3 マミ フレナの話を聞く

 

 

 

***

 

 

 「…えっと、その、話を聞くのは構わないんだけどさ…」不意に、

頬を染めて、マミが、戸惑いつつ。

 「何?」

 「何か着てからにしないか?。深刻な話なら何も着ないで、っていうのは

どうかって気が…」

 

 「…わたしまだお風呂入ってないわよ?」フレナが、

ほんのわずか拗ねたみたいに、無垢に。

 「そういう問題なのか!?」

 「お風呂は大事よ?」

 

 「…それにしてもこの有様じゃ…」残骸だらけの周囲に戸惑うマミに、

フレナが、優美な仕草で手指を翻しつつ、その手指から

虹色の光粒子の帯を放ち、周囲のメタルアンデッド13体分の残骸を

完全消滅させて、「…これでもう片付いたわよ?」と、やはり無垢に。

 

 「…深刻な話なのにお風呂でするの…!?」

 「…深刻な話だからこそ…、…裸同士で心を開いて語り合うの…。

…竜族にとっては、それが普通なのよ……。」

 「…そうなのか。」と、マミが、やはり頬を染めつつ。

 

 大理石の巨大浴槽の淵にフレナとマミ、一糸纏わぬ裸身を

肩から上を水面から出して並べる。

やはりどうしても戸惑ってしまうマミに、フレナが、

「…実は、わたし達竜族と人間族の間で、戦争が起きそうなの……」と、

沈鬱な声音で語り始める。

 

 「戦争が…!!?」マミが、幼い面差しに険しい表情を浮かべて、

身を翻しかけたはずみに、湯が踊る。

 「…エルクヴェリアは確かに500年前までは戦争ばかりしてた星だったわ。

5000年間続いた殺し合いの時代は『五千年の修羅地獄』って呼ばれてる。

でも、その時代の反省もあって、違う種族相手でも仲良くしよう、

同じ種族同士で殺し合ったりするのはもうやめよう、って、

500年間共存共栄で平和を保ってきたのよ。それなのに…」

 

 「…おれの脳に情報が流れ込んでくる…。…きっかけは、

人間の領域と竜の領域の境界線になってる山岳地帯で

1年前に見つかった資源の、奪い合いか…」マミが、厳しい眼差しで。

 

 「…流石はガッディスブレインね…。…わたしの説明、もう要らない…?」

 「…いや、やっぱり説明頼む。…いきなり脳内に

情報が流れ込んでくるのって、結構混乱しそうになるんだ…。

頭の中整理する為にも、やっぱり誰かに説明してもらいながら、

少しずつ脳で情報探した方が、やりやすい…。」

 

 ふと、わずかに微笑みつつ、やはり沈んだ表情で、フレナが。「…最初は、

人間族の財界と竜族の財界との間で話し合いながら、

新たに見つかった魔法元素結晶『ファルクリスタ』の巨大鉱脈の資源を

活用する為に、両種族共同で開発事業を立ち上げる予定だったのよ。

それが、何時の間にか、竜族の間に、『人間族は、共同事業を建前にして、

実際はファルクリスタの独占を狙ってる』って、噂が流れ始めて…」

 

 「…ほぼ同時に、人間族の間では、『竜族は、共同事業を建前にして、

実際はファルクリスタの独占を狙ってる』って、噂が流れ始めたのか…」と、

マミが。

 

 「…わたし、人間族のお友達もたくさんいるのよ。人間族と戦争なんて、

絶対嫌。竜族のみんなにも、戦争なんかで傷付いて欲しくないし、

戦争で殺し合って、誰かを殺して、殺されて、…そんなの、絶対に、

嫌…!!!!」フレナの瞳に大粒の涙が浮かんで、声音が、震える。

 

 「…!!!!」マミが、思わず、唇を噛み締める。

 

 フレナが、可憐な頬に涙を伝わせながら。「『人間族に奪われる前に

ファルクリスタを実力で確保しよう』って声も強くて、

竜族の戦闘軍団はもう山岳地帯のすぐそばで臨戦態勢に入ってるわ。

人間族の方では、『竜族に奪われる前にファルクリスタを

実力で確保しよう』って、戦いの女神ヴァルテ神殿所属の神聖騎士団を

中心とした三個旅団が、山岳地帯の反対側のすぐそばで臨戦態勢に

入ってるの。…その神聖騎士団の中には、わたしの一番の友達も

いるの……!!!!」

 

 「……」

 

 「…ミーユって名前の、素敵な、とっても可愛い女の子よ。

真面目で、思いやりがあって、竜族の事もとても大切に思ってるわ。

でも、もちろん人間族の事も、神聖騎士の仲間の事も、

すごく、大事に思ってるから、

きっと、今、すごく苦しんでると思うの…!!!!」

 

 「…そんな子に、まして友達と殺し合いなんて、

絶対にさせる訳にはいかないな……!!!」マミが、決然と。

 

 「…マミさん……」

 「…マミでいいよ。」マミが、フレナに、苦いものを表情に過ぎらせつつ、

穏やかに、微笑む。「…おれはさ、可愛い女の子が好きなんだ。」

 

 「……」

 「…まあ、実際に可愛い女の子とお付き合いするなんて

出来なかったんだけど、なんていうか、ほら、

動く絵みたいなので描かれたお話みたいなのに出てくる女の子も

好きでさ…」

 「…アニメの女の子の事?」

 「!?、アニメで話通じるの!?」

 「エルクヴェリアじゃアニメは一般的な娯楽よ?。みんな誰でも観るし、

わたしも可愛い女の子が出てくるアニメ好きだし。」

 「そりゃまたラッキーだ!、って、そんな事言ってる場合じゃ

ないんだけどさ…」

 

 ふざけた事を言っている様なマミではあるが、フレナはマミの言葉を

真摯な瞳で受け止めている。

マミの瞳に、マミの言葉の響きに、その奥に秘められているものに、

真摯な何かを感じているから。

 

 「……」

 「…おれ、アニメとか観てても、可愛い女の子が友達同士で殺し合う運命に

なってたりすると、すごく、胸が痛くて…、

…やっぱり、可愛い女の子同士、幸せに、仲良く、笑顔でいてくれるとこ

観てる方が、こっちまで癒してもらえるっていうかさ…」

 「……」

 「…まして、フィクションでも何でもない、現実の女の子が、

大切な友達と殺し合って不幸になるなんて、絶対に観たくない…!!!!!」

 「…マミ……」

 

 「…この戦争、絶対に止めなきゃ…!!!!!」

マミが、輝く水滴を飛び散らせて、立ち上がる。

 

 「…たすけて、くれるの……?」フレナが、泣きながら。

 

 「…君の為じゃない。

これは、おれの為の戦いだ…!!!!!」











 

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