第5話 アイドル

 初めはやはり、二桁がやっとの再生回数だった。

 ジュエリのビジュアルの良さから、コメントは数件入ったが、その超能力を本物だと信じる者は居らず、単なるパフォーマンスだと思われていた。


 だが、三回目の動画配信の事で有る。

 コメントに『今度の新ゲームのタイトルを当てて』という、リクエストがあった。

 それはある大手ゲーム会社が、新作ゲームのプロジェクトをシークレットで進めていて、タイトルも中身もずっと謎のままだったのだが、近々ライブで発表するらしく、ジュエリの力でタイトルを先に盗み視て教えて欲しいというものだった。

 ジュエリは言われたとおりパストビューを行い、自分の動画配信でそのゲームの内容とタイトルを告げた。

 これが三日後にゲーム会社から発表された内容と全く一緒だった為、SNSを通して一挙に噂は広まった。

『親がゲーム会社の関係者だろ』『業界のヤラセ』という意見も多かったが、ジュエリの固定ファンは急増し、再生回数も五桁を越えるように成った。

 そしてライブ配信もやり始め……




「ハーイ!エスパー系ライバーのジュエリよ!今日も、あなたが見たい過去をパスっちゃうわぁ。あっ!パスっちゃうは、過去を覗いちゃうって意味だからね。さあ、何か覗いてほしい過去は有る?」


 ◇ ◇ ◇


『いちこめん♡』

『わこつ』

『初見です』


『わこ』

『8888888』


『昨日、授業中に放屁したと濡れ衣を着せられた。真犯人を突き止めてくれ」


『Vチューバーらゃむらゃむの中の人教えて』


『人類でカンチョーという必殺技を初めて使った罪深き奴の名が知りたい』


『日差ヶ丘15の星夏ちゃんが履いてるパンツの色と柄をチェック!』


『ジュエリンの能力うらやま』


『お風呂とか覗き放題じゃん』


『もし俺が使えたらジュエリンの入浴を毎日覗く自信有るわ』


『ワイはむしろジュエリンに毎日覗かれたい』


 ◇ ◇ ◇


「キッショ!あなた達!下ネタしか無いの?呆れたわぁ!もっと『サンタさんは本当にいるの?』とか、夢の有るリクエストとか出来ない?これだからイコニコ厨は――」


 ◇ ◇ ◇


『サンタさんは本当にいるの?』


 ◇ ◇ ◇


「居るわけないでしょ!ハイ、次ッ!」


 ◇ ◇ ◇


『ピラミッドはどうやって建てた』


 ◇ ◇ ◇


「石を積んだのよッ!ハイ、次ッ!詰まんないのは、パスらないわよッ!」


 ◇ ◇ ◇


『マチュピチュ遺跡の謎に迫れ』


 ◇ ◇ ◇


「はあぁ?んな謎の単語を出されても、私が知ってる訳無いでしょ!!次ッ!!」


 ◇ ◇ ◇


『インターネット最大の謎!シケイダ3310の正体』


 ◇ ◇ ◇


「アンタが死刑だわぁ。次ッ!」


 ◇ ◇ ◇


『アポロが本当に月に行ったかの件』


 ◇ ◇ ◇


「ん?何それ?アポロって初めて月に行った宇宙船でしょ?行ってないの?」


 ◇ ◇ ◇


『当時米は露と宇宙技術力を競ってて、負けそうだからウソついたって噂だよ』


『月面着陸はハリウッドで撮影したとか』


『宇宙なのに星条旗がハタハタしてるから変って奴』


『じっさい宇宙移住に進歩ないもんな』


 ◇ ◇ ◇


「ウッソッ!ショックだわぁ。私、お金持ちに成ったら月旅行するつもりなのに。でも、その噂が本当で、私が証拠を見つけたら――」


 ジュエリは懐中時計を握りながら、不適な笑みを浮かべた。


「アメリカは世界中に赤っ恥かくわね……」


 ◇ ◇ ◇


『アメリカに宣戦布告キターーー』


『ナサ逃げてーーー』


『CIAとFBIがアップを始めたようです』


『ダメだ。CIAに捕まってエチエチな拷問をうけるジュエリンしか想像できない』


 ◇ ◇ ◇


「キッショ!またエロ話に戻されてる」


 ジュエリはあからさまに嫌な顔をしたが、内心あまり気にしてないようである。


「アポロ面白そうだわぁ。けど月までパストビュー飛ばすなら、けっこう集中力必要なのよねー。機会有ったらしてみるけど、次回にするわぁー。他無い?」


 ◇ ◇ ◇


『俳優の那智カケルに彼女いる?』


 ◇ ◇ ◇


「那智のファンなの?悪い事言わないから、ファンやめた方がいいわぁ」


 ◇ ◇ ◇


『どうして?』


『実は彼氏が居るとか?』


『なら漏れ得なんだが』


『アッー』


 ◇ ◇ ◇


「私も前はファンだったの。けどアイツの過去覗いたら、薬やってるし、女癖悪いし、危ない奴らと付き合い有るし……とりあえず鬼キショだったわぁ。この部屋、アイツのポスターだらけだったんだけど、ソッコォー剥がして捨てたの。そのうち捕まるわよ、アイツ」


 ◇ ◇ ◇


『えええええええーーーマジ?』


『それはビックリ』


『いい奴そうに見えるのにな』


『大丈夫?嘘だったら那智の事務所に訴えられるよ』


 ◇ ◇ ◇


「大丈夫よ。本当だもん。訴えて来たら証拠突き付けてやるわぁ」


 ◇ ◇ ◇


『かっけー』


『有名人で悪事してる奴あばいてー』


 ◇ ◇ ◇


「嫌よ。そんなのに使いたくないわぁ。みんなコレだけは言っとくわぁ。ドラマや小説とかだと、エスパーって絶対に正義の味方で、人助けの為に超能力使うじゃない。けど、実際に超能力持ったら分かるわぁ。はっきり言って自分の利益以外に使いたくない。お金に成る事にしか使いたくないもん。たぶん他の超能力者も同じ気持ちだと思うわぁ」


