第19話〜絶望〜
さて、どうしたものか。
欧斗は街の前で立ち尽くしていた。そもそも兵士が居る王都にどうやって潜入してやるか、まぁ答えは出ていた。そのままゆっくりと時が来るのを待つ。
「やっぱりか」
欧斗がそう言うと兵士達は時間を見て街の中に入っていく。今日は王選当日、警備ですら一同に介してすごい数の国民の警護に当たらなくてはならない。その為街の周りの警備は薄くなる。
「うおっ!?」
門の兵士の何人かを糸で押さえつけ中に侵入する。この間わずか五分程度。
王宮の壇上には既に王選が始まっていた。今は国民にリューガが話をしている。チャンスはそこだ────
「ちょっと待てよ」
糸を伸ばし壇上に括りつけてそれを縮め壇上に欧斗は上がる。
「!? 何やってるんだ君は」
欧斗は壇上に上がり国民に名乗りをあげる。
「僕は欧斗、この国の王子でありレドラの息子だ、この中の何人かに見えない糸を括りつけている。ちょっとでもこの国の兵が僕に抵抗をするなら殺す」
欧斗は高らかな声でそう言った。リューガも含めてその異常な行動に戦慄する。
「欧斗!?何を!?」
メイアが声をかけるが欧斗は意に介すつもりも無い。
「まァそんなところか」
全ての糸が千切れるのを欧斗は感じた。
「なに!?」
そう言うと五人の騎士が国民たちの後ろから現れる。
「おいレドラの息子よ、舐めた真似してくれたな」
それを見かねて欧斗は二人の妖精を呼び出した。リエルとエルナだ。
「僕は妖精使いだ、お前らみたいな雑魚程度一瞬で始末できるってことを忘れるな」
欧斗がそう言いながら騎士達を脅す。だが騎士の一番大きい男はそれに驚きつつも襲いかかってくる。
「何がだよ!バカが!!」
欧斗はその衝撃で吹き飛ばされる。どうやらかなりこっぴどくやられている様子だった。
「これが妖精使いだ・・・?弱すぎるぜ!!」
そう言うとリューガは何かに気づいた表情を浮かべた。
「まずい・・・!!おとりだ!!今すぐ王宮へ!!」
「リエルの増強効果・・・それにエルナの千里眼・・・シイナのお陰で全てアルトが使えるようになっている・・・ 間抜けすぎるぜ世界最強・・・」
そう言いながら欧斗は意識を失う。
***
「欧斗・・・!!もう少しだよ!!」
アルトは王宮の入り組んだ道を全て千里眼で把握して進んでいく。警備の薄い王宮程度ならバレないように王の間に近づくのは容易だった。
「ねぇ君、何してるのかナ〜?」
そう言いながら後ろからナイフで襲いかかってくる男がいた。
「僕、見られてると分かっちゃうんだ。君さっきから僕のこと見てたよね」
千里眼がバレてる・・・!?まずい
「だったら何かな・・・アルトなら君程度簡単に押さえつけられるよ」
その男は白髪でまるで死人のような顔をしていた。背はアルト並に低い。
「あぁ、可愛いねぶっ殺すね」
ナイフで襲いかかってくる男の移動速度は半端なものではなかった。その速さに着いていけずアルトは背中をブスリと刺される。
「弱いね君、弱すぎる」
男は背中をブスブスと刺す。非常に痛ましい光景だった。アルトは痛みで絶叫するが誰も助けには来ない。
***
「欧斗」
リエルが欧斗に声をかける。
「なんだ・・・もう僕は限界なんだぜ・・・アルトはやったか・・・?」
「いえ・・・今にも死にかけています」
「なん・・・だって・・・!?」
欧斗に失いそうな意識が戻る。
「リエル早く行け・・・アルトを助けろ・・・」
リエルは真っ直ぐにアルトの元へ向かう。
***
閃光と共に光弾が白髪の男を襲う。
「何やってるのかな君、人間なのかななのかななのかななのかなぁ」
白髪の男は髪をくしゃくしゃかきながらリエルに話しかける。
「妖精です、彼から離れてください」
リエルがそう言ったのもつかの間、男はリエルに切りかかる。それに反応出来ずに腕が飛んだ。だがすぐにその腕は空気中に溶ける
「なんだ・・・人間じゃないか、・・・人間だァ」
ニタニタ笑いながら白髪の男は笑った。
「いっ・・・このくらい」
そう言うと光が集まりリエルの腕を修復する。
その瞬間次の一撃で足が飛んだ。
「はぁはぁ・・・」
リエルはその全てを修復するがその度に魔力を消耗する。だが何度も四肢を吹き飛ばされリエルの魔力は底をついてしまう。実体化も解除できずに横たわってしまった。
「あぁ、壊さなきゃ」
男はナイフを立ててアルトに近寄る。傷だらけのアルトの体をこれ以上えぐれば死ぬだろう。その刹那何かが移動してきた。
「アルト・・・」
現れたのはシイナだった。だが男は意に介さずシイナをぶつりと刺した。痛みすら認識出来ないほどの早業だ。シイナはアルトを庇うように倒れた。
「生きなさい・・・アルト・・・」
瞬間的にアルトの体のみがどこかへワープした。シイナの体はもう動かなくなってしまっている。
***
「罪人、王を討とうだなんて考えてたんだろ、吐けよおい」
そう言いながら大男は欧斗の腹を思いっきり殴りつける。欧斗は血を吐いて動けなくなってしまっていた。
「あ・・・ああ・・・」
ビクビクと震え涙が流れるが誰も助けには来ない。恐怖と痛みで欧斗の体の感覚が麻痺している。
「もう大丈夫だ、ゾルド。ここらは王に任せよう」
そう言うとボコボコになった欧斗をリューガが担いだ。そのまま王宮に入っていく。
「王よ、この者の処遇は」
欧斗はよくやく王の姿を目にする。いや、彼からすれば王というより魔王そのものだった。
「まぁ、殺して捨てておけ。思ったより雑魚みたいだ」
「分かりました」
リューガがブスリと欧斗を刺そうとした瞬間だった。リエルが姿を現しそれを制止した。
「妖精・・・!?ボロボロのようだが」
リエルの体はボロボロだった。もう魔力で修復不可能な程にやられていて立っているのさえ困難な程だ。
「だ、誰が・・・!?誰がやったんだぁぁあ!?」
欧斗は血反吐を吐きながらリエルの無惨な姿を見て発狂するかのように叫ぶ。その瞬間白髪の男が欧斗の後ろから歩いてきていた。
「お前が来てたのか・・・」
リューガがそう言うと白髪の男は手に持っているナイフを収めた。どうやら欧斗をアルトのように痛め付けようとしていたらしい。
「エルナは・・・どこ行った!?アルトは無事なのか」
白髪の男は顔を不気味にニヤニヤ笑いながら答えた。
「ちっちゃい男の子ならいっぱい悲鳴あげてて可愛かったなぁ・・・」
それに欧斗の沸点は限界を超えていた。
「これが国のやり方かぁあ!!お前らは王族でも騎士でも何でもねぇよ!!!」
ガラガラの声で最後まで叫ぶ。だが白髪の男がナイフを喉に当てて制止させる。
「あが!!」
制止したナイフで首の肉を楽しそうに切る。もうリューガかトドメを刺す一歩手前だった。
「逃げて」
小さく掠れた声でリエルがふと笑いながらそう言った。その声は欧斗にしか聞こえていない。瞬間その場が閃光に包まれる。
「消え・・・た?」
そこに欧斗の姿は無く血塗れのリエルが横たわっているのみだった。
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