第8話 埋蔵金

「昔って、本当に車やバイクが無いのね。駕籠乗ったり、小さな馬に乗って移動してる……」


 ◇ ◇ ◇


『馬小さい?』


『昔はサラブレッド種じゃないから小さいんだよ』


『戦国武将もポニーに乗ってたらしい』


『馬は日本に居なかった。これマメな』


『馬は古墳時代に大陸から連れて来たんだっけ』


 ◇ ◇ ◇


「昔は馬も居なかったんだ!だったら通販やデリバリーとかは、当然無かったわよね?そんな生活、私には無理だわぁ」


 ◇ ◇ ◇


『配達方法の前に、まず通信手段が無いからなw』


『千年前には、すでに飛脚が居たそうです』


『昔は舟で運搬が主流なんだろうな』


『テレポートできる超能力者が活躍』


 ◇ ◇ ◇


「アハハハハ――かもねー。でも、パソコンやキックボードが無かった大昔って、日曜とかホント、何して遊んでたんだろ?」


 ◇ ◇ ◇


『そもそも大昔に日曜日は無いぞ』


『農民は毎日が仕事だろうな』


『江戸庶民はフリーターばかりで、毎日遊んでたらしいよ』


『俺はその伝統を今も引き継いでいる』


『働けや』


『ジュエリン、また脱線してるよ』


『落城の話は?』


『それでお姫様はどうなったの?』


『つづき気になる』


 ◇ ◇ ◇ 


「あっ!そうそう、それでね!そのお姫様は馬に乗せられ、燃えるお城から家来に連れ出されたんだけど、結局死んだお殿様の後を追ったみたいよ。槍を自分の胸に突き刺して自殺したの。残念だったけど、このお姫様って、バッリッ、カッコいいわよね。んなとこかな。どう?脚本作りの参考に成った?」


 ◇ ◇ ◇


『ハイ。凄く参考に成りました。ありがとうございます』


『その作品、楽しみにしてるぜ』


『九州の戦国時代も大変だったんだね』


『姫様死んじゃったのか』


『まだ若いのに可愛そう』


『美人だった?』


 ◇ ◇ ◇


「そうね。まあ私の方が上だけどね。アハハハ――じゃあ次!何をパスって欲しい?」


 ◇ ◇ ◇


『過去が見えるとか嘘つくんじゃねえよヤラセ女』


 ◇ ◇ ◇


「あらッ!元気なアンチ君ね。何か見て欲しい過去は有る?」


 ◇ ◇ ◇


『俺が昨日、何食べたか言ってみろよwww』


 ◇ ◇ ◇


「オッケッ!昨日の晩御飯でいい?その過去パスってあげるから、パソコン消さずに待っててね」


 ◇ ◇ ◇


 そう言ってジュエリは少しの間パソコン画面を見つめてたが、やがて目を瞑りながら喋り始めた。


「コンビニのカルボナーラ!どう、正解でしょ?ビックリした?アンチさんは私の力を侮ってたわね。私のパストビューは、特定さえ出来れば、パソコンの中を伝ってでも過去を追えるのよ。てかっ、あなた女だったのね。うわぁぁ、エッグッ!汚い部屋だわぁ。少しは片付けたらどう?アーッ!ソッレッ!そのストレートアイロン!私も使ってたー。毛先痛むから止めた方がいいわよ。それ捨てて、高いヤツ買いなさい!あっ!まだ疑うなら名前と住所も言ってあげるけど、どうする?あらっ?パソコン消したわぁ。履歴残ってるから何時でも追えるんだけどねー」


 ◇ ◇ ◇


『マジかよwww』


『有能すぐる』


『サイバーポリスジュエリン』


『かくれんぼで無双する女』


『アンチ涙目で逃走www』


 ◇ ◇ ◇


「アンチ諸君に言っとくわぁ。少々の事なら見逃すけど、酷い奴は追っかけて名前と住所を晒すわよぉー」


 ◇ ◇ ◇


『恥ずかしい過去も晒してやれ』


『那智が捕まったのに、まだ疑ってる奴いるんだ』


『ワイの嫁の力なめんなよ』


 ◇ ◇ ◇


「ちょっと!私を嫁扱いするからには、ルックスに自信あるんでしょうね?私、顔面偏差値90以下の男は、ゴミ扱いよ」


 ◇ ◇ ◇


『ゴミ扱い上等』


『むしろゴミ扱いされたい』


『ふぅー良かった。ゴミですんだ』


『ジュネキのお嫁さんに成りたい♡』


 ◇ ◇ ◇


「いい、みんな。あなた達は来年、私が世界的ユーチューバーに成る為のなんだから、ちゃんと私が本物の超能力者だと、しっかり宣伝するのよ。その為にリクエストに応え、パスってあげてるんだからね」


