって握りしめる。


「…ん」


家に帰るまで、さやは無言で手を握ってきた。


「ただいま」


「…ただいま」


さて


「大丈夫?」


ソファに座って隣に座るさやに聞く。


無言で俺の膝に倒れ込む。


うん。ダメそう


顔も見せてくれない、さやの頭を撫でる。


「大丈夫だよ。さやのことは俺が守るから」


「ん」


やっと喋ってくれた。


「やっほぉおお!」


雰囲気をぶち壊しながら雫さんが入ってきた。


「あれー?イチャイチャタイムだったかな?」


しんみりしていた空間に太陽が入り込んできた。


「雫さん…静かにしてもらっていいですか?」


ちょっと怒気が言葉に乗ってしまった。


「ん?なんか、しんみりしてるけどどうしたの?」


やっと気づいたか、


「カクカクシカジカ」


「カクカクシカジカだったのか…そっか刑務所もう出てたの」


忘れてたの?


「一切関わらない決まりだったのに…」


そんな約束してたのか。


「それで今こうなってます」


さやはソファで横になってる。


「なるほどね。さや大丈夫?」


「…」


「大丈夫じゃなさそうね」


「しばらく好きなようにさせてあげて」


「了解です」


「とりあえず、あたしは帰るわね」


来て早々雫さんは出て行った。


「うー周ぅー」


「お?どーしたー?」


「血ぃー」


起きて早々それか。まあいいけど。


「いいよ」


「いっぱい吸っちゃうよ?」


「今日は特別。俺が貧血で倒れないレベルで頼む」


「んーわかんない」


ふ、不安だ。


かぷッ


おう深い。


チューー


血抜かれんのも慣れてきたなー


ぬーかーれーてーるーー


ぷはぁ


「ん。美味しい」


唇に流れた血を舌で舐めとる。


うわ、エッチぃ。


視界がぼやけて、体に力が入らない。


「えっと、満足できた?」


「ん。美味しい。大好き」


そのまま抱きついてくる。

・・・ん?今大好きって言っ「ただいまぁ!」


雫さんが元気よく帰ってきた。


「お、やっぱもう元気になってたかー」


さやはいい顔して寝てしまっている。


「ぐったりした君のためにこれとこれを買ってきたよ!」


この状況をさっしていたかのように雫さんが買ってきた。


右手には、鉄の数秒チャージ左手にはレバーの串焼き。


血がないときの必需品。数秒チャージはなんだかんだストックしてある。

最近血が足りなくて…


「あとこれもいるかな?」


箱?0.01?おぅ。


「いらないです」


父さんも雫さんもなんなんだ?おかげで個別で十何個。箱で2、3箱溜まってる。


「いらないのー?もらっときなよー」


無理やり押し付けられる。


とりあえず、そこら辺においておく。


ソファから立ち上がると、体がふらつく。


「おっと」


「大丈夫?」


雫さんが体を支えてくれる。


あー雫さんの胸が当たっている。やばい。


「ちょっと周くん?」


「ごめんなさい」


ばれてたよ。本当にごめんさい。


「血吸わせてくれたら胸揉ませてあげるよ?」


なにこの人。


「…あ…いや、大丈夫です」


「ふーん」


一瞬でも心が揺れてしまった。

雫さんの目がさやが血吸う時と同じ目してるんだけど。


「あの、吸わせませんよ?」


これ以上吸われると、死ぬよ?

それに吸わせるとさやが怒るんだよ。


「えーちょっとだけでいいから。ね?」


床に押し倒される。

やばいって、今力出ないから。


雫さんの顔が少し赤くなり始めている。


「ちょ、ちょっと」


この展開は流石に想定外すぎる。


雫さんが牙を出す。


まずいまずいどーしよ。


力でない。


雫さんが俺を押し倒した状態で首筋を噛みにくる。


ちょ。やばい。

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