第15話 カガメ
「アンタは逃げなくていいの?」
「マロは
「残るの勝手だけど、男なんだから自分の身は自分で守ってね」
「心得てるでおざる」
ジュリヤとガイトはすでに霧の外に出ていた。
血の池の周りにはジュエリ、サルマーロ、ユムだけに成り、辺りは静けさを増す。
そういえば鳥の囀りや蝉の声は、いつの間にか聞こえなく成っている。
恐らく霧が出た時から、外界の音は届かなく成っていたのだろう。
「この魔法は埋蔵金を守ろうとする天狗の力?」
「江戸時代の山伏さんなら、密教を使う人が多いのぉー。けど、密教の術とは少し違うように思えるのぉー」
「山伏は幕府の隠密の変装でおざる。徳川の隠密は伊賀忍者と甲賀忍者の末裔でおざる。忍法や妖術の
「あの白髭のジジィは何かそれっぽいわぁ。忍者のボスって感じだった。けど十六歳の女を魔法が開く鍵にした理由が分からないわね。それが分かれば魔法を解く方法も見つかるかも……」
「きゃあああ!」
突然ユムが叫んだ。
見るとジャージの腕の部分が切り裂かれ、少し血が滲んでる。
「大丈夫?ん?痛ッ?!何コレ?」
ジュエリの右腿も赤い線が走っていた。
「ジュリヤが言ってた透明の剃刀ね――あっ!痛ッ!痛ッ!クッソッ!腹立つわぁ!」
ジュエリに向かって複数の切裂く物が襲った。
そいつがシャツや腕に切り跡を残す。
サルマーロとユムの肌や服も、そいつにどんどん切り裂かれていく。
「厄介ね、〈パストビュー〉!」
「あっ!駄目なのぉー!超能力を使うと――」
百足達はジュエリが目を瞑った瞬間、ターゲットを真上の萌キャラから、ジュエリに変えた。
◀ ◀ ◀
血の池の上空の30秒前の映像。
映像はジュエリにズームして行き、太腿がアップにされる。
スロー再生に成り、血の筋が出来る前がコマ送りされる。
薄い硝子みたいな物が太腿を掠めていった。
掠めた物は地上に落ちると消滅する。
画面を切り替え、上空が映る。
霧の中を覗くと、水蒸気が極薄の小さな刃物のような形に成っていくのが見えた。
▶ ▶ ▶
「この透明剃刀の正体が分かったわぁ!サルマーロ!ライター持ってる?」
「持ってるでおざるが……なるほど!分かったでおざる。マロにも一本投げて欲しいでおざる」
言われてジュエリは目を開け、リュックから殺虫剤を取り出し、サルマーロに投げた。
サルマーロは殺虫剤を受け取ると、発射しながら噴射液にライターの火を近づけた。
「危ないのぉー!山火事になるのぉー!」
「非常事態でおざる。モラルは後回しでおざる」
ライターの火は、スプレー缶の中に含まれる可燃性ガスに引火した。
サルマーロは即興の火炎放射器を作り、上空に向かって炎を放つ。
そしてライターをジュエリに投げる。
ジュエリはライターを受け取ると、サルマーロと同様に殺虫剤を噴射しながら火を着けた。
上空から襲う物と、ついでに百足にも炎を放つ。
ジュエリは効果を期待していなかったが、意外にも百足は勢いよく燃えだした。
「ラッキー!弱点見つけたわぁ!コイツら火に弱いのよ![じゅうたんから熊]だわぁ」
「[ひょうたんから駒]だと思うのぉー。それより何で上に火を撒くのぉー?」
「透明剃刀の正体は氷の
「それで氷を溶かす為に――きゃあッ!!」
ジュエリが超能力を解いた為、近くに居た百足がユムにターゲットを変えた。
「しまった!!」
百足がユムの足に絡みつき、そのまま水中に引っ張る。
ユムは堪らず尻餅をつき、その状態のまま池の中にどんどん引きずり込まれた。
「だめぇぇえー!!イヤああぁぁぁあああー!!」
「しっかり!!手を握って!!」
ユムはジュエリの手を両手で握った。
ジュエリが思いっきり足を踏ん張り、引っ張り上げる。
ユムの体が一気に地上に戻された。
代わりに切り刻まれて脆くなっていたジャージパンツは破れ、絡まっていた百足に持っていかれる。
「あ、ありがとうなのぉー」
「危なかっわねー」
「あ、あの……」
「何?」
「ス、スエット、持ってるって言ってたのぉー……」
「そうね。持ってるわよ。どうかした?」
「か、貸して欲しいのぉー」
ユムはショーツ一枚に成った下半身を、上のジャージで隠しながら言った。
「何で?」
「な、何でって!恥ずかしいのぉー!水でパンツも透けてるのぉー!大ピンチなのぉー!!」
「上のアニメが本体なんでしょ?だったら恥ずかしく無いはずだわぁ」
「どう見てもコッチが本体だろぉー!!まさか、こんな格好でウロチョロしろってのかあー!!乙女人生、木っ端微塵になっちまうわー!!」
「アハハハ――キャラ崩壊してる。アハハハ――」
ジュエリは笑いながらリュックからスエットパンツを出すと、真っ赤な顔のユムに渡した。
「これは貸しね。ちゃんと洗って返してよ」
「分かってるわよ……」
ユムがアニメ声で怒ったり、拗ねたりしていたので、ジュエリにはそれも笑いのツボだった。
「アハハハ――アナタ気に言ったわぁ。SNSは何やってるの?」
「ジュエリン殿。あらかた終わったでおざるよ」
ジュエリとユムが会話している間、サルマーロは殆んどの百足を焼き尽くしていた。
百足達は上半身を焼かれると、自ら鎮火するように池に沈んでいったので、火も辺りに燃え広がらずに済んでいた。