 ◇ ◇ ◇


『そうなん?』


『でも悪い奴を懲らしめる系なら、好感度上がってフォロワーが増えるかも』


『ざまぁ系ヨロ』


 ◇ ◇ ◇


「正直最初はさぁ、この能力は私が地球を救う為に、ヒーローに成る為に神様が授けてくれたもんだと思ったわぁ。けど、那智の件もそうだけど、他にも好きだった人、信じていた人の過去や裏側を覗いてたら、そんな考え吹っ飛んだわぁ。もう誰も信じられなくなって、人助けしてもって――あっ!ごめん!詰まんない話だわぁ。話変えましょう」


 ◇ ◇ ◇


『他人の過去が全部見えてしまうのも、確かに不幸かもな』


『自分の為に能力を使えばええよ』


『女子なんだし無理に危険を冒す必要ナシ』


 ◇ ◇ ◇


「弟はさぁ、この能力を歴史研究に役立てたらって言うんだけど、ハッキリ言ってそれも興味無いわぁ。だって昔の事が分かった所で何が変わるわけでもないでしょ?それより今が大事。今を楽しむような使い方をしたいの。だから皆もそんな使い道考えて」


 ◇ ◇ ◇


『よし。とりあえず風呂覗きだ』


 ◇ ◇ ◇


「又それっ!もう散々覗いたらからいいわよ!」


 ◇ ◇ ◇


『覗いたのかよ!』


 ◇ ◇ ◇


「この能力使えるように成って直ぐ、色んな有名人の入浴覗いちゃった。皆考える事同じねー。アハハハハハ――」


 ◇ ◇ ◇


『ゲロったーーーwww』


『草』


『コイツ笑ってるぞーwww』


『罪悪感は無いのかー』


 ◇ ◇ ◇


「だって、だって見れるんだもん。ドアップで。アハハハハハ――」


 ジュエリは笑いながら紅く成った顔を手団扇で扇いだ。


 ◇ ◇ ◇


『開き直ってるwww最悪の女だwww』


『誰が大きかった?』


『漏れにもその能力寄こせー』


『ちん凸殺し』


『おまわりさん!コイツでーす!』


『この正直者め。コレでもくらえ』


 ◇ ◇ ◇


「お巡りさん呼んでも証拠無いもーん!アハハハ――えっ?!ウソ!?1000ポイント!!ヤッター!初めての御賽銭だわぁ!ありがとー!!」




 その後も暫く雑談は続き、殆んどパストビューを使う事も無く、その日のライブ配信は終了した。


 終了すると同時に、ジュエリは帽子とマスクを取り、机上のペットボトルの水をがぶ飲みすると、大きなため息を一ついた。


 __コンコン!

 ドアを叩く音にジュエリが返事をすると、ドアを開け、弟のジュリヤがジュエリの部屋に入って来た。

 ジュリヤは放送を隣の部屋からスマホでチェックしていて、終了したから覗きに来たのである。


「お疲れさん」


「あー緊張したわぁ!放送前はカチカチだったんだけど、すっかりわぁ」


「[肩の荷が下りた]だろ。何だよ[肩の身が取れた]って、脱臼かよ」


「肩こりが取れたって意味よ!それよりどうだった?イケてた?」


「ねーチャン、あんまり企業や個人の特定されたリクエストには答えちゃ駄目だよ。特に相手側の不利益に成る発言は、本当の事でも問題視されてBANされるかも知れないよ」


「分かってるわよ。那智の事は、思わず口が滑ったのよ」


 ジュエリはそう言ってジュリヤに背中を向けた。

 その後ろ姿は何処か寂しげだった。


「……ねーチャン。何か有ったら俺に何でも言ってくれよ」


「何よ、急に?アンタには、何でも言ってるでしょ?」


「ポスターの事、さっきの放送で知った。他にも隠してるだろ?ねーチャン最近友達とるんでないし……」


「……何も無いわよ。アンタやウイちゃんと遊んでる方が楽しいだけ」


「あんまり人の過去を覗いちゃ駄目だよ。覗かれた人を傷つけるし、自分も傷つけるよ」


「………」


「俺のなら幾ら見ても構わないからさあ」


「アンタの見飽きたわぁ。もう寝なさい。時間遅いから」


「アーイ。おやすみー」


 ジュリヤが出て行こうとした時、ジュエリは振り返りながら声を掛けた。


「あっ!ジュリヤ!アンタのベッドの下のエロ漫画、没収しといたから」


「へっ?!」


「友達に借りたんでしょ。アンタにはまだ早いわぁ。読まずに明日、返してきなさい」


「い、いや、あれ、一般誌のだからそれほどエッチじゃないし……」


やましくなかったら隠さないわぁ」


「ひょ、表紙が水着だから勘違いするかなー、って……」


「ママに見せていい?アイツこんなの読んでるって――」


明日あす、速攻で返してきます」


「うむ。よろしい」


 ジュリヤは肩を落としながら部屋を出て行った。

 ジュリヤが出て行くとジュエリはパジャマにも着替えずにベッドに寝転がり、天井を見上げながら思いにふけっていた。


「声を出して笑ったの、久しぶりだったわぁ……」


 ジュエリは独り言を呟いた後、疲れてたのか目を瞑ると、直ぐに寝息を立てて夢の中に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る