 ◇ ◇ ◇


『踏み台だろ?踏み石って、俺ら墓かよ』


『ようつばに移るの?』


『イコニコだけでいいジャン』


『踏むならハイヒール履いてからにしろ』


 ◇ ◇ ◇


「キッショ!何でいつも女王様キャラにするのよ!清楚系美少女キャラで扱ってよ!」


 ◇ ◇ ◇


『かしこまりました女王様』


『女王様の命令だ!おまえら清楚系扱いしろ!』


『女王様、それは余りにも無理難題でありまして…』


『清楚の意味をググれ』


『風呂を覗く自称清楚系www』


 ◇ ◇ ◇


「アハハハ――だから、女王様扱いにするなって言ってるでしょ!モォー、あっ!時間だわぁ!今日はこの辺りでバイバイー!またねー!」


 放送を終えるとジュエリは急いで一階に下りてキッチンに入り、冷凍庫からプリンを取り出した。


「よし!時間通り!完璧な半凍りだわぁ」


 プリンを皿に乗せると至極の笑みを浮かべ、鼻歌を口ずさみながら居間に向かった。

 シャリシャリ音を立てながら崩した一匙分のプリンを口に運ぶ。


「ヤッバッ!!チョーウマだわぁ!さすが冷凍プリンだわぁ!」


「あっ!美味うまそー!俺のは?」


 二階からジュリヤも降りてきた。

 今日もこの時間は家に二人だけである。


「あるわけないでしょ!ポテチ有るからアンタはそれ食べてなさい」


「俺もたまにはプリン食いたいなー」


「アンタ、あの時約束したわよね。アンタの分のプリンは全て私に献上することを!私はあの事件を一生を忘れないから」


「まだ恨んでるのかよー。しつこいなあー」


「あたり前でしょー!!」


 ジュエリはSNSアプリを開き、スクロールしながら感想を読みだした。


「なんかさー、最近私とコンタクトを取りたい人が増えてるのよねー。個人だけじゃ無く、大学の研究会とか、宗教団体とか――」


「良い事じゃん。それだけ注目されて来てるんだよ」


「んー……そうよね……」


 ジュエリは谷口の言葉を思い出していた。


【テロリストや犯罪組織から勧誘されるでしょう】


 ジュエリは配信リスクを承知していたが、精々中傷してくるアンチ位だろうと高を括り、そこまでの危険性は想像していなかった。

 その場は突っぱねたけど、日に日に不安は募る。

 でも配信のネタに成るような、新しい出会いも欲しい。

 故に自分に近づく者に対し、不信感と好奇心が交差していた。


「ヤッパ、要塞は必要よね。プール付きの……」


「何の事?」


「大金が欲しいわぁ。今すぐ……」


 ジュエリはプリンを食べ終わり、ジュリヤに持ってこさせたグレープフルーツジュースを飲みながら、再びスマホ画面をスクロールした。


「ん?これッ!有名ユーチューバーじゃない?」


 ジュエリは弟にスマホを見せた。

 スマホの画面には、烏帽子を被った猿のキャラクターアイコンの横に、こう書かれている。


 ◇ ◇ ◇


『ヘイロー!ウキキ!初めましてサルマーロでおざる。ジュエリン殿に折り入って御話したい事があるでおざる。下にアドレスを貼っておくのでおざる。連絡お待ちしておりますで、、、おざる』