そして最後の一匹も、らゃむらゃむが引きつけてジュエリが焼き払った。
「剃刀も収まったわね」
「一件落着でおざる」
「だめ、まだ霧が晴れてないのぉー」
「まだアトラクションが有るの?」
「……そうみたいでおざる」
3人と空中に浮かぶ萌キャラは、百足が消えた水面に再び集中した。
静かだ。
池は不気味なくらい静かだ。
さっきまで大量の大百足が暴れていた池とはとても思えない。
__ポコッ!
突如池の一番深いと思われる所から気泡が湧いた。
__ポコポコッ!
気泡はどんどん湧いてくる。
__ボコボコボコッ…
気泡は水飛沫に代わり、中から何かが持ち上がった。
「アレは……」
「水だわぁ」
そう。
水の中から出てきたのは、水だった。
正確には水の
直径70センチほどの水が3メートル位持ち上がった。
その姿はまるで鎌首をもたげる、透明な蛇のようだった。
「どうするでおざる?炎もパチンコ玉も効きそうに無いでおざるよ」
「ユムにはどうする事も出来ないのぉー」
「物理的攻撃も殺虫剤も効きそうに無いわねぇ。いっそ3人がかりで池の水を全部飲む?」
「斬新なアイデアでおざる。確かにバキュームカーなら勝てそうな相手ではおざる」
「とりあえず150年前をもう一度見て、攻略方法を考えるわぁ」
そう言ってジュエリが目を瞑った時――
「危ない!!ジュエリちゃん!!」
水の蛇が突如水の胴体を伸ばし、ジュエリに向かった。
あっ、と言う間にジュエリは水蛇に飲み込まれ、池の中に連れ去られる。
「ジュエリちゃん!!」
池の中でジュエリは息を止めていた。
藻掻いても体は全く身動きがとれない。
本当に蛇に飲み込まれたような感じだった。
ジュエリは焦らず、頭を巡らす。
現状を脱却する手段を……
【鏡は魔除けに成ると、言い伝えには有るからな】
ふと、ガイトの言葉を思い出した。
ジュエリは藁にもすがる気持ちで、何とか手を動かし、胸の懐中時計を開けた。
時計盤の反対側、ロケットの蓋の裏側は鏡に成っている。
その鏡を水中に翳し当てた。
途端に水の力が弱まっていくのが分かった。
水の中で数分が経ち、ジュエリの意識は徐々に薄らいで行く――
―――――
「――ですか?」
「ん?誰?」
ジュエリは意識を取り戻した。
目の前に知った顔が有る。
「大丈夫ですか?ジュエリさん?!」
「あら?谷口!ヤッパリ来てたの!?アレ?私、水の中に居たわよね……」
「すいません、遅れまして。間に会って良かったです」
ジュエリは谷口にお姫様抱っこをされた状態だった。
気を失ったのは一瞬で、すぐに谷口に引き上げられていたのだ。
「アハハハ――アンタもずぶ濡れね。わざわざスーツのまま飛び込んでくれたの?」
谷口はニコッと笑い「立てますか?」と聞いてから、ジュエリをゆっくり地面に降ろした。
「お姫様抱っこなんか初めてされたわぁ。あーあ、憧れだったのになぁー。相手が谷口だなんて……もう少し顔面偏差値が高ければねー。王子様にはあと20点足りないわぁ」
「それだけ喋れるなら大丈夫そうですね。王子様への残り20点は、人間性でカバー出来るよう努力します」
「うむ。頑張るのよ」
辺りを見回すと霧は晴れていた。
池を挟んだ向こう側で、サルマーロとユムが手を振っている。
萌キャラらゃむらゃむは既に消えていた。
「アレ?アンタどっから来たの?道と逆側じゃない」
「はい。森の中を通って来ました。いやー、それより本当に無事で良かった」
「コレ使ったら、水蛇の力が弱まったわぁ」
ジュエリは懐中時計の鏡部分を見せた。
「カガメですか」
「アハハハ――谷口どこの出身?変な訛り」
「あー、すいません。鏡の昔の言い方です。【カガ】は昔の言葉で蛇を意味します。つまりカガメは【
「そうなんだ。おかげで助かったわぁ」
「人が来ます。わたくしはこの辺で」
「あ、えーと……ありがとう、谷口……」
谷口はニコッと笑うと、森の方に消えて行った。
ジュエリは池の浅い所を通り、サルマーロ達と合流する。
間を置かずにジュリヤとガイト、それにジローマロと山岳警備隊の人達が現れた。
「ねーチャン!ごめん!背の高い人、見つけたんだけど、声を掛けたら森の中に消えちゃって――」
「大丈夫!アイツ、来てくれたわぁ。もう行っちゃたけど。アナタのおかげよジュリヤ!良くやったわぁ」
「あの人誰なのぉー?向こうから急に現れたのぉー」
「うーん――私の護衛係かな?」
サルマーロは何やらジローマロを叱りつけていた。
どうやらもっと早く来いと、言っているようである。
ガイトは山岳警備隊に状況を説明しているような手振りをしていた。
「ジュエリン殿。どうするでおざる。山岳警備隊が居ては発掘調査は無理でおざる」
サルマーロが周りに聞こえないように小声でジュエリに言った。
「日を改めましょう。どちらにしても相手を調べないと、宝に有りつけそうに無いわぁ。パストビューで天狗忍者を探ってみる」
「マロもお祓い系ユーチューバーに声を掛けとくでおざる」
「絶対このまま引き下がらないわよ。見てらっしゃい……」
ジュエリは血の池を見つめながら、リベンジを誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます