第15話〜王殺しの作戦を練るようです〜

その夜欧斗は悶々としながら脱出方法を考えていた。どれだけの時間が経っただろうか、どうやら付けられた手鎖には魔力を抑える効果、欧斗が持っていたクリスタルと同様の素材が使われていた。


「リエル、お前は何とか外に出られないか?」


「既に何度か試しましたが主であるあなたの魔力が出せない以上、空気中の魔力のみを頼りにすることになります。ですがここでは何故かその濃度も薄い。だからこのままあなたの元を離れると実体が消えます」


リエルがそう言うと欧斗はため息をついて横になる。


「ここには本当に何も無い。この手錠の材質、お前が最初にクリスタルから出てきた時のように内側からなら破壊なんてことも恐らく君の今の魔力ならできないだろう、だがこの状況を上手く利用する方法だってある」


欧斗がそう言うとリエルは黙ってその話の続きを聞く。


「恐らくこのまま僕を処刑する前に王に会うことだってできるだろう、その時に色々事実確認をすることも出来るかもしれない。それにリューガにさえ気をつけていれば僕達の実力ならばこの手錠を外した後逃げることだって可能な筈だ」


欧斗はそう言うと静かに目を瞑った。


ほぼ明け方になった所で誰かの声が欧斗の耳に聞こえてくる。


「お兄さん・・・今助けるよ」


そう言うとアルトの姿が現れる。欧斗の手錠を手で覆った瞬間破壊した。


「アル・・・トか、すまない。ありがとう、助けに来てくれたのか、なぜここが?」


「うん、話は後にしよう。早く僕の手を握って」


そう言うと欧斗とアルトの体が輝いた。瞬間その姿が牢獄から消え失せた。


そこはどうやら洞穴のような場所だった。中には火が焚いてあり、それ以外には何も無いと言った様子だった。


「アルト、そいつまで助ける必要はあったのか?まったく」


そう呟く老婆の姿があった。どうやら街の外のどこか森の中だった。


「老婆さん・・・どうして俺たちの場所が・・・?」


「その老婆と言うのをやめろ、あたしにはシイナっつう名前がある、お前の妖精を見てやった時に位置を特定できるように術をかけておいたんじゃよ、それでアルトが移動魔法でお前さんの元まで来たって訳じゃ」


「そう・・・か」


欧斗はどっと疲れた様子だったが更に会話を続けた。


「シイナ、ここはどこなんだ、あんたも俺も国には狙われている身だ、レドラだってあんたの所にまた現れるかもしれない、大丈夫なのか」


そう言うとシイナは冷静にそれに返答をする。


「あのバカ弟子については恐らくあたしの居場所を特定はできんじゃろう、元々相手の位置を特定する能力を持っているわけではないしあたしを攫ったのは何かネタがあったからわかったに過ぎん。まぁもっともあたしも移動魔法が使えるしそれでいくらでもアルトの元に戻ってこられる。それよりも国だ、あたしとアルトも元牢に閉じ込められていたが魔法を使って出てきた、じゃがこのままではまた逃げ隠れすることになる」


欧斗はぐっと拳を握り締めた。なぜ自分がこんなに逃げ隠れして生きなければならないのか、なぜ覚えもないことに怯え無ければならないのか。 その事に対する怒りのみが彼の思考を巡らせていた。


「なら簡単なことだ、王都を陥落させてやる。恐らく四日後の王選で民衆が集まる。その時に俺達の力で国王を討つんだ」


シイナは欧斗の真面目な表情にどこか驚いたような、呆れたような表情をしてみせる。


「お前わかっているのか、首都アンデルセンには世界最強のリューガはもちろん、凄腕の騎士や衛兵共がいる、そうなればお主の信用している騎士団を統括しているとか言ってたもんも信用なるかわからん。それに対してあたしらはたった4人だ。あくまで限界があるだろう」


「ああ、それは分かっている。だがそいつら全て相手しなくてもアルトの移動魔法やあんたの力を使えば王のみなら討つことだって出来るはずだ。あんたにも居るんだろ、妖精が」


欧斗は老婆の呆れた表情に対して真剣な面持ちを変える様子は無い。それどころかどうにか勝ち筋を追っているといった様子だった。


「あぁ、居るにはいるがあいつは煩くってな、あんまり出したくは無かったんだよ、まぁ見ておけ」


そう言うとシイナは自分のポケットから紫色に輝く宝石を取り出した。


「さぁ出ておいで」


そう言うとその宝石はたちまち輝き出した。中から黒い髪の褐色の肌をした幼げのある女の子が出てくる。魔法使いと言った黒い色服を着ているが、装飾は金や銀に輝いて派手だ。それとは裏腹に肩の出ている涼しげな服のデザインで表情はどこかその軽薄を物語るものだった。


「んっもぉ〜、なーんでこんな所にいつまでも閉じ込めるかなぁ。ひどいよーシイナ、アルちゃんも久し振り〜、それに見ない顔がいるねぇ。誰かなー君」


アルトはその姿に笑顔を浮かべる。妖精はそう言いながら欧斗の顔をマジマジと見つめる。欧斗はその距離の近さに少し動揺を見せた。


「・・・欧斗は馴れ合う気は無いのでそこまでにしてください」


何故かリエルが勝手に実体化をし、欧斗の前に立ち塞がる。


「おぉ、妖精使いなんだ〜可愛いねぇ君。しかも超強そうじゃん」


まるでその場の重苦しい雰囲気を壊すようにどんどん好奇心を示す。

欧斗は冷静な顔に戻り、仕切り直す。


「とりあえず作戦を練る為に君の力を教えてくれ、後名前も教えて欲しい」


それに対しその妖精は笑顔を浮かべながら返事をする。


「いいよー、あたしはエルナ。能力はその子と同じように空気中の魔法とかでマスターの能力を上げたりもできるんだけど、他にもあってね。聞いて驚かないでね」


彼女は勿体ぶりながらわくわくしたような表情を浮かべながら笑顔をしてみせる。


「エルナ、早く教えておやり」


シイナはエルナにそう言い聞かせる。するとエルナもそれに対して頷き、再びを口を開ける。


「千里眼、それがあたしの能力。 十キロ先までならどれだけ壁があってもその中が見えちゃうんだ。 これ超便利だよね〜、でもシイナも色んな能力を持っててさ、あたし達掛け合わせれば最強なんだよね」


欧斗はそれを聞き、何かを閃くような表情をする。


「なかなか凄い能力を持っている・・・!!凄いじゃないかあなたの妖精。ちなみにあなた自身の能力も聞いておきたい」


シイナはため息を吐きながらそれに応える。


「あたしは妖精術士だ、妖精を作ることや操作すること、アルトに教えてやった移動魔法を少しだけ使える程度で他には何もない、もっともアルトと違ってあたしの移動魔法は使い勝手も良くないしな、一度使うのにバカみたいに時間がかかるんだよ、レドラの元から戻って来るのもすら日を跨いだのを知っとるじゃろお前も。まぁそもそも移動魔法すら使える者はそうそうおらんがね」


その二人の能力を頼りに王選当日を除くと今日含め後三日、その間に出来ることを欧斗は淡々と考えるのだった。

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