 ◇ ◇ ◇


「本当だ!サルマーロさんって親が大金持ちで、その資金で大掛かりな企画をしている人だよね」


「確か所属してる事務所も、親の系列会社なんでしょ?事務所の実質社長よね。『話したい事がある』って事は、スカウトかな?」


「そうかも知れないね。連絡先が事務所に成ってるし。どうする?返信してみる?」


「事務所に入ったらメリット有るの?」


「色々バックアップしてもらえるから、メリットは沢山有るよ。但し、収入の2割位は事務所に取られるらしいけどね」


「却下」


「有名ユーチューバーが向こうからコンタクトして来たんだし、連絡してみれば?ねーチャンの名を売るチャンスかもよ」


「うーん……そうね。メールして要件だけでも聞いてみるか……」


 ジュエリは有名ユーチューバーだから大丈夫だろうと、とりあえず別アドでメールしてみた。

 返事は思いの外、すぐに帰ってきた。


 ◇ ◇ ◇


『お返事ありがとうでおざる。おぼっちゃま系ユーチューバーのサルマーロでおざる。実はマロは現在、徳川埋蔵金を探す企画を進行しているのですが、ずっと手詰まり状態なのでおざる。そこで本物のエスパーで有るジュエリン殿のお力をお借りしたいと、思った所存でおざる』


 ◇ ◇ ◇


「徳川埋蔵金?ジュリヤ!徳川って、ホトトギスってた、あの徳川さんよね?」


「江戸幕府の将軍家ね。徳川埋蔵金は江戸末期に幕府再建の為の軍資金を、時の勘定奉行が何処かに埋めたっていう伝説だよ」


「へぇー。何で埋めたの?」


「大政奉還で江戸城に置いてても、新政府に取られちゃうからだよ。その幕府勘定奉行の小栗おぐり上野介こうずけのすけって人が、利根川を伝って赤城山に行き、山の何処かに埋めたってのが定説みたい。だけど江戸時代から沢山の人が探しても見つからないから、赤城山はダミーで、本当は別の場所だとも言われてるみたいだね」


 ジュリヤは自分のスマホで調べながらジュエリに話した。


「ふーん。歴史家には興味有る話なんだろうけど、私には関係無いわぁ」


「因みに埋められた金塊は、当時のお金で推定360万両だって」


「んッ?!それって今のお金でどれ位なの?」


「500億円」


「バカアァー!!それ、先に言いなさいよッ!!もう――」


「でも、見つけても国に渡さないといけないみたい。報労金で100億位は貰えるみたいだけど」


「十分よ!!」


 ジュエリは目を丸くして立ち上がり、メールでサルマーロとのやり取りを続けた。


 ◇ ◇ ◇


『埋蔵金の埋められた場所は、特定出来るの?』


『実はマロは徳川縁とくがわゆかりの地の出身でおざる。パパマロの話では、死んだジジマロが赤城山に宝が眠っていると、いつも言ってたらしいでおざる。先祖は何か秘密を知っていた可能性が有るでおざる』


『赤城山に必ず有るの?』


『たぶんでおざる。ジジマロもパパマロも探したが見つから無かったでおざる。言い伝えだけで、文献などの手掛かりは全く無いでおざる』


『蜘蛛を摘むような話ね』


『過去にはテレビ局が海外の霊能者を使って探したらしいでおざる。他にも明治時代から名だたる超能力者や占い師が何人もチャレンジしたけど、誰も埋蔵金には辿り着け無かったそうでおざる』


『有名な超能力者でも無理だったのね。それなのに私に挑戦しろと?面白いじゃない』


『そうでおざる。現代の天才エスパー・ジュエリン殿なら可能と思うでおざる。発掘費用や経費は勿論マロが出すでおざる。どうかコラボ企画という形で、一緒に徳川埋蔵金を探しに行って欲しいでおざる』


 ◇ ◇ ◇


「ジュリヤ、赤城山に行くわよ」


「まさか今からじゃ無いよね?」


「サルマーロとコラボするわぁ。費用は向こうが全部出してくれるみたいよ。何か買い物したら領収書を貰うの忘れないでね」


「スゲー!有名ユーチューバーとコラボだ」


「しかも向こうから大金の話を持って来たわぁ。まさに[タナバタモチ]だわぁ」


「[棚から牡丹餅ぼたもち]だろ。何だよ[七夕餅たなばたもち]って、笹団子の事かよ!」


「略しただけよ!」


「略に成ってないよ」


「あっ!そうだ!忘れてた」


 ジュエリは肝心な事を聞くの忘れてたので、慌ててメールを送る。


 ◇ ◇ ◇


『埋蔵金の取り分は?まさか半々じゃ無いわよね』


『勿論でおざる。ジュエリン殿が8割でどうでおざる?』


『9割。それ以下ならこの話は受けない』


『承知したでおざる。では契約成立でよろしいでおざるか?』


『OK!その過去、パスってあげる!』

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